だから、自分の言説や個人的な発信にいいねがつき、あるいは拡散されることには本能的な快感が伴う。時にはより目立ち、バズらせるために、本当は書いてはいけないことを書いたり、過激な言説をぶち上げたりする人もいるだろう。

そうして注目されれば、一時的には気持ちよくなる。だが、そうしてSNSで有名になることに、本当に価値はあるのだろうか。

SNSを見ていると、たくさんの成功者の情報が流れてくる。お金持ちであったり、美容に気を使っていたり、ネット論客であったりといった人々だ。

彼ら彼女らは、確かにSNS上で人気を博しているのだが、SNSを離れた現実世界でも、あなたにとって本当に重要な人々なのだろうか。

匿名の仕事術より価値あること

私としては、誰かもよくわからない“シゴデキ”だの“エリサラ”(※2)だのといった匿名ビジネスパーソンの仕事術を読むより、例えば柳井正さんや稲盛和夫さんの著作を読んでいる方がよほど多くの洞察が得られるように思う。

お金を持っている方が偉いなどというつもりは毛頭ないが、巨大な企業を築き上げた経営者の本がいくらでも読めるのに、ただ目立っているからという理由で、実生活がどんな様子かもわからない人の発信ばかりながめているのは、ビジネスの観点で合理的とは言えないだろう。

確かにエンターテインメントとしてならSNSも面白いので、私もVTuberだとか、好きな人のポストを見たいからといった理由でSNSを使うこともあるが、本当に成功している人は、わざわざ自分の価値をSNSで証明しようと躍起になっていはしない。

SNSなどやらなくても圧倒的な実績を出している人は数多くいて、彼らは単にその必要がないか、本業が忙しいためにSNSに姿を現さないだけである。

『きみに冷笑は似合わない。』(日経BP)

山田尚史
開成中学校・高等学校を卒業後、東京大学理科一類から工学部に進学、松尾研究室でAI技術を学ぶ。2011年、ソシデア知的財産事務所に入所。12年、株式会社AppReSearch(現PKSHA Technology)を設立し、同社代表取締役に就任。21年6月よりマネックスグループ取締役、22年4月より同社取締役兼執行役。23年10月に「第22回このミステリーがすごい!大賞」大賞を『ファラオの密室』(宝島社)で受賞。

(※1)https://wearesocial.com/jp/blog/2024/01/digital-2024-5-billion-social-media-users/
(※2)それぞれ、「仕事ができる」「エリートサラリーマン」の略語らしい。

山田尚史
山田尚史

神奈川県横浜市出身。1989年生まれ。開成中学校・高等学校を卒業後、東京大学理科一類から工学部に進学、松尾研究室でAI技術を学ぶ。2011年、ソシデア知的財産事務所に入所。12年、株式会社AppReSearch(現PKSHA Technology)を設立し、同社代表取締役に就任。21年6月よりマネックスグループ取締役、22年4月より同社取締役兼執行役。23年10月に「第22回このミステリーがすごい!大賞」大賞を『ファラオの密室』(宝島社)で受賞。