かわいい鬼の絵で知られる熊本・美里町在住の画家・瀧下和之さん。6冊目の画集刊行を記念した新作展が1月15日から熊本市の鶴屋百貨店で開催されている。注目の人気画家の素顔に迫る。

熊本・美里町在住の画家・瀧下和之さん

鬼ヶ島で自由に遊ぶかわいい鬼たち。2000年から描き始めた桃太郎が出てこない『桃太郎図』はシリーズ1000作を達成した。

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1月15日から熊本市の鶴屋百貨店で始まった美里町在住の画家・瀧下和之さんの新作展だ。6冊目の画集刊行を記念して全国9カ所で開催される。

瀧下さんは「3年ぶりの熊本の個展なんですけど、すべて作品はこのために描き下ろした30点ほどなので、ここでしか見ることができないものですし、果物を入れた作品は、熊本の名産を描いていたりもするので、そういったところを見てほしいですし、風神雷神も普段は富士山をバックに描くんですけど、熊本城を描いていたりとか、熊本らしい作品もいくつかあるので、ぜひ見てほしいです」と話した。

新作展に訪れた人は「毎回違う絵やデザインがあるものですから、それがもう楽しみで楽しみで…。新しい作品ばかりですからすごいですね」や「とてもかわいいけど、ダイナミックで熊本ご出身なので、親近感も湧いているので、原画はなかなか手に入らないので、もう即決させていただきました」と話す。

瀧下さんは「15年ほど前、1冊目の画集を出した時から2~3年おきに画集を出していきたいと考えていて、今のところ、それ通りにちゃんといっているので、もう7冊目の構想も実はあるんですけど、それを本当に楽しみにしていただきたいと思ってます」と話した。

きっかけは子どもの頃に読んだ『キン肉マン』

瀧下さんは1975年生まれの49歳。この世代の画家で6冊目の画集を出せるのはきわめて稀だそう。木のパネルに鉛筆で描き、その線を彫刻刀で彫っていく。

そして、アクリル絵の具で何度も色を重ねる深みのある色合いを「漆器のようだ」と評する声もある。手が届くところに数枚のパネルを置いて同時進行で描いていく。並んだパネルの数々は注文を受けたもので完成はまだまだ先のものが多いという。

瀧下さんは「2年待ち、3年待ちとか待っていただいている中で『これを描いてください』と言われても、すぐ描けるわけじゃないので、描き出せるまでの間に、案を煮詰めるというか、画面を置いたときに筆が止まることはないので、どんどんアイディアが今たくさんあって、行き詰まることは全くないです」と話す。

絵を描き始めたきっかけは40年前、子どもの頃に読んだ漫画『キン肉マン』だった。チラシの裏にキャラクターたちをまねして描き、絵の楽しさを知った。

憧れの作者・ゆでたまごの2人と会う機会に恵まれ、2024年にコラボ企画が実現。東京で開かれた『アートフェア東京』の出展ブースには、瀧下さんと『キン肉マン』、両方のファンが駆けつけ、大盛況だったという。

瀧下さんは「『阿修羅マン』という、手が左右に3本ずつある(超人)とジャンケンをしている赤鬼。『阿修羅マン』がグー、チョキ、パー、全部出して、赤鬼は何やっても勝てない。普段の作品でも遊び心を結構重視しているので、それがよく出せている絵だと思います」と話した。

『ゆでたまご』の2人がアトリエを訪問

2024年8月、漫画家コンビ・ゆでたまごで原作を担当する嶋田隆司さんが瀧下さんのアトリエを訪れた。

瀧下さんは「僕は赤が好きなので、赤を最初どこにやるかを決めるんです。そこと対比させながらいろいろな色を考えて、最近、意識しているのは、ちょっと明るめの黄色を絶対どこかに入れると、絵が完成した時にすごく印象が明るくなる」と、こだわりについて話す。

嶋田さんは「瀧下先生の作品を見たときに『これ漫画やな』と思ってユーモラスだし、ちょっと目力があって怖い面もありますし、すぐにビビッときて、大の『キン肉マン』のファンだと分かりまして、自分たちがそれだけ影響を与えたんだなというのが光栄で、本当に漫画をやっていてよかったなと」と話した。

また、嶋田さんは「(今の漫画家は)原画展ができないんです。パソコンやタブレットで(漫画を)描くので。やっぱりキャンバスに向かって描くのは迫力が全然違いますし、だから瀧下さんの絵も絶対そうだと思うので」と、実際に筆で描く絵の力強さに触れた。

そして、11月にはゆでたまごの作画担当・中井義則さんも瀧下さんのアトリエを訪れた。

中井さんは「キン肉マンの影響を受けてなんて、そんなうれしいことを言ってくれて、逆に励まされますよね。自分の地元でやっていらっしゃるのが、すごくいいことだと思いますし、ちょっとうらやましいところがありますね」と話した。

2024年11月、母校の後輩たちを前に話す瀧下さんの姿があった。同じ年頃に絵を描く楽しさを知り、そして、今がある。

瀧下さんは「よくやるんですけど、難しいのが出てきましたね。ドラゴンボールとか。なんとかこなせてよかったし、全く知らないアニメが出てきたら本当どうしようかと思いましたけど。ちょっと視野を広げてもらえればなと。こういう職業もあるんだなと、ちょっと気に留めてもらえると。ほかにも絵描きだけじゃなくて、いろんな仕事がその先にもあるんだろうなと気にしてもらえればいいなと思います」と話した。

熊本市現代美術館の冨澤治子学芸員は「いろいろな作品を作る世代なんだと思うんですよ。瀧下さんは人とつながって自分の世界を広げていくタイプの作家さんで、それはやっぱり今の時代、すぐ飛行機でどこかに行けちゃうとか、東京行けちゃうとか金沢行けちゃうとか、そういう時代性とか本人のポテンシャル、そういうことがやりたいと思ったらできる時代という時代の作家さんならではだなというところはあります」と、瀧下さんを評価した。

講演を聴いた児童は「すごいと思いました」や「勉強になったし、左手で描けるのがすごいと思いました」と、人気画家の技術に驚いたようだ。

個展のスケジュールは数年先まで決まる人気

この愛嬌あふれる鬼をモチーフにしたのは大学生の頃からで、今ではもう瀧下さんの分身のようにも見える。

瀧下さんは画業20年を過ぎて、これまでの中で今一番、描いていると話していて、個展のスケジュールは数年先まで決まっているという。

瀧下さんは「毎年、作品数が多くなって、どんどん集中できているかなと思います。時代に流されずに、はやりとか気にせず、自分のスタイルを深めていこうと思っています」と話し、美里町のアトリエで思いのまま、同時進行で描く日々が続く。

(テレビ熊本)

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