静かにゆらめく炎が醸し出す温かな光。600年以上の歴史を持つ「和ろうそく」は、その美しさと癒しの効果で人々を魅了する。時代の変化とともに、存続の危機に直面しながらも伝統を守るために挑戦を続ける長崎で唯一の和ろうそくを作る企業の3代目職人の思いを取材した。

櫨の実から生まれる小さな灯り

長崎県内で唯一の「和ろうそく」を作る企業「本多木蝋工業所」は島原市有明町にある。年間約5000本を製造し、シンプルなものや鮮やかな絵付けをしたものなど約15種類を店頭で販売している。

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代表を務める本多俊一さん(69)は祖父の代から続く3代目だ。創業1930年からの歴史を守り続けている。

和ろうそくは島原の伝統産業でウルシ科の櫨(はぜ)の実の油脂「蝋(ろう)」を固めたものだ。島原で製造が盛んになったのは江戸時代の1792年頃。雲仙普賢岳の噴火で荒れた土地新たな産業を起こそうと櫨の木を10万本植えたことがきっかけだった。

櫨の実
櫨の実

和ろうそくの蝋は櫨の実を細かく砕き約30分蒸したものをつぶして抽出する。約15キロの実からわずか4本分の蝋しか取れない貴重な素材である。

工業所は本多さんの祖父が櫨の仲買をしていたことに始まり、3代目の俊一さんは創業当時からの製法を変えずに和ろうそくを作っている。

本多木蝋工業所 本多俊一代表:油圧で釜が上がる。(絞り具合は)高さをネジで調整していた。制御装置がない時代に考えられた機械。純粋な(蝋)だけ採っているそういう文化を残したい。そういう面ではこの機械に頑張ってもらえれば。

日本の昔ながらの文化を残すため最新の機械や化学薬品を使わないのは俊一さんのこだわりだ。イグサを巻いた筒を芯にして金属製の型に蝋を流し込む。空気の通り道になる空洞ができることから独特な炎のゆらぎが生まれる。

本多木蝋工業所 本多俊一代表:和ろうそくの炎を見ていたら癒される。色んな人にもう一度文化を知ってもらいたい

自然由来の成分で作られる「和ろうそく」は匂いや有害物質が出ないことも魅力の1つだ。本多さんによると化学薬品を使わない自然由来の和ろうそくを製造しているのは全国でもここだけという。

伝統産業の存続をかけた新たな挑戦

一方で高価で需要が少なく化学物質の安い蝋で作った和ろうそくに顧客を奪われるなど販売は伸び悩んでいる。廃業に追い込まれる事業者もある中、本多工業所ではろうそくだけにとらわれない伝統の継承の方法も模索している。

10年ほど前から、修学旅行生や観光客向けにろうそくづくり体験や絵付け体験を提供。さらに、富裕層向け旅行をプランニングする国内外の旅行会社とも連携し、和ろうそくの魅力を広めている。

伝統と革新の融合

自然由来の和ろうそくの原料に注目して2024年10月には新製品も開発した。工業所と長崎市の化粧品会社が協同で開発した「はくろうハンドクリーム」だ。(1980円)

和ろうそくが売れない時代に、何か売れるものが作りたいと本多さんの息子たちが開発したという。

本多さんは「地方の伝統産業は利益がない。相撲や歌舞伎は国がバックアップするからずっと残る。地方の伝統産業は利益がなくなれば消えてしまう。昔のものを守っていかなければいけないけど、新しいものに挑戦することも必要、利益を少しでも残していけば文化・伝統が残っていく。工夫が大切。」と、伝統と革新のバランスの重要性を強調する。

和ろうそくの伝統を残そうと異業種への挑戦を始めた本多木蝋工業所の挑戦ははじまったばかりだ。

(テレビ長崎)

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