食の雑誌「dancyu」の元編集長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。
植野さんが紹介するのは「いかめんち」。青森県弘前市にある居酒屋「土紋」を訪れ、イカをタマネギと合わせてフライパンでこんがり焼き上げた一品を紹介。
“東北を代表する名酒場”と呼ばれる店の夫婦二人三脚物語にも迫る。
地元で愛される市場「虹のマート」
植野さんが青森県弘前市(ひろさきし)にやって来たのは、ぜひとも行きたい店があるからだそう。
「10年ぐらい前に、(青森に)来たんですけど、飛行機に乗り遅れるくらいギリギリまで飲んでいた店がありまして。“次来たら、また来たい”と思った店」と話す。

今回の目的地、居酒屋「土紋」があるのは、弘前駅。その前に立ち寄ったのは、弘前駅から徒歩5分の場所にある市場「虹のマート」。
地元で愛されて、約70年。鮮魚や総菜など、青森の美味しいものがたくさんある。そして、購入した物をイートインスペースで食べることもできる。
10年越しに訪れた青森の名酒場
その市場から歩いて10分の場所にあるのが本日のお目当て、居酒屋「土紋」だ。

1983年に開店し、愛されること42年。店を営むのは“青森の父と母”と慕われている工藤清隆さんと妻の賀津子さん。

店内は使い勝手のいい小上がりとカウンター席がある。カウンターの上には、青森らしいねぷたの絵と、ご主人のイラストがあり、常連が描いてくれたようで、とても似ている。
居酒屋の定番から津軽の郷土料理まで“飲んべえ”にはたまらないラインナップだ。

さらに、「土紋」に置いている日本酒は、すべて弘前の銘酒・豊盃。津軽りんごを思わせる蜜のような甘さとほのかな酸味の調和が美味しい酒。
驚くのはその数で、製造する三浦酒造から直接仕入れており、常に20種類以上を取り揃えている。このお酒と料理を目当てに、「土紋」には全国から客が訪れているそうだ。
地元の銘酒に絞り愛される店へ
もともとは、病院の食堂と薬局で働いていた工藤さん夫婦。
お酒が大好きだった2人はそれぞれ仕事を辞めて1983年、居酒屋「土紋」を始めた。「単純な考えでやったのが大間違いで、3年間は悲惨でした。食堂みたいに“月見そば”や“カレーライス”などをやっていました」と清隆さんは振り返る。

それから、店を変えるため、まず見直したのはお酒だった。これまでは全国のさまざまな日本酒を扱っていたが、個性を打ち出すため地元・弘前の銘酒「豊盃」一本に絞る決断をした。
料理も「豊盃」に合うものを提供したいと考え試行錯誤する。

すると地元・青森で愛されてきた料理が自然とメニューに加わっていった。
「いかめんち」も、実は清隆さんの母親がよく作ってくれたお袋の味だという。
卸売市場の仲卸とは40年の付き合い
青森の普通で美味しい料理はどのように作られているのだろうか。工藤さん夫婦の日常をのぞかせてもらった。
午前7時半、清隆さんが毎朝欠かさず行うのが食材の買い出し。向かったのは、卸売市場。購入したのは、見事な筋子やマグロなど。約40年通っているため、仲卸とはあうんの呼吸だ。

開店の1時間半前から仕込みを開始。黙々と手を動かす賀津子さんは、筋子を細かく手でちぎっている。
一方の清隆さんは、イカと格闘中。粘り気が出るまでイカをたたき続ける。手間を惜しまず料理と向き合う、“飲んべえ”をとりこにする味わいの秘訣はこれだった。

本日のお目当て、土紋の「いかめんち」。
一口食べた植野さんは「こりゃうまいや!いかのうまみ・風味がうわっと出るのはすごい」と絶賛した。
土紋「いかめんち」のレシピを紹介する。