突然の“戒厳令”からわずか6時間で国会の解除要求を受け入れた韓国の尹錫悦大統領。
45年ぶりに宣言された戒厳令による後遺症は計り知れないものになりそうだ。野党は尹大統領の即刻辞任を要求し、応じない場合は弾劾手続きに進むと宣言。与党からも強い批判が出ていて、尹大統領の求心力は急速に低下している。
唐突とも言える今回の戒厳令騒動の何が問題なのか、韓国の民主主義は大丈夫なのか。
憲法をよく読むと…
韓国では、戒厳令は憲法により厳格に定められている。憲法77条によると、大統領は戦時・事変、又はそれに準じる国家緊急事態には、軍事上の必要や公共の安寧秩序を維持する必要があるときには、戒厳を宣布する事ができるとされている。
この記事の画像(10枚)戒厳令には今回宣言された「非常戒厳」と「警備戒厳」の2種類があり、「非常戒厳」の方が軍の統制がより強い。
戒厳令が発動されると、言論・出版・集会・結社の自由や、政府や裁判所の権限に関して「特別な措置を行うことができる」としている。
今回は戒厳令を受けて陸軍の参謀総長が戒厳司令官に任命され、戒厳司令部は国会を含む一切の政治活動を禁止すると発表した。この「一切の政治活動を禁止する」というのが今回のポイントになりそうだ。
政治活動の禁止は戒厳令に含まれず
上述のように、憲法には国会など立法府の活動を制限する内容はない。
むしろ、憲法77条は、「国会が在籍議員の過半数の賛成で戒厳の解除を要求した時には大統領はこれを解除しなければならない」と定めている。
韓国メディアによると、戒厳法13条には、「戒厳令下では国会議員は現行犯の場合を除いて逮捕拘禁されない」との条文もあり、逆に憲法や法律は立法府の活動を保護しているように見える。
尹大統領は、野党が過半数を握り、来年の予算案に合意せず、政権スタッフの弾劾を求める野党側の対応などを理由に「国政はまひ状態にある。憲政の秩序を守るために非常戒厳を宣布する」と述べた。それを受けての戒厳司令部による「政治活動の禁止」だ。
もし軍が国会を占拠していたら
実際に、戒厳軍の部隊が銃を持って国会に突入しガラスが割られたり、煙幕がはられる事もあった。
最大野党「共に民主党」によると、武装した兵士が国会に侵入し、ウ·ウォンシク国会議長、イ·ジェミョン共に民主党代表、ハン·ドンフン国民の力代表の身柄を拘束しようとし、その他多数の国会議員の本会議場入りも防ごうとしたという。
もし軍の展開が早く、議員や議長が拘束されていれば、国会で戒厳令の解除決議は出ずに、今も韓国は戒厳令下にあるかもしれない。それが尹大統領の狙いだとしたら、恐ろしい事だ。
軍による国会占拠が実現していたら、韓国の民主主義に大きな危機が訪れていただろう。
突然の戒厳令を受け、急ぎ国会に駆けつけた韓国の国会議員と国会を取り囲んだ市民たちが、紙一重で韓国の民主主義を守ったような形だ。
野党や韓国メディアからは、立法府の活動を制限しようとしたこと自体が憲法違反だとの指摘が出ている。
内乱罪との声も
野党・共に民主党は尹錫悦大統領の戒厳令に対して「内乱罪」で告発するとしている。韓国の憲法第84条によると、大統領は在任中なら刑事訴追を受けないとされているが、内乱または外患罪を犯した場合は除外されている。
そのため、内乱罪が適用されれば、現職大統領であっても起訴や処罰が可能だ。内乱罪の場合、刑罰は死刑、無期懲役、または5年以上の懲役となる。
これまで親日的な姿勢を貫き、文在寅政権時代には想像も出来なかった良好な日韓関係を築いてきた尹大統領の窮地。北朝鮮がミサイル発射を繰り返す中、韓国の混乱は日本を含む東アジアの安全保障にも影響を及ぼしかねないのだ。