東京駅周辺の工事現場を展示スペースに活用した国際写真展が始まった。再開発とアートを組み合わせることで、地域の魅力を向上させ、週末の人出増加を図る試みだ。専門家は、アート市場の成長により、地域経済や住民の心にも好影響を与えるとしている。
東京駅周辺で再開発と文化の融合
週末のオフィス街で、アートでにぎわいを創出する。

東京駅周辺で進む大規模な再開発で掲示されているのが、200枚以上に及ぶ、大小さまざまなアート写真だ。10月5日から始まった都内最大の国際写真展では、工事現場を会場の一部として活用している。

東京建物まちづくり推進部・久間田尚紀部長:
東京駅周辺は、平日に関しては14万人が働いている。一方、休日に関しては、約40%しか街を訪れていない。これを私どもは、どちらかというと、ポテンシャルと考えていて、このポテンシャルを健全化させたい。

オフィス街のイメージが強く、休日の人の流れが停滞する東京駅周辺エリア。これを、“ポテンシャル”と捉え、目を付けたのが、再開発により、至る所に設置されている工事現場の囲いだった。

白い余白をキャンバスに見立て、世界的にも評価の高い日本の写真を展示するスペースに有効活用した。

文化の発信拠点としての街作りを進め、国内外の観光客らを呼び込むことで、不動産価値の上昇につなげていきたい考えだ。

東京建物まちづくり推進部・久間田尚紀部長:
昔は、ビルそのものが高スペック・立地が良ければ、選んでもらえた時代だが、今、それだけではダメで、ビルの足元に広がっている街そのものが、便利で魅力的でないと選んでもらえない。街で多くの時間を過ごしてもらうように、街全体でこうしたイベントをやっていきたい。
富裕層の来訪と国内芸術振興に期待
「Live News α」では、エコノミストの崔真淑(さい・ますみ)さんに話を聞いた。
海老原優香キャスター:
アートを活用した新たな街づくり、どうご覧になりますか。

エコノミスト・崔真淑さん:
地域経済を活性化するためには、滞在人口率という概念が重要になります。これは、ある地域の実際の人口に対して、地域の外からやってくる滞在者が、どれほどいるのかを月間平均で把握するための指標です。
八重洲、日本橋、京橋といったビジネス街では、平日、地域外からの滞在者が多い一方、自分の行動を振り返っても、週末に、ビジネス街に出かけるのは非常に稀で、人口滞在率が低いのも想像がつきます。
このビジネス街に接する東京駅は、週末であっても多くの人が利用しています。鉄道の旅のついでに、東京駅の周辺にあるアートに触れたいという方が増えるかもしれませんね。
海老原キャスター:
アートで街を活性化するというのは、とても興味深い取り組みですよね。
エコノミスト・崔真淑さん:
実は、世界四大メガギャラリーの一つ、Pace(ペース)ギャラリーが東京に進出するなど、日本におけるアート市場の伸び代は大きいです。
世界最大の美術見本市「アート・バーゼル」などの統計によると、2023年の世界のアート市場規模は約9兆5000億円とも言われています。アメリカが市場の4割程を占め、それに中国やイギリスが続き、日本は1%ほどで先進国の中では最低レベルなんです。
アート市場が日本で活性化されるということは、世界の富裕層が日本に来るだけでなく、日本における芸術の振興につながり、さらには、私たちの暮らしにも影響することが実証されています。
企業の文化投資から国全体の豊かさへ
海老原キャスター:
広く社会に与える影響とは、どういったものがあるのか。

エコノミスト・崔真淑さん:
身近にアート作品があることは、健康やメンタルに影響するだけでなく、企業経営にも影響することが知られています。企業がアート作品に対して投資をすることは、従業員がアート作品に触れる機会も増えます。
さらに、モチベーションのアップや、あらゆるステークホルダーとの関係性が改善することが、ファイナンス研究で報告されています。
芸術などの文化は、心のビタミンであり、文化投資を促すことは、国の豊さにつながるのではないかと感じています。
海老原キャスター:
私も、休日は美術館に行くことがあるんですが、街そのものがアートに溢れていると行ってみたくなりますし、その街のイメージも、より良く変わっていきそうですね。人々の心を豊かにする新たな街づくり、期待したいと思います。
(「Live News α」10月7日放送分より)