被爆者の思いと平和への願いを歌にこめ、手話ダンスとともに伝えるパフォーマンスが、広島市の「二十歳を祝うつどい」で披露された。被爆80年の2025年、被爆者の思いを歌にしたアーティストと手話ダンスチームのコラボを取材した。
被爆者の思いをこめた歌と手話ダンス
1月13日、広島市内で行われた「二十歳を祝うつどい」。

未来を担う若者たちに向けて披露されたのは、広島出身のアーティストHIPPY(ヒッピー)さんが歌う「日々のハーモニー」。手話ダンスチーム「Sign(サイン)」による歌詞の手話ダンスが歌を盛り上げる。

この曲は、HIPPYさんが被爆者の岡田恵美子さんから話を聞き、被爆体験伝承プログラムを通じて2020年に作り上げたものだ。

被爆者の岡田恵美子さんは、当日朝、12歳の姉が「建物疎開に行ってきます」と言ったきり帰って来ず、両親が毎日姉を探したが見つからなかったこと、死亡届を出していないため、被爆50年を迎えるまで原爆死没者名簿に名前が入っていなかったことをHIPPYさんに伝えた。

HIPPYさんは「被爆を体験していない自分が、どう伝えるかが一番難しいところ」と応じたが、岡田さんは「伝えていく方法はどんな方法でもいいから伝え続けてほしい」と思いを託した。
岡田さんの思いを歌詞にこめてHIPPYさんは2020年に「日々のハーモニー」をつくった。被爆体験だけでなく、それを受け継ぎ未来へつなぐ人々の思いも描いている。
「受け継ぐ思い」を手話ダンスで伝える
「日々のハーモニー」をダンスで表現したのは、手話ダンス甲子園初代チャンピオンのチーム「Sign」。

代表の菊田順一さんは、この曲を「広島から発信できる特別なメッセージ」として、手話ダンス甲子園でも披露してきた。

チーム最年少の中学2年生、田丸友彩(たまる ゆい)さんと草譯心美(くさわけ ここみ)さんは、小学生時代からこの曲を踊り続けてきた。

田丸友彩さんは「『身近な今ある幸せ』という歌詞が、戦争や原爆があった時代は、今の当たり前がなかったことに気づきグッときた」と歌詞に心を動かされたことを明かす。

草譯心美さんは、「2番の始めが『受け継いでいく』という歌詞で、自分たちがまさに受け継ぐ側だから」と語る。
手話を交えたダンスは、単なる振り付けに留まらず、被爆者の思いや平和の願いを視覚的に伝える表現として多くの共感を呼んでいる。
被爆80年、未来への平和のバトン
式典当日、HIPPYさんとSignのメンバーは「自分たちが楽しむことが笑顔を広げる」と前向きな気持ちでステージに立った。歌とダンスを通じて伝えたのは、被爆者が遺した「平和を守り続けてほしい」という願いだ。

2025年の8月で、あの日から80年を迎える。被爆した人たちの多くが亡くなり、HIPPYさんに「帰らなかった姉の姿」や「家族が姉を探し続けた日々」の苦しさを伝えた岡田さんも、2021年に亡くなった。

田丸さんと草譯さんは、歌詞の思いをこめて手話ダンスを踊った。
HIPPYさんは「先輩たちが頑張って作ったこの景色を守っていく。もっともっと素敵に築いていくことが僕たちのやることなのかな」と未来への希望を託し歌う。

<♪日々のハーモニー>
昔々 今と変わりない暮らしの灯火
素晴らしいこの街の景色
塗り返せない悲しみ誰が信じよう
ただいま ただいま
まだ君は帰ってこないよ
夢も希望も家族や恋人も
家も仕事も生き甲斐も全部なくなった涙も
空が泣いた それは昨日のこと
身近な今ある幸せ 気付こう 築こう
素晴らしいこの街の景色
立ち上がった故郷に ありがとう
おかえりって言えるように
この街を守っていくよ
鳴らせ この命 過ごす日々のハーモニー
足跡はメロディー あなたと一緒に
(テレビ新広島)