「赤ちゃんはどこから出てきたの?」5歳までに9割の子供が疑問に思うこの質問にあなたはなんと答えているだろうか。性について話すことに抵抗感があったり、恥ずかしい、子供にどう伝えていいのかわからない世代はいまこそ、性について「学び直すべき時」だ。
思春期の子供の「違う!うざ!きも!」に親はどうすべき?
大村市の国立病院機構長崎医療センターの麻酔科の医師であり、性教育認定講師でもある岡田恭子さんは、小学校や保健所などで性教育を行っているが、まずは「大人」が意識を変え、学ぶことが重要だと考えている。

岡田さんは児童だけではなく、親など大人を対象にした講座も多く開いている。この日は長崎市内の小学校に通う4年生から6年生の保護者を対象に、思春期の心と体の変化について話をした。
医師・性教育認定講師 岡田恭子さん:大人の体へと変化する中で、心も大きな変換点を迎える時期が来る。子供が抱えるモヤモヤで親に対してイラっときたり、涙が出たりすることがある。自分がああしたい、こうしたいと強く思う時期がくる、親や先生の言いなりになるか!違う!うざ!きも!ってなってきます。

岡田さんによると、頭と体の成長には“タイムラグ”があるという。
「体はどんどん大きくなるけど、頭の成長は2年遅れると言われている。英語であなたの気持ちを説明してと言われるのと同じぐらい言葉が出てこなくなる」と子供自身も心と体の成長にとまどい、自分ではどうすることもできない感情と対峙しているという。
また思春期で起こることについて岡田さんは次のようなことを挙げる。

「自分が決めたことを間違っているかもと不安になる」「親や先生の言う通りにしなきゃいけないのかなと思う」「周りの目が気になる、周りと比べる」「本音が言えない」「失敗するのが怖い」「感情が敏感になってすぐに満タンになってしまう」「漫画や映画を見て号泣する」「イラっとすることを言われて何かを殴る」などだ。
こうした子供の行動を親は思い通りにならないため「反抗期」だと捉えてしまいがちだが、岡田さんは「反抗」ではなく「ホルモンのせい」だとし、「あ、いまホルモンね、OKちょっと離れとく」と大人は待たないといけないと話す。そして、思春期以降は子供の体に触れる「タッチング(抱きしめたり、手をつなぐなど)」から、子供の言葉に耳を傾ける「リスニング(顔を見て耳を傾ける)」に重点を置くことが重要だという。ポイントは「褒める・叱る」より「否定しないこと」。子供の気持ちや言葉を否定したり遮ったりせず最後まで話を聞くことで子供は安心し、親に悩みや困ったことを話すようになるという。
「あなたが大切だよ」子供にどれだけ伝えていますか
いまの日本の高校生の8割近くが「自分に自信がない、自分はだめな人間だ」と考えているデータもあり、岡田さんは「そう思わせてしまうのは周りの大人だ」と指摘する。

「10歳までは大切、かわいいね、って言ってきたのを自分がこうしたいというのが出てくると大人からすると「反抗」と言っちゃう。子供からしたら自分の意見を言ったのに何で怒られるの?て大人からすると自分のいう通りにしてくれるかわいい子供だったのにって。」
岡田さんは思春期の子供の心の変化を受け止め、子供に伝えてほしい言葉があるという。
医師・性教育認定講師 岡田恭子さん:自分を好きになろうとしなくていい、ポジティブじゃなくてもいい、自分の好きな部分も、嫌いな部分もあっていい、失敗してもいい、不完全でもいい、私は私のままでいい、あなたが大切だよって伝えることが性教育です。命を大切さを伝えてもらった子は自分を大切にできます。意見の違う相手を尊重できます。性教育をすることでみんなが自分らしく生きられる多様性と調和が認められる社会になると思っています
正解はない!子供と一緒に学ぶことが大事
筆者自身も4歳と8歳の子供を持つ親として悩みは尽きない。「おしりや下半身をすぐに出そうとするがこのままでいいのか」「アニメの女性の胸部に目がくぎ付けになるけど大丈夫かな」など、性教育は大事なことだとわかっているものの、子供にどう伝えたらいいのか、正解がわからない場面がある。
小学校の頃には保健の授業で「月経」など体の変化について話を聞いた記憶はあるが、当時は男女別々の教室に分けられたことで「男子には話してはいけないことなんだ」「男子はどんな話を聞いているのかな」など、“性”について人前ではあまり触れてはいけないことだと捉えるようになった。

こうした世代について岡田さんは「昭和の性教育で止まっている人が多い、汚い、恥ずかしい、人前で話してはいけない、どう伝えたらいいか全然わからない。5歳までの9割の子が聞きます。赤ちゃんはどこからくるの?って私も聞かれました。そんなこと知らんでいい、汚いから聞かないで脅し否定決めつけ、指示・命令、聞いてくるのは反抗だし子供も相談もできない状況だった。」と指摘し、いまこそ「大人が学ばないといけないことが多い」と話す。
性について疑問を持った子供に対して「汚い・恥ずかしい」は、いまはNGワードで、いまは「それはすごい大事なことだよね、ママも知らないからこの本を一緒に見てみようか、体って不思議だね、おもしろいね」でいい、関心を持ってあげることが大事」と、岡田さんは性教育は昭和から令和へとアップデートする必要性を訴えている。

講座を受けた保護者からは「まずは親が恥ずかしがらずに、悪いことではない、性教育と聞くと「えっ!」となるけど大事なことだから子どもに伝えようと」や「聞かれてもごまかしながら答えていたのでそうしなくてもいいんだなと、子どもと一緒に勉強していいだなと」と、子供と性について向き合うきっかけができたようだった。

岡田さんはこれまで出会った「性」に関する本を講座で紹介している。その数100冊以上だ。
体のつくりの変化だけでなく、性被害、DV、生と死、ネット上の情報選択、自分らしさ、性の多様性など幅広く、性は人が生きること全てに関わる「人性(生)」でもあるとも感じる。絵本もあり幼児期から学べるものもあるが、思春期の子供には部屋にさりげなく本を置いておくこともいいという。

岡田さんは「一度、教えればいいのではなく、幅広い内容を発達段階に合わせて繰り返し、伝えることが重要だ」と話す。岡田さんは大人も気軽に相談できるようにと「ママの保健室」というグループLINEも立ち上げている。看護師や保育士などがメンバーで身近な性の悩みや情報共有の場で誰でも登録でき、質問や相談を受け付けている。
自分の心と体は自分だけの大切なもの。自分も、相手も認め合い、尊重しあえる社会へ。
普段から性に関する話題に対して身構えることなく、子供たちと話をしたり、本などに触れる習慣をつけることで性犯罪の被害者・加害者を一人でも減らし、自分らしく生きられる社会になる一歩となるのかもしれない。
(テレビ長崎)