秋吉:
お母さまとおばあさま、ひょっとすると下重さんの進路について意見が一致していたのでは?

下重:
ううん、母は「暁子は自分で決める子だから」と半分諦めていたと思います。

秋吉:
下重さんの性質を深く理解しておられたのですね。お母さまは、心が通じるおばあさまの背中をみて自分の命の終え方をイメージしていた──つまり、すでに死の恐怖に打ち克っていたのかもしれません。

下重:
確かに。彼女に怖れはなかったんじゃないかな。

秋吉:
心の準備ができていた、ともいえそうです。

作家・下重暁子さん(C)新潮社
作家・下重暁子さん(C)新潮社

下重:
死が訪れたのは、わりと急のことだったの。母が81歳の時に脳梗塞の発作が起きて、救急車で救命救急センターに運ばれました。人懐こい人だったから、同じ病室の患者さんたちとさかんに交流していたんですよ。一人ぼっちはいやだと、個室を断って。

この時に知り合って、母が亡くなったあとお墓参りに通ってくれるかたもいました。日頃から「暁子にめんどうをかけたくない」とくり返していましたが、入院してからは1週間ももたず、意識がなくなって3日後に最期を迎えた。命の危険が迫ると、母の身体につながっている装置が鳴るの。ピーピーピーって、トラックがバックする時に鳴るのとそっくりな音。

秋吉:
よくドラマのシーンでありますね。

下重:
あの音が鳴る度に、ドキンとした。何度目かのアラームで、母は静かに逝きました。願ったとおり、祖母と同じ3月18日に。

娘二人じゃだめなの?

秋吉:
私の母は、下重さんのお母さまの域までたどり着くことはできなかったと思うんです。死を目の前にしておびえながら亡くなりました。なんとかして、恐怖をやわらげてあげたかった。今でもずっと思い続けています。

下重:
突然のことだったの?