2025年春闘の集中回答日では、トヨタが5年連続の満額回答となった一方で、日産やホンダは要求額を下回る回答となった。
流通業界でも高水準の賃上げが見られたが、企業の収益力により賃上げ格差が拡大する懸念がある。
専門家は、「業績格差が賃上げの差につながり、政府の支援がカギを握る」と指摘する。

「満額」が相次ぐも明暗分かれた春闘集中回答日

春闘の集中回答日、満額回答が相次いだ。

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春闘のヤマ場となる集中回答日。
高い水準での賃上げが定着するかに関心が集まる中、自動車や電機などの労働組合で構成される金属労協では、次のような回答となった。

フジテレビ経済部・山下あす奈記者:
トヨタが5年連続の満額回答に対し、日産は要求を下回りました。

業績が厳しい日産自動車は、18000円の賃上げ要求を下回る、1万6500円で回答。

ホンダも1万9500円の要求に対し、1万5000円の回答となった。

一方、トヨタ自動車は、職種や階級ごとの賃上げの最も高いケースで、月額2万4450円の要求に対し、5年連続の満額回答。

また日立製作所やNECも、1万7000円の満額回答となった。

自動車総連・金子晃浩会長:
(賃上げについて)厳しい交渉だったなというのが率直な印象。4年前以前と比べると、圧倒的に高い水準での獲得ですので、今の時点での成果は評価に十分値する。

「満額」が並ぶUAゼンセンのボード
「満額」が並ぶUAゼンセンのボード

“満額”がずらりと並んだのは、流通や外食業界などの労働組合が集まるUAゼンセンのボード。

「ガスト」や「バーミヤン」を展開する「すかいらーくホールディングス」は、定期昇給もあわせて平均約6.5%、2万3375円の引き上げで満額回答。
物価高騰もふまえ、2014年の再上場以来最高水準の賃上げ率となる。

12日午後6時ごろ、首相官邸で、政府と経済界、労働団体との「政労使会議」を開いた石破首相は、「今後の中小企業や小規模企業の賃上げに向け、政策を総動員する」と強調した。

石破首相
中小・小規模企業の生産性向上のため、省力化投資、デジタル投資等を促進し、人材・経営基盤を強化する事業承継や、M&Aなどをさらに後押しします。

経団連・十倉雅和会長:
大企業においては、いいスタートが切れて、賃金引き上げのモメンタム(勢い)の定着、それの期待が高まった。

連合・芳野友子会長:
中小、小規模事業所、事業者がどれくらい賃上げできるかがポイント。気を抜くことなく、最後までしっかりサポートしていきたい。

企業の収益力で賃上げに新たな格差の可能性も

「Live News α」では、働き方に関する研究・調査を行っている、オルタナティブワークラボ所長の石倉秀明さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
ーーことしの春闘、高い水準の回答が相次いでいるようですね?

オルタナティブワークラボ所長・石倉秀明さん:
満額回答の会社もあるようですし、賃上げ・ベースアップの流れは続いていくのではないかと思います。ただ、2024年までと少し毛色が変わってきていると思うところもあります。

例えば、業績の良い会社は引き続き満額回答などしていきますが、そうでない会社は、ベースアップ率が少しずつ下がっていくことが想定されます。

堤キャスター:
ーー企業の“稼ぐ力”によって、横並びの賃上げも変わっていくということでしょうか?

オルタナティブワークラボ所長・石倉秀明さん:
そうですね。円安は続いていているますし、物価の高騰で原材料費なども上がっている状況です。そんな中で、会社の収益力などで、差がついてくることになるのではないかと思います。

もちろん仕方ないことではあるのですが、従業員からすると、だんだんと差が出てくることになります。具体的には、手取りの部分での差が広がっていくということですよね。

堤キャスター:
ーー今後の賃上げを考える際に、それが問われていくのかもしれませんね。

オルタナティブワークラボ所長・石倉秀明さん:
そうですね。物価は誰に対しても等しく上がっていきますし、それは社会保険料や税金なども同じです。しかし、賃上げは会社によって差が出てくるとなると、賃上げ率が物価の高騰や社会保険料のアップ分を、上回る人と下回ってしまう人に分かれてくるわけです。

つまり、賃上げしている中でも余裕が生まれる人、苦しくなってくる人のどちらも出てくることになります。もしかすると、この賃上げ施策によって新たな格差のようなものが生まれてきてしまう可能性すらあるのではないかと思います。

また会社としても、賃上げしても社員の満足度などが上がらないとなるのであれば、賃上げのインセンティブもなくなってしまいかねないです。

広がる格差に負担抑制へ政府の対応必須

堤キャスター:
ーーこれ、どうしたらいいのでしょうか?

オルタナティブワークラボ所長・石倉秀明さん:
こういったリスクを解決するのはたった1つで、しばらくは個人の負担額が増えないようにすることですね。これは物価の調整もそうですし、保険料や税金の制度変更などでしかできないこと、つまり政府にしかできないことです。

今まで民間が頑張って賃上げを引っ張ってきたからこそ、次は政府が、その民間の努力を成果につなげる役目をしっかり果たしてほしいなと思います。

堤キャスター:
賃上げがあっても、手取りはなかなか増えていかないように思います。
増えた給料が消費に回って、景気回復の力になる、そんな政策を求めたいです。
(「Live News α」3月12日放送分より)