2024年夏、食卓に欠かせないコメが危機に瀕し「令和の米騒動」が叫ばれた一方、コメの価格は「今までが安すぎた」という声も。担い手不足や低賃金といった課題に直面する生産者を守るために消費者の意識改革も求められている。
猛暑乗り越え収穫最盛期迎える
2024年8月、鹿児島・志布志市では早場米「なつほのか」の収穫が最盛期を迎えていた。
この記事の画像(10枚)生産する川崎農産の津中隆博さんによると「なつほのか」は粒が大きく、おにぎりにしてもおいしいという。
夏の猛暑による影響も受けず、順調に育ったそうで、愛用の赤いコンバインを背にした津中さんは「喜びをかみしめながら収穫している」と充実した表情だった。
需給バランス崩れコメ不足に
私たちの食卓に欠かせないコメ。しかし、2024年の売り場に広がる光景は例年と異なる。
スーパーや量販店では、コメの購入量が制限され、品切れの棚も出ていた。価格も2023年より4割から5割程度上昇している。
来店客からは「高くなっているとは思うが、主食なので、ないわけにはいかない」と諦めの声が聞かれた。
2023年までのコメの国内生産量は、主食であるにもかかわらず、人口減少や担い手不足で年々減少傾向にあったが、需要もパンや麺の台頭などで減少していた。しかし、2024年は生産量が引き続き減少している一方、需要は10年ぶりに増加に転じた。
需要と供給のバランスが崩れたことで全国的にコメ不足となったのが、今回の「令和の米騒動」だ。
コメの需要高まる出来事重なり続ける
一体なぜ、「令和の米騒動」が引き起こされたのか。九州農政局で鹿児島を担当する窪山富士男さんは、要因を3つ挙げる。
1つ目は「コメの割安感」だ。パンや麺の価格が年々上昇する一方で、コメの上がり方は緩やかだっため、消費者がコメを選択しやすかったという。
2つ目は「インバウンド需要増」。外国人観光客が増えて、外食産業のコメ料理などで需要増につながった。
3つ目は「地震、台風の影響」だ。窪山さんは、初の南海トラフ臨時情報が出された日向灘の震源の地震や台風の影響で、「全国的に『コメを買っておこう』との意識が高まり品薄感が出た」と分析する。
2023年は、高温障害などから、コメどころの北陸で出来高が少ない状況だった。そこに重なったのが、新型コロナの5類移行で増加した外国人観光客によるコメの需要増だ。
さらに2024年4月から6月には、歴史的な円安により小麦の値段が高騰。パンや麺が値上がりし、割安感のあるコメに需要が集中した。その結果、6月のコメの民間在庫は2009年以降、最も少ない水準となった。
そこに追い打ちをかけたのが自然災害だ。8月に発生した日向灘を震源とする地震と、列島各地に大きな被害をもたらした台風10号が、消費者の買いだめ心理に拍車をかけた。
こうしたコメの需要が高まる出来事が重なり続けた結果、起きたのが一連のコメ不足というわけだ。 しかし窪山さんは、本格的なコメの収穫を迎える秋以降、状況は落ち着くとみている。
消費者に求められる意識改革
公表された令和6年産の作柄概況では、全国的に「平年並み」、鹿児島も「平年並み」の状況で、窪山さんは「(新米収穫で)コメが出回ることによって、混乱は和らいでいくのではないか」と話した。
コメの価格はどうなるのだろうか。県内のコメ卸売業者は、窪山さんと同じように新米の流通で価格は落ち着いていくとの認識を示したが、一方で「今までのコメの価格が安すぎた」と打ち明ける。
肥料や電気代、燃料代が高騰し、機器の価格も年々上昇していることから、「生産者も価格に転嫁するチャンスは必要だったと思う」と理解を求めた。
農業市場学が専門の鹿児島大学・豊智行教授は、コメの生産体制をきちんと確保しない限り、また同じような混乱は起き得ると指摘し、「そのためにはしっかりと消費者として買い支える意識も必要ではないか」と意識改革を訴えた。
コメは食料安全保障の要
鹿児島県内で生産されるコメは約10万トン。食の安全、安心を守るための収穫の秋が、これから本格的なシーズンを迎える。川崎農産の津中さんは「自社ブランドや鹿児島のブランドなど、付加価値を付けて売っていきたい」と抱負を語った。また、若手が少ない生産者の現実については「給料面など頑張って魅力ある農業にしたい」としっかり前を見据えていた。
担い手不足のコメ農家を守るために何ができるのか?物価高にあえぐ中、身近なコメに付加価値をつけるにはどうすればよいのか?
多くの食糧を外国産に頼る日本にとって、ほぼ100%を自分たちで賄えるコメは食糧安全保障の要と言える。コメの大切さを改めて認識することにつながった令和の米騒動。「コメの生産を守るために何ができるのか」を一人一人が考える必要がありそうだ。
(鹿児島テレビ)