先週末の金融市場は、自民党総裁選の投開票の動きに敏感に反応する展開となった。日経平均株価は900円を超えて上げ幅を広げる一方、円安方向に進んでいた円相場は、円高へと急反転した。
「高市トレード」から急反転
27日の東京株式市場は、前日のアメリカ市場でハイテク銘柄を中心に株価が上昇した流れを受け、朝方から、半導体関連株がけん引して買いが優勢となった。

午後に入り、日経平均株価は上昇を加速させ、1回目の投票の結果、得票トップの高市氏が、2位の石破氏とともに決選投票に進むことになると、午後2時過ぎに上げ幅は前日比600円を超え、30分もたたないうちに800円を上回った。結果が明らかになる直前の午後3時の終値は、903円93銭高い3万9829円56銭と、約2カ月ぶりの高値水準となった。

相場を押し上げたのは、金利低下・円安に伴う「高市トレード」だ。高市氏勝利の可能性が意識され、東京外国為替市場の円相場では円売りドル買いの動きが強まり、午後2時過ぎには、一時1ドル=146円台半ばの水準をつけた。日銀の利上げ方針に反対姿勢をとっていた高市氏が選出されれば、追加利上げが実施しにくくなるとの見方が広がったためだ。
金融緩和方向に傾く可能性を織り込んで進んだ円安と歩調をあわせる形で、輸出関連銘柄などに買いが入り、財政出動による経済波及効果への期待も相まって、日経平均株価は一段高となった。電話での顧客対応に追われていた都内の証券会社では、「朝から活発になっていた高市トレードが、一段と加速している」などと説明する声が飛び交った。
債券市場では、長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが、一時0.8%まで低下した。

流れが反転したのは、決戦投票での高市氏の敗退、石破氏の当選が伝わった午後3時過ぎだ。1ドル=146円台だった円相場は、一気に143円台にまで3円を超えて急騰した。
10年債利回りは、結果発表前の0.805%の水準から、一時0.855%まで上昇した。
東京市場の流れを引き継いだ27日のニューヨーク外国為替市場の円相場は、1ドル=142円台前半で取引を終えた。積み上がっていた円売りドル買いのポジション解消で広がった円買いの動きが続き、アメリカの経済指標がインフレ鈍化の継続を示したことも円を押し上げた。
一方、27日のニューヨーク株式市場では、FRB=連邦準備制度理事会が継続的な利下げを行うとの見方から買い注文が先行し、ダウ平均株価の終値は前日と比べて137ドル89セント高い4万2313ドルと、最高値を更新した。
物価高を上回る賃金上昇の定着と消費の底上げ
自民党の新総裁に選ばれた石破氏は、岸田首相が進めてきた経済政策の路線を基本的に継承し、デフレ脱却を確実にする経済・財政運営を行う考えだ。
27日の総裁選後の会見では、「賃金の上昇が物価高を超えるものでなければならない」としたうえで、「個人消費が上がらないと経済はよくならないし、デフレスパイラルも解消しない」と述べ、物価高を上回る賃金上昇の定着と消費の底上げに注力する考えを強調した。
GDPの半分以上を占める個人消費は、4~6月期は、実質で年率に換算して297兆円と、コロナ前の2019年平均の300兆円を下回っている。7月の実質賃金は、2カ月連続で前年同月比プラスだったが、消費支出は、実質で0.1%増と、わずかな伸びにとどまっていて、収入の伸びほどに消費が拡大していない実態が浮き彫りになっている。

石破氏は、物価上昇を超えて賃金アップが実現していくまでには「ややタイムラグがある」と指摘したうえで、「食料品やエネルギーにどういう政策が有効か見極めたい」と述べた。
物価高対策として実施されてきたガソリン補助は年内まで、電気・ガス代の支援は10月分までの措置となっている。これまでに11兆円を超える予算が投入され、2024年度予算に計上した物価高対応などのための予備費1兆円はほぼ使い切った。
政府は、国と地方をあわせた基礎的財政収支=プライマリーバランスが目標年次の2025年度に黒字化するとの試算を出したが、黒字幅は8000億円しかなく、大型の補正予算が組まれるなどした場合、実現が難しくなる懸念がある。
財政の持続性を高めつつ、景気のテコ入れをどう図っていくのかが、大きな課題だ。
「金利を云々かんぬん言ってはいけない」
石破氏の新総裁就任を受けて、週明けの金融市場はどう動くのだろうか。
日本時間28日早朝の大阪取引所の夜間取引で、日経平均先物は急落し、12月物は前日の清算値と比べ2410円安い3万7440円で終えた。30日の東京株式市場は、27日に日経平均株価が高く上昇した反動もあり、売りが膨らむ展開となる可能性がある。
市場関係者の間では、総裁選中に石破氏が言及した「金融所得課税の強化」をめぐって警戒感がくすぶる一方で、日経平均株価4万円台回復に向け安定した政策運営に期待する声も聞かれた。

こうしたなか、29日朝、フジテレビの「日曜報道 THE PRIME」に出演した石破氏は、「『貯蓄から投資』の流れは決して止めてはならない」と強調するとともに、「民間需要が少ないときは財政出動しないと経済が持たない」と述べた。日銀の金融政策については「金融緩和の方向性は維持しなければいけない。デフレ脱却を断言できない状況のなか、ここで金利を云々かんぬんということを言ってはいけない」として、政策金利の引き上げに慎重な姿勢を示した。
「高市トレード」巻き戻し後の相場の行方は、成長型経済や景気底上げをめぐって打ち出される石破新路線を、早期の解散総選挙の可能性も踏まえ、市場がどう評価するかが左右することになる。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)