流線型のフォルムが印象的な車両が、南さつま市の街中をゆっくりと走る。普通の小型バスに見えるが、車にはハンドルもアクセルも見当たらない。人の代わりにシステムが運転する「自動運転バス」だ。南さつま市で今、鹿児島県内初の自動運転バス実証実験が行われ、注目されている。
バス運転手不足の救世主となるか
「コロナ禍を経てバスの運転手が少なくなり、そういう社会問題に対応するために自動運転バスにチャレンジした」南さつま市総合政策課の辻亮太さんは語る。過疎化が進む南さつま市では、バス運転手の減少と利用者の減少により公共交通の再編を余儀なくされている。特に市街地中心部を走っていた路線バスが減ったことで、買い物や通院といった日常の移動手段に大きな影響が出ている。
そこで市が着目したのが、自動運転バスの可能性だった。2024年度から国の補助事業として実証実験を開始し、2026年1月26日には2度目となる実験がスタートした。

最新技術が支える自動運転システム
実証実験に使用されるのは、電気で走る定員9人の小型バスだ。車両にはセンサーやカメラが搭載され、人の動きや障害物といった周囲の状況を常に検知している。GPSで車両位置を把握し、これらの情報をシステムが処理して走行する仕組みだ。
自動運転は5段階のレベルに分かれており、南さつま市の実験はレベル2に相当する。「走る」「曲がる」「止まる」という基本動作はシステムが判断するが、信号交差点の通過時などは人の介入が必要となる。

「緊急時はエマージェンシーボタンを押すが、センサーで周りを見ているので自動で止まる」と、オペレーターが安全性について説明する。車両前方のパネルを操作して必要に応じて手動介入を行うが、今回の実証実験では特定の信号交差点でシステムが全て判断するポイントも設定された。
全国で広がる自動運転バスへの期待
こうした取り組みは南さつま市だけではない。2025年度には全国67の事業に対して国の補助金が交付されており、多くの自治体が自動運転バスに注目している。
社会課題の解決に詳しい志學館大学法学部(鹿児島市)の眞竹龍太客員教授は「一番最大の人手不足を解消するのを技術的に解決できるのが自動運転なので、どの自治体も非常に期待している」と、この動きを評価する。
実証実験を経て自動運転バスの実用化に踏み切った自治体がある。茨城県常陸太田市。駅や商業施設、住宅街をつなぐ循環ルートを2台の車両が無料で運行し、定員9人に対して1便当たりの乗車人数は平均6.1人と好調な結果を示している。
「当初は物珍しさもあったが社会受容性の受け入れが進み、『乗りたい』という希望が多く寄せられるようになった」と、常陸太田市企画部の安島剛部長は手応えを語る。

市民の反応は上々、未来への期待高まる
南さつま市の実証実験では、市役所を発着点に中心部の病院や住宅地、スーパーなど約5キロの循環ルートを最高時速18キロで走行する。誰でも無料で試乗でき、2週間の実験期間中に約460人が利用した。
「快適で未来を感じた。通院のお年寄りや免許を返納した人が使える有効なツールになると思うので期待」と、試乗した市民からは好意的な声が聞かれた。
市役所に設置された遠隔監視室では、システム開発や通信を担う業者が運行を管理している。「今の区間は手動介入はゼロです」というオペレーターの報告からも、技術の進歩がうかがえる。

小さな町の大きな挑戦
南さつま市の本坊輝雄市長は「自動運転への取り組みが、これから小さな町の大きな挑戦だけど一つ一つ積み上げていきたい。次世代の交通体系の中で先進事例を作っていきたい」と意気込みを語る。
市では運営方法など課題は多いとしながらも、2026年度も引き続き導入に向けた取り組みを加速する考えだ。自動運転社会の到来を見据え、県内で先陣を切った南さつま市の挑戦は、同様の課題を抱える他の地域にとっても重要な道しるべとなりそうだ。
(動画で見る▶鹿児島・南さつま市で「自動運転バス」実証実験開始 免許返納や過疎対策の切り札になるか)
