鋭い上あごが特徴の深海魚「ノコギリザメ」が、長崎ペンギン水族館に仲間入りした。水族館での飼育は国内では珍しいという。強面の新入りはストレスでなかなかエサを食べてくれないが、スタッフは工夫と努力で長期間の飼育を目指す。
オスとメス2匹の“深海の器用者”
長崎ペンギン水族館に仲間入りしたのは、深海魚の「ノコギリザメ」。

2025年1月に長崎沖でのはえ縄漁にかかったオスとメスの2匹が水族館に持ち込まれた。

特徴的なのはその名の通り、まるでノコギリの刃のような「吻(ふん)」と呼ばれる上あごだ。「吻」は“電磁波”を感じることができ、獲物を探す。ヒゲは味を感じ取るための器官。

「吻」は獲物を捕らえたり身を護るなど使い方は多様。獲物が海底に潜んでいればにスコップのように穴を掘り、目の前に現れたら振り回して捕獲したり、叩いたり切り刻む。

生き延びるために「吻」を器用に扱うことから、飼育員は「深海の器用者」と表現する。
「ナーバス」状態の「ノコギリザメ」
長崎周辺の海にも生息しているという「ノコギリザメ」。しかし、私たちが目にする機会はほとんどなく、水族館での飼育例もわずかなことから、謎に包まれていることも多いという。

水族館にやってきたノコギリザメは、深海から海面に上がると圧がかかり、体へのダメージは想像以上だ。外的な環境の変化によるストレスも大きく、現在はかなり「ナーバス」な状態にあり、エサを食べてくれないのが悩みの種だ。
エサやりは30分以上かけて喉の奥へ
これまでも水族館にノコギリザメが持ち込まれるケースはあったが、ストレスでエサを撒いても食べてくれず、長期間の飼育に至らなかった。

そこで今回は、飼育員がノコギリザメを手でつかんで口を開け、エサを直接の喉の奥まで入れることにした。口の中に異物を入れているので無駄に動かすと傷つけてしまう。できるだけエサを直線的に喉奥に落とすようにしている。

エサを飲み込むまでに長い時で30分以上かかることもあるが、互いにケガをしないよう注意しながらのエサやりが続く。上あごを触られることもノコギリザメにとってはストレスがかかるが、まずはエサを食べて体力を回復させることを優先させている。
長期間飼育と繁殖にチャレンジ
ノコギリザメは長崎ペンギン水族館の2階の「深海水槽」で見ることができる。目指すは「長期飼育」と「繁殖」だ。

飼育係の近藤ゆういさんは「普段知られていない生き物の新しい一面を知るために長期飼育に挑戦したい。その上で繁殖を促すことで“ノコギリザメ”という種類をこの先も守っていけるように工夫していきたい」と話す。
水族館で見る機会がほとんどないノコギリザメを多くの人に見てもらい、興味を持ってもらうことで海の環境にも関心を寄せてほしいと思っている。

近藤さんはノコギリザメが新しい環境に慣れるのに3か月ほどかかるとみている。まずは環境に慣れ、自力でエサを食べるようになるのを待つ。オスとメスが持ち込まれたことから繁殖までこぎつけ、謎が多いノコギリザメの生態系を知るチャンスだと話している。
(テレビ長崎)