防犯カメラが映した黒い影

この記事の画像(8枚)

宮城県加美町の静かな住宅街。その一角に設置された防犯カメラの映像に、黒々とした大きな影が映っていた。
夜の闇に溶け込むように姿を現したのは、クマである。花を動かし、周囲を探るように歩き回る様子が記録されていた。

この住宅では、数日前から飼育していた七面鳥やウコッケイなどが次々と襲われていた。住人は警戒のため防犯カメラを設置していたが、そこにまさに「野生の犯人」が映りこんでいたのだ。
9月3日午後9時半過ぎ、住人の女性はモニターを確認して絶句した。「玄関先にクマがいる!」すぐに警察に通報したが、駆け付けたときにはすでにクマは姿を消していた。

目撃した住民:
玄関の後ろがガラス戸なので、もしかしたらガラスが割れたら中に入って来られてしまうのではないかなという恐怖はありました

七面鳥とウコッケイ 「全滅」までの恐怖の数日間

七面鳥が入っていたケージは無残にも破壊されていた
七面鳥が入っていたケージは無残にも破壊されていた

この住宅がクマに狙われたのは、この日が初めてではなかった。8月末から9月1日にかけて、七面鳥やウコッケイなど12羽が食べられてしまった。さらに9月3日、唯一残されていた七面鳥1羽も襲われた。
大きな羽音とともに小屋が揺れ、クマは器用にふたを外して鳥を引きずり出したという。体重10キロにもなる七面鳥でさえ、クマにとっては抵抗にならなかった。

目撃した住民:
映像を見ると、鳥が入っている小屋をゆすって落として、ふたを開けて鳥を横から取り出して食べるという形だった。しゃがみこんだ人間と同じ大きさにもなる七面鳥でも平気で襲うことを考えると、とても怖い。

翌4日には玄関の入口を塞ぎ、鳥かごを室内に入れる予定で準備を進めていた。だが、その前にすべての鳥が食い尽くされてしまった。

再び現れた「白いテープのクマ」

そして9月5日午後9時半ごろ。ついに住人は自らスマートフォンを手に取り、クマの姿を直視することになった。

ガラス戸のすぐ向こうに現れたのは、真っ黒な巨体。防犯カメラで見たときよりも、はるかに大きく感じられたという。
立ち上がったその姿は、住人自身の身長の178センチとほぼ同じ。警察には「約2メートル」と通報した。

クマは玄関先の風除室に悠然と侵入し、お目当ての鳥の餌入りの青いバケツに向かった。わずか数メートルの距離で、口を大きく開けてバケツをくわえ、そのまま立ち去ろうとする姿が映像におさめられていた。
その後頭部には白いテープのようなものが貼り付いていた。以前、七面鳥を襲ったときにも確認されており、同じ個体とみられる。

目撃した住人:
生肉というか、血の味を覚えてしまった。他に被害がないうちに、クマが私の家に来ている間にとにかく捕まえてほしい。

対策むなしく 金網を折り曲げ侵入

天井付近の金網は折り曲げられていた
天井付近の金網は折り曲げられていた

住人はそれ以前の5日早朝、クマが通った玄関先の空間を板でふさぎ、再侵入を防ぐ対策を講じていた。
「完璧だと思った。」ところが、クマはさらに上を行った。天井近くに設置していた金網を力任せに折り曲げ、新たなルートから侵入してきたのである。

すでに鳥は食べ尽くされていた。狙いは鳥の餌だった。最後の七面鳥が襲われた際にも、同じ場所に置かれていた餌を食べた形跡があった。この夜のクマは、記憶していた「餌場」に真っすぐ向かい、バケツごと持ち去ろうとした。
住人はその一部始終を記録した際、「でかっ!」と思わず声を漏らした。

ついに捕獲も… 直後に別のクマ

クマをとらえたわな
クマをとらえたわな

緊張の続いた数日後、9月7日午前6時過ぎ。町と猟友会が仕掛けたわなにクマがかかり捕獲された。
体長140センチ、体高70センチ、体重94キロ。推定7歳のオスだった。クマの体長は鼻先から尾の付け根までの長さで測るため「2メートル」ではなかったが、県のデータと比べても大きな部類である。

注目された “白いテープ”の正体は、GPSつきの首輪だった。2023年ごろ、民間調査会社がクマの行動範囲を調べるために装着したものだった。
ただし電池の寿命は1年ほどで、すでに切れており追跡はできていなかった。結果として、人里に行動範囲を広げていたことも記録から漏れていた。

しかし安堵もつかの間、捕獲から間もなく、3キロほど離れた場所で、別のクマ目撃情報が寄せられた。町は引き続き注意を呼びかけている。

「アーバンベア」の恐怖と教訓

七面鳥やウコッケイ13羽が食い尽くされ、玄関先にまで侵入されたこの一連の騒動は、静かな町に深い爪痕を残した。
一枚のガラスを隔てて人と野生動物が対峙する異常事態。住民は「日常が破られた恐怖」を今も語っている。

人慣れしたクマは、食べ物の味と場所を学習し、再び現れる可能性がある。
「ごみを放置しない」「果物を早めに収穫する」といった日常の小さな備えが、被害を防ぐ第一歩になる。

クマが人里に現れる背景には、山の食料不足や個体数の増加も指摘されている。静かな町を襲った「白いテープのクマ」は捕獲されたが、問題は終わったわけではない。

仙台放送

仙台放送
仙台放送

宮城の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。