女性神話は自己実現の物語

一方で女性神話は、ありふれた生き方を脱却し、自己実現をするような生き様を描いた物語があてはまる。

身分や属性のせいでレッテル貼りをされたり、望ましい生き方を期待されたりすることで、親から窮屈な生き方を強制されているような主人公が、自分を見つめ直し、本当の自分を見つけ出す物語である。

『シンデレラ』は自分が望む生き方を勝ち取る物語(画像:イメージ)
『シンデレラ』は自分が望む生き方を勝ち取る物語(画像:イメージ)

これはおとぎ話によく見られて、例えば『シンデレラ』は、意地悪な継母から下働き同然の扱いを受け、初めはそれを受容している主人公が、しかし舞踏会に参加したいという思いを抑えきれず、魔法使いの力を借りて美しく着飾ることで自らが望む姿となり、王子の求婚という世界からの最も強い承認を得て、それを勝ち取る物語である。

もちろん男性神話と女性神話は排他的ではないので、両方の特性を備える物語もある。

『シンデレラ』の例を見れば、継母は自由な世界を目指すうえでわかりやすい障害だ。だから、ある意味で『シンデレラ』を障害を克服する物語と見ることもできる。

ただ、『シンデレラ』で主人公は継母と対決し、打ちのめしたりはしない。知恵と機転で家を抜け出したりもしない。

現代は女性神話が多い

物語の転換点では、シンデレラは魔法使いという庇護者に助けられることで前に進む力を得る(いろいろな話のバージョンがあるが、魔法使いにあたる役は亡くなった実母の墓に植えた木やそこに集まる鳥であったり、シンデレラが生まれたときの名づけ親であったりと、もともとシンデレラを助ける理由を持つ者のようである)。

なぜなら、物語の主題は、主人公がいかに困難を克服するかではないからだ。そうではなくて、これは、抑圧された人生となりたい自分とのギャップ、そこに至るまでの感情の揺らぎ、そして精神の変化の成熟、なりたい自分になれたときの喜び、そういったものを描くための物語である。