焼津市の市議会議員が人気格闘技イベントのオーディション番組に出演したことが波紋を広げている。公人といえどもプライベートは認められて然るべきだが、番組に議員記章、いわゆる議員バッジを着けて参加していたからだ。
議員バッジを着用し格闘技イベントに…
総合格闘家・朝倉未来 選手が発起人の1人となり、“1分1ラウンドで最強を決める”というルールのもとプロアマ問わずに激突する格闘技イベント「ブレイキングダウン」。
2021年の旗揚げ以来、主に若年層を中心に人気を集めている。
焼津市議会の石原孝之 議員は2023年10月、このブレイキングダウンの出場選手を募るオーディション番組に出演。

その際、議員バッジをつけていたため、別の議員あわせて19人から「議員としての品位と名誉を害するような行為」と問題視され、焼津市議会が定めた条例の政治倫理基準に違反している疑いがあるとして、政治倫理審査委員会での審査を請求されるに至った。
当該オーディションの様子は今もYouTube上に公開されていて、「静岡県焼津市から来ました市議会議員をやっている石原孝之です」と名乗った上で、確かに議員バッジをつけている様子が確認できる。
とはいえ、石原議員の行為はもちろん公務ではなく、プライベートでの出来事だ。

ただ、政倫審は「議員活動とはまったく関係ない私人としての行動に関する問題について判断することは慎重であるべき」と前置きしつつ、「本件は議員である証のバッジを着け、焼津市議会議員と名乗った行為に対し多くの抗議や苦情が寄せられた」との理由から審査の対象とすることを決めた。
なぜ議員バッジ着けて参加?
2024年12月に開かれた政倫審の中で石原議員は「運営側から仕事がわかる格好で参加してほしいと指示があった」と説明し、「若者に人気のYouTubeコンテンツに出ることにより、より多くの若者に市政に興味を持ってもらい、私自身、身近な議員として存在するため。存在を認知してもらい、私の普段のSNSの投稿や地域での活動、市政のこと、私の思いに触れてもらうという狙いがあった」と弁明。

また、「バッジを着けて参加するというところに関しては個人の判断でもあるし、その規約がない以上、いま現在バッジを着ける、着けないに関して曖昧で線引きもない。地域の祭りや地元の葬儀に参加する時など議員バッジを公務外で着けている事実もある」とも主張した。
事前の取材に対しても、石原議員は「モラルというのはそれぞれの感覚によって違いがある。別にモラルに反したことをやっているとは思わない。ちゃんと仕事はやっているし、プライベートでのオーディション。大多数の方は『おかしい』とか『ん?』とか思うのはわかった上。議会・政治の仕事を見える化したい思いがあり、若い人の投票率が下がっていたり、選挙離れが続いていたりというのをすごく危惧していて、少しでも若い人の目線で『あ、こんな議員がいるんだ』ということを知ってもらいたいというのが意図」と述べている。
一方で、2023年11月の議員全員協議会では「議員活動とまったく関係ない」と発言していたという。
政倫審は「条例違反」と判断
このため、政倫審は「議員バッジについて焼津市議会では規程は定めていないものの、バッジは議員の証である身分証であることに何ら変わりはない。オーディションに参加するという私人としての活動は自由であるが、完全にプライベートであるならば、バッジを着ける必要性はなく、議員と名乗る必要性はない」と指摘。
その上で、「オーディションの選定を自己に有利にするために議員の立場を利用したという疑念を払拭することはできなかった」との見解を示し、石原議員が自身のSNSにテレビニュースの動画や写真を許可なく掲載するなど著作権侵害のおそれがある行為も見受けられ、「議会から注意があっても削除しないことは遵法精神が希薄であると言わざるを得ない」こともあわせて、石原議員の行為は「市民全体の奉仕者として、その品位と名誉を害するような行為」に当たり条例に違反すると結論付けた。

他方、議員記章(議員バッジ)の着用に関する基準が不明瞭であることを理由に、政倫審は「議員記章の意義、着用基準等を議員の共通認識とするため、議員記章に関する規定の整備について検討することを求める」との附帯意見もつけている。
石原議員は弁明書の提出を検討
政倫審による審査結果の報告を受け、石原議員はSNSを更新。
この中で「これが悪しき議会体質の焼津市議会 私のような一人会派を 公でフルボッコにして 村八分にする風潮が 是々非々の政治家が生まれず 正当や会派の顔色を伺うだけの サラリーマン議員(政治屋)しか 生み出されないことが 焼津市の未来にとって 日本の未来にとって どれほど致命傷か あなたには、わかりますか?」(原文ママ)と不満をあらわにし、「自分たちが さもまともな議員であるように見せるために 正論のようにマウントをとる どんな説明責任を果たしても 真実の情報を出しても 覆されないように自分たちの 優位になるような解釈と情報の出し方をする 結果、政倫審が出したい結論に、 着地させたい内容にもっていく(中略)納得がいかないので 2週間以内に弁明書を提出するか考え中である」(原文ママ)と記している。
なお、今回の政倫審では石原議員が政務活動費を使用して実施した行政視察に関して「『通訳以外は1人で行った』と事実とは異なる虚偽発言をした疑いがある」という点も審査され、調査の結果「虚偽の発言であったと判断せざるを得ない」と認定されたほか、市議会議員の視察に市政と関係のない自身が役員を務める法人の職員を同伴させていることは「公私混同と言わざるを得ない」と断じている。
(テレビ静岡)