石川県七尾市能登島で、名物のタコ漁に励む漁師がいる。自ら被災していながらも能登の人たちを元気づけようと、手弁当で炊き出し活動を始めた。

タコの町のタコ漁師

タコの町として知られる石川県七尾市能登島鰀目町。ここに、自らが被災者であるにもかかわらず、被災した各地で焚き出しを行っている人がいる。タコ漁師・平山泰之さんだ。能登島のタコの魅力を広めたいと、飲食店も手掛けている。

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あっという間に地震から8ヶ月が経った。平山さんは「地震が起きた後は本当に気持ちも折れて、仕事にもならなかったです」と話す。飲食店についてはまだ休業中だというが、「いつまでも下を向いていたらダメだなというので、今はちょっと前を見ていろいろ活動しているという感じですね」。かろうじてタコ漁には出られているという平山さん。一歩前に進むための鍵も、やはりタコだった。

大サイズのたこ焼き

水揚げされた鰀目のタコはいきがよく立派だ。「僕らはタコを獲っているので、能登島のタコを産業として残すために頑張っていかないといけないなと思っています」。

能登島のタコを有名にするため、2024年7月から、自慢のタコを使ったたこ焼きの移動販売を始めた。7月は、能登島向田の火祭りの会場にも出店し、2時間で80パックを売り切るという人気ぶり。好調な出だしだった。よく見るとたこ焼き機の穴はとても大きい。「大玉用です。タコのサイズも大きめで入れるので、せっかくならタコを味わってほしいので」。

むしろ、今入れているこの出汁もいらないのではないかと聞くと…。「それは、ただのゆでダコになるんで。ゆでダコでもおいしいんですけど」。タコ漁師自慢のたこ焼きの味は格別だ。ここまでタコの身を噛むたこ焼きは食べたことがない。

手弁当の炊き出し活動

移動販売車の後ろにあった大きなバスには『能登島漁師』と書いてある。「移動して炊き出しとかふるまいとか、いろんなイベントに移動するバスです」。被災者が行う、被災者の方への炊き出しだ。「やっぱり被災者だからこそ分かるところもあるんで、辛さっていうか…。でもやっぱり僕らの姿を見て、ちょっとでも前を向いてもらえればなっていう。こんな奴らもおるんやなみたいな」。能登を少しでも明るくしたいと考える平山さんの下に、3人の同志が集まった。自らを『軍団』と名乗り、避難所などで炊き出しを行うことにした。

初めての炊き出しに同行することに。向かうは珠洲市大谷町。メンバーが着る法被には『IKIGAii』と書いてある。「これも一応、今やろうとしている会社の法被なんですけど、『いきがいい』って書いて、『生きがい』って僕らは言うんですけど。かっこよさの『粋』っていう言葉が好きで、その『粋』っていうのもかけて。僕らは水産業をしているんで、例えば鮮度がいいのを『活きがいい』とか言う」。

タコ尽くしの炊き出しメニュー

バスは復旧が進むのと里山街道を経由し、珠洲市に向かう。目的地が近づくにつれ、平山さんは口を閉ざしてしまった。「この風景に慣れたことが怖くて。もうなんか普通の風景になってしまって」。避難所で火を使う調理は難しいため、近くの施設で料理を作り避難所に届けることに。メニューはタコ焼きそばとタコ飯だ。窯を開けるとおいしそうなタコ飯がお目見えした。ふっくらとしたご飯にプリプリのタコがたくさん入っている。

「こんにちは、僕たちは七尾市の能登島から来ました。ぜひ食べてください」。平山さんと仲間が心を込めて作ったタコ料理。避難所に集まっていた人たちもゆっくりと味わった。「おいしいです。能登島の方も、七尾もこの間話したら大変だという話を聞いていたので、わざわざ来ていただいてありがたいです」。そんな避難所の人たちの声に平山さんは「おかげさまで、僕は漁は一応できているので、その分少しでもこうやってできればなと思って」と応えていた。

初めての炊き出しを終えた平山さんは「僕はお腹いっぱいです、あの笑顔が見られただけで」と話した。取材を通して平山さんからはある種の使命感を感じたのだが、その源は何なのか聞いてみた。「将来を考えた時に、能登島に住む、能登島に戻るという選択肢もあるような可能性のある地域に僕はしていきたいという思いが強くて。いろんなところで被災者の人達に対して元気づける活動をして、それが引いては自分たちの町の存続にもつながるみたいな」。

(石川テレビ)

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