2024年のプロ野球、セ・リーグは巨人が4年ぶりに優勝し、パ・リーグはソフトバンクが4年ぶりに制覇、日本シリーズでは、リーグ3位から勝ち上がったDeNAが26年ぶりに日本一の栄冠を勝ち取った。
フジテレビ系列12球団担当記者が、そんな2024年シーズンを独自の目線で球団別に振り返り、来たる2025年シーズンを展望する。
第8弾は、CS進出争いを繰り広げるもパ・リーグ4位に終わった東北楽天ゴールデンイーグルス。
このオフ、楽天は激動の時を過ごした。
2024年チームを率いた今江敏晃前監督(41)がわずか1年で交代。大黒柱・田中将大(36)の退団。

そんな中、再建を託されたのが5年ぶりの再登板となる三木肇新監督(47)。
そこに舞い込んできた新戦力、5球団競合のドラフト1位・宗山塁(21)。希望に満ち溢れたルーキーの入団に、東北のボルテージは上がっている。
12球団最年少監督
“頂の景色へ―”

球団創設20周年の2024年シーズン、当時40歳という若さで指揮官に就任した今江前監督。12球団最年少として注目を集め、チームの再建を託された。しかしその道のりは前途多難であった。
2023年まで不動の守護神だった松井裕樹(29)がメジャーリーグへ移籍。
大きな戦力補強もない中、まず着手したのは主力選手の配置転換だった。
ルーキー時代から11年間、先発の柱としてけん引してきたエース・則本昂大(34)を抑えに起用。さらに主砲・浅村栄斗(34)の守備位置をセカンドからサードにコンバートするなど、積極的に改革に取り組んだ。
しかし、チームは開幕から4月下旬までカード負け越しが続き、5月には一時借金9を抱え、スタートダッシュに大きくつまずいた。
それでも潮目が変わったのはセ・リーグ相手の交流戦。
13勝5敗、勝率.722で球団史上初の交流戦優勝を果たし、新しい歴史を作りあげたのだ。
以降もシーズン最終盤までCS進出をかけて3位争いを繰り広げた。
しかし、10月1日、3位ロッテとの直接対決に敗れ3年連続の4位が確定。11年ぶりの優勝を東北にもたらすことはできず、今江前監督は契約解除となった。
投打に浮き出た課題
2024年の戦いを振り返ると突出していたのが、パ・リーグトップのチーム犠打数126。成功率も高く、手堅い攻撃をしていた。
その一方で強みである機動力を生かすことができなかった。
チームには2023年の盗塁王・小深田大翔(29)や2024年リーグ2位の32盗塁を決めた小郷裕哉(28)など足を使える選手が多くいる。しかし序盤にミスが響くと、その後はエンドランなどランナーを動かしながらの攻撃が少なくなり、攻撃面でバリエーションを増やすことができなかった。
チーム内の本塁打数トップが浅村の14本と長打力が乏しい中、機動力を存分に生かせなかったのは大きな痛手となった。
そして、大きな課題となったのが投手陣。
「ピッチャー陣の底上げが一番の課題」と今江前監督が振り返ったように、防御率は3.73で3年連続パ・リーグ最下位。5月のソフトバンク戦では21失点をするなど、失点数も12球団ワーストの579と投手力の弱さが露呈した。
大量失点が目立った一方で、点差別の勝敗を見ると3点差以内の試合では全て勝ち越し。接戦を勝ち切る底力は備わってきた。
成長を感じた2人の左腕

先発陣では初めて開幕投手を務めた早川隆久(26)が、球団左腕初の2桁となる11勝。自身初の規定投球回にも達し、エース級の活躍でチームをけん引。
しかし、「9月以降、自分の投球ができる試合が圧倒的に少なかった」と言う。「CSを争う中で、勝ちにフォーカスした時に余裕が持てなかった」と正念場での戦いに課題を感じていた。
自身の課題を冷静に見極め、次なるステップへと踏み出そうとしている早川。「まだまだできると自負しているので、もっとレベルアップしたい」と成長を誓った。

プロ4年目を迎えた藤井聖(28)は、4月から先発ローテーション入りを果たすと、交流戦では12球団トップタイの3勝を挙げ初優勝に大きく貢献。1年間、先発ローテーションを守り早川と並ぶ11勝をマークした。
それまで過去2年間で通算4勝だった藤井が、大きく飛躍した要因の一つに併殺打の多さが挙げられる。
自身も「課題だったコントロールが安定してきた」と手応えを感じ、走者を出しても粘り強い投球を見せる藤井の姿にチームメートの則本は、「低めに集める能力がかなりある。だからこそゲッツーが増えているし、自分の勝ち方を掴んだのかな。1試合1試合にかける思いも感じるし、かなり成長している」と太鼓判を押す。
勝利の方程式
2024年、中継ぎ陣では2人の投手がブレイクを果たした。

プロ6年目を迎えた鈴木翔天(28)は、チーム2位タイの49試合に登板し防御率1.66。球団記録の28試合連続無失点をマークするなど貴重な左の中継ぎとしてフル回転の活躍を見せた。
プロ7年目となる2025年は「50試合登板」を目標にチームに貢献したいと意気込んだ。

そして、2024年に先発から中継ぎに転向した藤平尚真(26)。
2016年ドラフト1位の藤平は将来を担う先発候補と期待されながらも、2019年から2023年までの5年間でわずか3勝。結果を出せず苦悩する中、今江前監督から中継ぎへの転向を打診された。
「ここで結果を出さないと野球人生が終わる」。藤平は並々ならぬ思いでシーズンを迎え、決死の覚悟で挑んだ2024年、中継ぎとして自己最多の47試合に登板。防御率1.75と抜群の安定感を見せ、勝ちパターンの一角を担った。
さらに、11月に行われたプレミア12では自身初の日本代表に選出されると、6試合に登板し防御率0.00。強化試合を含め9者連続三振と圧巻のピッチングで、まさに大ブレイクの1年となった。
チーム最年長40歳・岸孝之

「3位を目指しているわけじゃない。優勝争いがしたい」。チーム最年長・岸孝之(40)がシーズン終了後、口にした言葉。
岸は2024年チーム2位の防御率2.83をマークし、3年ぶりに規定投球回に到達。CS進出争いが佳境の9月に完封勝利を挙げるなど、気迫の投球でチームを鼓舞した。
「岸さんがあれだけ投げているんだから、自分たちが負けるわけにはいかない」とその姿に刺激を受けた後輩も数多くいた。
2016年オフ、FAで楽天に移籍した宮城県出身の岸。
当時の心境を「自分がバリバリ投げられる時に地元に帰ってきたかった」と独占取材で明かしてくれた。
地元・東北で優勝したいと強く思うからこそ、ここ数年優勝争いに食い込めないチームに歯がゆさを感じている。「若手が出てこないと、チームとして強くならない。そこに負けないように自分も努力するし、歳を重ねても常にキャリアハイを目指す」。
プロ19年目を迎えるベテランは2025年もその背中で示していく。
'96年世代の台頭
2024年、野手では1996年生まれの選手の活躍が目立った。

辰己涼介(28)は打率パ・リーグ2位の.294、158安打で自身初の最多安打を獲得すると、守備では4年連続でゴールデン・グラブ賞を受賞。10月8日の日本ハム戦で392刺殺を達成し外野手シーズン刺殺数プロ野球記録を塗り替えるなど、記録と記憶に残る活躍を見せた。

辰己と同じ'96年世代の小郷裕哉(28)は開幕からレギュラーに定着すると、12球団唯一の全試合フルイニング出場を達成。
打撃面では145安打、32盗塁でともにパ・リーグ2位の成績を残した。
プロ7年目の2025年は「自分がチームを引っ張っていく気持ちで、去年以上の成績を出せるように頑張りたい」と自身初のタイトル獲得を視野に、チームの先頭に立つ覚悟を見せた。
リベンジを誓う主砲・浅村栄斗

「もう1度這い上がれるように、リベンジしたい」。2025年にかける強い思いを明かしてくれた浅村栄斗(34)。
2024年、期待された打撃では3年ぶりに20本塁打に届かず、打点も楽天に移籍後最少となる60打点。「何もできなかった」と自身が振り返るほど悔しいシーズンになった。
今江前監督からの提案でより打撃に専念できるようにと、守備位置をサードに変え臨んだ1年だった。
「当然不安はあった。最初のほうはバッティングよりも守備のことを考えていた。でもそれを言い訳にはしたくない。そこで結果を出せなかった自分の力不足」。
チームへの思いが強いからこそ受けたコンバート。しかし、思うような結果が出せずもがき苦しんだ。それでも、「この1年があったから良かったと思えるように、浅村ってこういう選手ってもう一度思ってもらえるように復活したい」とリベンジを誓った。
セーブ王・則本昂大

2024年の楽天を振り返る上で欠かせないのが則本昂大(34)の存在だ。
不動の守護神だった松井裕樹のメジャーリーグ移籍に伴い、2023年まで先発として通算114勝を挙げていたエースが、守護神の座を任されることになった。
「自分が監督でも、その決断をしたと思う」。そう話した則本は、54試合に登板しパ・リーグトップの32セーブを達成。抑え転向1年目にしてセーブ王のタイトル獲得という快挙を成し遂げた。
そんな則本から「僕、本当にイーグルスが好きなんですよ」と本音が聞けたのは12月のことだった。
シーズン終了後、新体制でスタートした秋季練習中に三木新監督と話をしたという。
「抑えを続けるか先発に戻りたいか、自分の気持ちを聞かれました」。三木監督は一人一人との対話を大事にしている。その中で、まず則本自身の気持ちを確認した。
「聞かれれば抑えをやりたい。でもチームのためならどんなポジションでもやります」。則本は迷わず答えた。チームを強くしたい、求められることはなんでもやりたい。そんな強い覚悟からだった。
「見返りを求めるんじゃなく、チームのために尽くすだけ」。屈託のない笑顔で話す則本。2025年も最終回のマウンドに立ち続ける。
希望をもたらす新戦力・宗山塁
ドラフトでは“20年に一人の逸材”と高く評価される明治大・宗山塁(21)を5球団競合の末、引き当てた。このオフ、突然の監督交代で揺れていた時期にもたらされた明るい話題となった。

宗山のプロ1年目の目標は「開幕スタメンで新人王」。
大学時代は1年春からショートのレギュラーを掴み、4年間で東京六大学リーグ歴代7位となる通算118安打を放ち、プロでも即戦力として大きな期待が寄せられている。
そんな大注目のルーキーに刺激を受けるのが、2024年ショートで135試合にスタメン出場しレギュラーに定着した村林一輝(27)。
宗山の話題になると「絶対聞かれると思った(笑)」と笑顔を見せるも、「自分がショートを絶対に守るという強い気持ちは常にある」と闘志を燃やした。
さらに、2024年セカンドでベストナインを獲得した小深田大翔(29)など、し烈を極める二遊間のレギュラー争い。
これも期待の新戦力・宗山がもたらす相乗効果だ。

12年ぶりの日本一へ
監督交代、田中将大(36)の退団など激動の時を経て、2025年、新たな船出を切る楽天。
その先頭に立つのは、2019年から1、2軍合わせて6年間指揮をとってきた三木肇監督(47)。

三木監督が就任してから、まだ一度も口にしていない言葉がある。
2023年、38年ぶりに日本一を掴んだ阪神では『A.R.E』と表現されていた。三木監督もあえて言葉にはしていない。
そこには「想像をはるかに超えた決意と強い覚悟でいる」と語った並々ならぬ思いがある。
指揮官がその言葉を初めて口にする時こそ、本当の強さを取り戻した時なのかもしれない。
チーム、そして東北一丸となって2013年以来の強さを取り戻していく。
(文・菅野愛郁)
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