世界の金融市場で、米中貿易戦争の再燃への警戒度が一気に高まっている。公明党の連立離脱を受けた「高市トレード」の巻き戻しは、米中の報復合戦のあおりで、株安への反転モードがさらに強まる可能性が出ている。

トランプ大統領「陰険で敵対的」

米中摩擦が新たな段階に入る発端となったのは、アメリカ東部時間8日夜の中国政府の表明だった。中国商務省はレアアースをめぐる輸出規制を強化し、輸出許可の取得を義務づける対象を広げる方針を示した。トランプ政権による禁輸措置拡大を受けたものだが、採掘や精錬で高いシェアを持つレアアースを武器に、アメリカの先端技術や防衛分野に揺さぶりをかける動きだと受け止められ、関連業界では警戒度が上がったが、この段階では、金融市場の反応は限られたものだった。

トランプ大統領のSNSより
トランプ大統領のSNSより
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市場の見方が大きく変わったのは、トランプ大統領が10日、自身のSNSに500語近くに及ぶ長文の投稿を行ってからだ。中国の動きは、「控え目に言っても、かなり陰険で敵対的だ」と厳しく批判し、中国製品に対する「大幅な関税引き上げ」を検討していると警告した。そして、数時間後には、11月1日から100%の追加関税をかけると宣言し、発動を10月中に前倒しする可能性にも言及するとともに、重要ソフトウエアに対中輸出規制を導入する方針も表明した。

「恐怖指数」不安レベル上昇

ハイテクや半導体サプライチェーンに関わる世界の企業が、米中貿易戦争の再燃による混乱への身構えを余儀なくされる事態となったことで、市場は大きく動揺している。

10日のダウ平均終値
10日のダウ平均終値

10日のニューヨーク市場では、米中摩擦が収益を落ち込ませるとの懸念が広がったITや消費関連企業を中心に幅広い銘柄に売り注文が出て、ダウ平均は800ドルを超えて急落したほか、ナスダック総合指数も3%を超える下落となり、およそ半年ぶりの大幅安に見舞われた。市場の不安心理を反映し、「恐怖指数」とも呼ばれる変動性指数(VIX)は、不安が高まった状態とされる20を上回って、21を超える水準をつけた。                             

このところ、ニューヨーク市場の主な株価指数は、AI需要の高い伸びへの期待から最高値圏で推移し、相場の過熱感も意識されていたが、利益確定や持ち高調整の売りも値下がりを促した格好だ。連邦政府機関の一部閉鎖が10日目に入り、景気への悪影響についての懸念が強まったことも相場を押し下げた。

2回目の対中「高関税」脅し

第2次トランプ政権発足後、アメリカが中国に対し高関税という「脅し」をかけるのは2回目だ。2月に10%の追加関税を発動、3月には20%とし、世界各国への「相互関税」では当初34%とするなど、関税率の引き上げをエスカレートさせた。中国も同じレベルの報復関税で対抗する動きを加速させ、両国で積み上げられた関税率は一時100%を超える水準にまで高まった。世界景気が落ち込んでいく懸念が強まるなか、金融市場は動揺し、4月には株安、ドル安、債券安の「トリプル安」が加速する事態に陥ったが、その後一転して、両国は、5月の閣僚級協議で関税率の大幅引き下げに合意している。

こうしたなか、株式市場で広がったのが「TACOトレード」理論だった。「Trump Always Chickens Out(トランプはいつもびびって逃げる)」として、トランプ大統領が強硬なスタンスを見せても、いずれ転換されるため、それに乗っかって取引する必要はない、との意味が込められたものだ。実際、トランプ政権の方針転換とともに、世界株は大きな切り返しを見せ、ニューヨーク市場でも、ハイテク株の上昇が相場をけん引し、6月にはナスダック総合指数が半年ぶりに最高値を更新するなど株高基調が続く展開がみられた。

米中報復合戦と公明連立離脱の行方

トランプ政権の「100%関税」表明に対し、中国政府は報復を示唆している。                     

中国商務省は12日、HP上でコメントを発表し、「対話を通じた解決」を求める一方、「アメリカが独断専行を続けるならば、中国も断固として対抗措置をとる」と述べた。また、トランプ氏が批判している中国によるレアアースの輸出規制強化については、「輸出禁止ではなく、民生用で規則に合ったものは承認している」と主張し、「アメリカは中国に対し、半導体などで長期間一方的な輸出規制をしている」などと非難している。

米中の応酬は激しさを増すのか、「TACOトレード」の再来はあるのか。

11日の大阪取引所では、日経平均先物が10日の日経平均株価の終値と比べ3000円近く安い水準で取り引きを終えた。金融市場の先行きに暗雲が広がるなか、連休明けの東京市場は、「トランプ対中100%関税」が「公明連立離脱」ショックを増幅させる展開に警戒感が強まっている。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、経済部にて兜・日銀キャップ、財務省・内閣府担当、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、農水省政策評価第三者委員会委員