人の数だけキャリアがある。うまくいったこと、いかなかったこと、仕事、プライベートを含めて人生のすべてが「キャリア」だ。夢に向かって進む人たちのキャリアが、誰かの生きるヒントにつながる。長崎市内で布なぷきんを製作販売する会社を興した女性が幼稚園の園長となり、子育て支援に奔走している。

生きる力を育む「生教育」

長崎市中心部の子育て支援センターに「幼稚園」がやってきた。

長崎女子短大附属幼稚園の「出張幼稚園」
長崎女子短大附属幼稚園の「出張幼稚園」
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長崎女子短大附属幼稚園が初めて行った「出張幼稚園」だ。これまで未就園児親子の交流の場を山手にある園で行ってきたが、親子がより利用しやすいように公共交通機関でアクセスしやすい場所へ幼稚園が移動した。

子供も普段と違う環境に笑顔になる
子供も普段と違う環境に笑顔になる

この日は11組の親子が参加し、保育士による読み聞かせや手遊びなどで楽しい時間を過ごした。

参加親子を見守る大原万里亜園長
参加親子を見守る大原万里亜園長

参加親子をほほえましく見守るのは大原万里亜園長だ。「移動幼稚園」はスタッフのアイデアで、即実行した。2024年4月に幼稚園の園長になった大原さん。伝えたいのは“生きる力”を育む「生教育」だ。

布との出会いが人生を変えた

大原さんは長崎大学教育学部を卒業し、特別支援学校で教師として15年間勤めていた。「子育てに答えはひとつではない」ということを学んだと話す。

大原園長は特別支援学校で15年間教師として働いた
大原園長は特別支援学校で15年間教師として働いた

学校で子供たちは布おむつを使用していた。排泄のタイミングがわかり、子供とのコミュニケーションやスキンシップがよりはかれるようになった。発達段階が一人一人異なる子供と深く関わる中で親との向き合い方も学び、布おむつを通して距離感もぐっと近くなっていった。

2013年に長崎市内に「株式会社りぼん」をオープン
2013年に長崎市内に「株式会社りぼん」をオープン

大原さんは起業家の一面も持つ。2013年に長崎市内に「布なぷきん」を製作販売する「株式会社りぼん」をオープンさせた。

教師時代の経験をいかして3人の娘も布おむつで育て、布のよさを感じていた時に、たまたま知った「布なぷきん」の虜になった。

店で取り扱うのは「布なぷきん」(現在はオンライン店舗)
店で取り扱うのは「布なぷきん」(現在はオンライン店舗)

布なぷきんは女性が生理の時に使うナプキンだ。紙ではなく、布で作られている。肌に触れる部分は肌障りの良いネル生地を、外に見える部分はかわいい柄を使用している。布なぷきんを使うと、経血を子宮で貯めて排せつの時に出すというコントロールができるようになり、子宮が本来持っている機能を呼び起こすことにつながるという。

可愛い柄が幸せな気持ちにしてくれる
可愛い柄が幸せな気持ちにしてくれる

何よりかわいい布を使うことで気分があがる。大原さんは「なんとなくブルーになりがちな気持ちを上げて、幸せな気持ちになってほしい」と話す。

生きてる私はすごい!

販売している布なぷきんは、大原さんの手作りだ。1枚1枚心を込めてミシンで縫う。

学校に出向き、性について話した回数は600回を超える
学校に出向き、性について話した回数は600回を超える

布なぷきんを一緒に作るワークショップも始めた。男性も参加した。布なぷきんを持って学校などで性教育も行った。性について話した回数は600回を超える。

布なぷきんを通して若い人と話す機会が増えた大原さんは、若者について感じることがあった。「何をしたらいいかわからない」と不安を抱く人が多いことだった。

様々な世代とワークショップを実施してきた
様々な世代とワークショップを実施してきた

「ワクワクする、イキイキしている自分を感じる瞬間がないと話す人が多い。これは大人も同じ。やりたいこと、ワクワクできることが見つからないことへのいら立ち。見つけられない私は“ダメなんだ”と自信をなくしている人が多いことに驚いた。“生きてる私ってすごいじゃん“と思ってほしい」と話す。

若者と関わることで再び教育への想いがよみがえってきた時に、長崎女子短大の橋本理事長から園長就任の声がかかった。「自分がやってきたことを幼稚園で還元できるかもしれない」と考え、引き受けたのだった。

「不安解消」には「触れること」

大原さんが幼稚園で心掛けているのは「触れること」だ。何をしていいかわからない、自信を持てない、不安…そういう時こそ「触れること」が何より大切だと、布なぷきんを広めている時に実感した。

触れることで不安が軽減されると話す大原さん
触れることで不安が軽減されると話す大原さん

布なぷきんは女性の最も大切な部分を覆うからこそ、素材には特にこだわった。満月の日のビワの葉がパワーがみなぎっていると聞き、その日に収穫した葉で時間をかけて、染め付ける作業をする。敏感肌用の人のためにオーガニックコットンを探した。想いを込めて手作りした布なぷきんに守られることで、安心感を覚えたと話す女性は多い。

子供が帰る時は必ずハイタッチをする
子供が帰る時は必ずハイタッチをする

「今の時代、触れることが極端に足りないと思う。不安の解消は“触れてあげること”ではないのか。幼児期から触れ合うことで、安心感が育つ」。大原さんは教師時代、自身の子育て、布なぷきんと「布」をまとう、「触れる」ことで心が落ち着くことを悟ったのだった。

幼稚園では子供が帰る時、大原さんは必ず手と手を合わせてハイタッチするようにしている。目と目を合わせることを忘れない。

私の転機:仕事を辞めて家族を選んだとき

常に自分の想いに向き合い、大切だと思うことをとことん追求してキャリアを築き上げてきた大原さん。キャリアの転機は「仕事を辞めたとき」だった。

2008年にご主人の転勤で広島県尾道市に引っ越した。大原さんは教師を辞めて家族と暮らす道を選んだ。「この時は自分が何者かなんてわからなかった。3人の娘を育てることが本当に楽しかった」と振り返る。

尾道では子供たちも一緒にワークショップを行った
尾道では子供たちも一緒にワークショップを行った

転勤族が多く、仲良くなるためにママたちが集まって自分の趣味を人に教える時間が増えた。自分も教える立場になったときに、大原さんが選んだのは「布おむつ」だった。いろんな話をしながら縫うことが楽しく、出来上がった布おむつを子供に使うと子供への関わり方も変わった。次は布つながりで「布なぷきん」を作ってみた。これがのちの起業へとつながった。

尾道時代の経験が起業へとつながった
尾道時代の経験が起業へとつながった

「家族の幸せを選んだ結果、自分が持っているつながりや知識を周りにシェアすることになった。自分も楽しく、周りを楽しませることが自分の強みだと気づいた」と話す大原さん。いったん手放してみたら、自分の大事なことが見えたのだった。

得意の場づくりでママを笑顔に

幼稚園では毎月、園長室にママたちが集まる時間がある。保護者向けの勉強会「マミーラボ」だ。子育てから少し離れて、ママたちが楽しめる時間を作れたらと大原さんが企画した。ヨガ、アロマ、占い…講師は大原さんが起業して繋がった人たちだ。

ママたちが集まる「マミーラボ」。この日はコーヒーの淹れ方教室
ママたちが集まる「マミーラボ」。この日はコーヒーの淹れ方教室

この日はプロから「おいしいコーヒーの淹れ方」を教わった。ドリップコーヒーをおいしく淹れる術を学び、ママたちからは笑顔がこぼれた。

ママたちの笑顔がこぼれる時間だ
ママたちの笑顔がこぼれる時間だ

コロナ禍で親たちの集まりが減り、友達を作る機会が減っていた中で、得意の場作りでお母さんたちをつなぐ。クラスや年齢を超えて親同士が親しくなるきっかけになった。「園に参加できている感じがする」「気さくに話しかけてもらえてうれしい」と、ママたちもこの時間をとても楽しみにしている。

「認定こども園」で地域をつなぐ架け橋に

幼稚園は「認定こども園」への移行を計画中だ。幼稚園が地域の人達が集まる中心になり、子供たちに多くの大人が関わって一緒に育てる場になればと考えている。

幼稚園は定期的な避難訓練の実施で表彰された
幼稚園は定期的な避難訓練の実施で表彰された

「多くの人が関わることで子供の視野も広がる。さらに大人たちも自分が役に立つことで自信につながる。幼稚園が地域をつなぐ懸け橋になれたら」と将来を見据える。

 
 

大原さんはこれまで培った人脈と自身の経験を活かしながら、地域に愛され安心できる幼稚園作りを目指している。

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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