約50年の間、静岡市を走り続けた静岡鉄道の1000形電車が2024年6月末に役目を終えて引退した。導入当時は地方鉄道で初めてのオールステンレス製の車両として近代的なデザインが話題になったと言われている。
地方初導入 近代的デザインが話題
この記事の画像(15枚)四角い顔に丸い目、そしてステンレス製のシルバーのボディ。
静岡鉄道の電車1000形の最後の車両「1008号」だ。
静岡鉄道、通称「しずてつ電車」は静岡市の新静岡駅と新清水駅の間 11kmを約25分で結ぶ。
この1008号は1976年の誕生以来、通勤・通学・レジャー・買い物客の足として48年間走り続けてきたが、その役目を終え引退の時を迎えた。
1000形の車両が導入されたのは51年前の1973年。
地方の鉄道として初めてオールステンレス製の車両が導入され、近代的なデザインが話題となった。当時は1日に約5万5000人が利用していたという。
しかし、時代とともに車両も進化し、より安全性に優れ、省エネルギーやユニバーサルデザインを取り入れた新型のA3000形が2016年から順次導入された。
今回引退を迎えた「1008号」が、1000形の車両として最後だ。
「もうちょい生き残って…」
1000形ラストランとなる6月30日。出発直前の新静岡駅のホームは引退を惜しむ多くのファンでごった返した。
利用客:
今から30年以上前、小学校の時から乗っていた電車なんです。きょうで引退なので、寂しい
ファンの少年:
時代の流れなので(引退は仕方ないが)、もうちょい生き残ってほしかったけど
静岡鉄道・川井敏行 社長:
50年間に渡ってこの街の足を支えてきてくれた1000形の引退式ということで、きょうこの日が来るのが怖かったような残念な気持ちで迎えていますが、こんなに大勢の方に見送っていただいて幸せに感じています
最後の乗車チケットは1時間で完売
1000形のラストランの乗車チケットの販売は先着200人限定。
発売からわずか1時間あまりで売り切れてしまったため、乗車できない多くのファンが最後の姿をカメラに収めようと駆け付けた。
静岡市に住む武田裕太さん(26)と森本彩香さん(仮名・26)。しずてつ電車1000形をこよなく愛す、いわゆる「撮り鉄」の仲間だ。
小学生の頃から電車が好きだった武田さんは、1000形へのあこがれを捨てきれず2023年に静岡鉄道に転職。引退セレモニーの会場に映し出された1000形の映像は武田さんが撮影・編集したものだ。
一方、高校の教員を務める森本さんは、高校時代に「ちびまる子ちゃん」のラッピング電車のとりこになって以来、1000形を撮り続けてきた。武田さんをはじめ、幅広い年代の「撮り鉄」仲間との交流も楽しみの1つだ。
森本さんは「それぞれ車両ごとに音が違ったり、付いている部品が違ったり、そういった点を写真に撮って見比べてみて『ここ違ったよね』と友人と話すことも楽しい」と話す。
1000形の最後の出発を撮影しようとホームにきたが、ファンで混雑しなかなか前で撮影できない。 あまりにも多いファンに2人は引退セレモニーの撮影をあきらめ、線路沿いで最後の運行の姿を撮影することにした。
ラストラン それぞれの思い
午後2時。いよいよ「1008号」のラストランだ。
川井社長たちの「出発進行!」の合図とともに走り出すと、ファンからは「ありがとう!」と声があがった。
ラストランの出発を新静岡駅のホームで見送ったファンのなかには涙を流す人もいた。
ホームでよい撮影場所を確保できなかった武田さんと森本さんは1駅先の日吉町駅でカメラを向けながらラストランを見送った。
武田裕太さん:
ようやく実感が湧いたというか、本当に最後なんだなというのを実感して寂しい気持ちが強いですね
森本彩香さん:
(後継の)3000形になっても地元の鉄道会社ですし、生活にも密接に関わってきて、しずてつ電車でできたきっかけもあるので、ずっと追いかけていきたい
1000形最後の車両は乗客200人を乗せて7分間のラストランのあと車庫に入り、約50年の役目を終えた。仲間の中には他の鉄道会社で第2の人生を歩んでいる車両もある。
この日引退を迎えた最後の1000形もしばらくはこの車庫で次の人生を待つということだが、再びどこかで多くの人に親しまれることが期待されている。
(テレビ静岡)