性教育をいつから始めたらいいのか、お風呂はいつまで一緒に入っていいのかなど、性について子どもとどう向き合えばいいのか、わからないという親も少なくないはず。親や子どもの性の悩みや思春期の心と体などをテーマに性教育を行っている女性を取材すると、“令和”の性教育が見えてきた。
「NO!」と言える勇気を 迷っている時も「NO!」
長崎県大村市の国立病院機構長崎医療センターの麻酔科の医師であり、性教育認定講師でもある岡田恭子さんは2020年から学校や保育所などで性について学ぶ講座を行っている。

この日は長崎市内の小学校を訪れ、保育士の原千佳さんとともに小学4年生から6年生30人に「自分の心と体を大切にするために」というテーマで話をした。

岡田さんは児童たちにさっそく問いかける。「体で大切な場所はどこですか」という質問に子供たちからは目や頭、心臓など様々な答えが返ってきたが岡田さんが伝えたのは。
医師・性教育認定講師 岡田恭子さん:正解は全部、自分の体で勝手に触られていい場所は1つもありません。大人であっても学校の先生でもそうです

そして、自分の心を体を守る方法を教えるために取り出したのは巨大なサイコロだ。「握手する」や「手をつなぐ」「頭をなでる」など6種類のスキンシップの絵柄が描かれていて振って出た目の行為をしてもいいかと相手に同意を得るというルールだ。児童たちもサイコロを振り、友人同士で「握手してもいいですか」「いいよ!」などと「相手の同意を得る」練習をした。
中には「ハグしていいですか」に対して「NO!」ときっぱりと断る子供もいたが、嫌だと思ってもはっきりと言えず我慢してしまう子供も多く、普段から相手に同意を得ること、嫌な時はもちろん、答えに迷う時にも「断る」勇気を持つことが大切だ。

医師・性教育認定講師 岡田恭子さん:みんな下ネタってしない?パンツを下ろしたり(いたずらで肛門に指を突き刺す)浣腸したりする人いない?よその学校では結構ある。それが面白い、楽しい、皆、盛り上がるいいことだ、それを嫌がる子がいることを知らなかった。仲間内だけだったらしてもいいじゃんという子もいる、その時は同意を得る

性教育を受けた児童たちは「自分は友達に抱きつく側なので、少し控えようと思った」や「自分の気持ちも、相手の心・同意や許可が大事だなと思った」「普段は我慢してしまう、人を気にしてしまうので気にしないでいいんだなと思った」と子供達も「自分と相手を大切にするルール」を学んだ。

岡田さんはこのほかにも「口や胸、おしりなど特に大事な部分、プライベートゾーンは『見ない、見せない、触らない、触らせない、写真を撮らない』こと、直接会ったことがない人に『個人情報を教えない、写真を送らない』などのルールも教えている。
性被害に遭う児童数は9年前と比べて3倍以上
幼い頃からパソコンやスマートフォンを手にする令和の子供たち。SNSやアダルトサイトなどの有害コンテンツに触れることを避けるのは難しいのが現状で、親など周りの大人が気付かないうちに子供が「つながって」しまい、自分の心と体を守るためのルールを知らないことで、性被害に巻き込まれてしまう小学生は急増している。

警察庁によると、SNSに起因する性犯罪などの被害者数のうち小学生は全国で139人、2014年度に比べて2023年度は3倍以上となっている。SNSなどに「つながる」こととあわせ、「知らないこと」も性犯罪の被害や望まない妊娠につながると岡田さんは警鐘を鳴らしている。
医師・性教育認定講師 岡田恭子さん:14・15歳の妊娠は知らないことで起こってしまう、好きな人じゃないと妊娠しない、妊娠は奇跡だと思っていた。知らない子ほど狙われる、知識のある子は逃げるし、大人に伝える。知識のない子は怒られるかもと相談できずに気付かないうちに加害者になる可能性もある
岡田さんはそんな性被害の被害者や加害者を一人でも減らしたいと活動を続けている。
嫌なことをされたら「NO!GO!TELL」 信頼して相談できる大人はいますか?
1人で抱え込まないためにも、性の問題であっても普段から人に「話す・伝える」習慣をつけることが大切だ。

嫌なことをされたら「NO!(嫌だ!やめてという)」「GO(人がいる方に逃げる)」「TELL(秘密だよと言われても大人に話す)」ことを普段から子供に伝えるのが大切だ。ただ性犯罪は身近な人からの加害ケースも多く、「親が悲しむから親には話せない」「迷惑をかけたくないので話せない」と抱え込んでしまう子供もいる。嫌だと思っていても「NO」と言えなかった時、「どうしてできなかったのか?」と子供を責めるのではなく、否定せずに「話してくれてありがとう」と子供の話を聞くことが大切だ。

岡田さんは、相談する相手は親でなくても別の信頼できる大人であってもいいとした上で、講座で子供達に「相談できる大人が3人いますか?あなたの意見を聞いてくれる人、あなたはどう思う?って聞いてくれる人、断っても怒らない人、あなたの話を聞いて危ない時は教えてくれる、悪いところは叱ってくれる大人。たまに僕に相談したらいいことあるよってよく触ってくる人は注意。断ってもやめてくれない、断ったら機嫌が悪くなる人、2度と誘わない!という人は違う、すぐに離れてください。」と注意を呼び掛けた。
世界に遅れをとる日本の性教育
岡田さんのような外部講師に性教育の指導を依頼する学校は増えている。その背景には学校での性に関する指導が欧米だけでなく、アジアの国々と比べても遅れていて、時代に合っていないことが挙げられる。

2009年にユネスコがつくったガイダンスでは性教育は5歳から段階的に始めることが推奨されているが文科省の学習指導要領では10歳ごろからとされ、国際基準との間に大きな隔たりがあるのが日本の現状だ。

学校では、小学4年生で月経や体の変化、中学生では生殖のメカニズム、高校生になると避妊や人工中絶などについて学ぶが指導時間はごくわずか。「性交」については一貫して取り扱わない、いわゆる「歯止め規定」も日本の性教育が不十分だとされる要因だ。一方、時代に伴って生活環境や発育状況は変化しているため、子供たちが自分の体について学ぶタイミングを早めた方がいいのではという声もある。
養護教諭:月経が3年生の終わりから始まる子がいて、体の変化については4年生の冬に勉強するのでその間に月経が始まってしまう子はびっくりしたり不安になったりということがあるので3年生あたりで性教育を始める必要があるのでは
学校、地域と連携をとりながら進む令和の性教育。医師として働く岡田さんは以前、精巣(睾丸)が腫れて病院を受診した男児がいて「下半身のことだから恥ずかしくて言えなかった」と受診が遅れたケースがあったという。「普段から恥ずかしがらずに家族同士で体のことについてきちんと話していていれば…。病院に来て薬ではない。患者ではなく、その手前でなんとかできないか」との思いを持つようになった岡田さん。学校・地域だけではなく、まずは身近な大人が子供達に正しい知識を伝えるための「学び直し」が必要だと強調する。
大人は何をどう学び直したらいいのか。
(【後半】「思春期の子供の「親や先生の言いなりになるか!違う!ウザッ!きも!」に親はどうすべき?令和の性教育で大人が学び直す必要性)
(テレビ長崎)