危険な猛暑が続く2024年の夏、山陰地方では農作物をはじめ、私たちの暮らしにも猛暑の影響が及んでいる。こうした中、実は「日本酒」もピンチに追い込まれていた。近年の極端な暑さに頭を抱える島根・松江市の酒蔵を取材した。
ファンに愛される看板銘柄も販売中止
きりっと冷やした日本酒で一献…、夏の暑さも幾分和らぐ。しかし、年々過酷になる猛暑が、この日本酒をピンチに追い込んでいる。
この記事の画像(9枚)松江市にある創業約130年の老舗蔵元・米田酒造の原健太さんは「『純米吟醸 松江づくし』というお酒なんですが、もしかしたら、今年、販売が終了する可能性があります」と蔵の看板商品の行く末を案じていた。
こだわりある地元農家が作った酒米「山田錦」だけを使って、松江の水で醸した「純米吟醸 松江づくし」。ラベルの文字は松江ゆかりの文豪・小泉八雲のひ孫である凡さんが揮毫(きごう)した。
販売開始から約30年、多くのファンを持っている銘柄だが、早ければ2024年末までに販売中止になるという。
酒米の99.9%が受粉できず
松江市内の農家・角智則さんは、約100アールの水田で「松江づくし」に使われる酒米「山田錦」を生産している。
角さんは「気温がボーンと暑くなったので、イネに高温障害が出る。ゆくゆくは穂が実らない」と話し、2022年からの毎年の猛暑によって「松江づくし」がピンチに追い込まれたという。
体温を超える危険な暑さはイネにとっても過酷な環境で、角さんの田んぼでは高温が原因と考えられる障害がみられるようになった。
角さんによると、それまでの猛暑の影響で、2023年は作付けした「山田錦」の99.9%が受粉せず、出荷できたは計画の約5トンに対し、わずか60kgにとどまった。ここまで収穫できなかったのは、初めての経験だという。
高温障害が発生すると、イネは受粉できず、コメは実らない。「中身」がない穂は頭を垂れず、真っすぐに伸びきった状態で収穫時期を迎えるそうだ。
大量の「カメムシ」が酒米を襲う
2024年も猛暑が予想され、酒造りの責任者「杜氏(とうじ)」も頭を抱えている。
米田酒造の杜氏・上濱智信さんによると、高温障害を受けたコメは硬く割れやすいため、精米した時にきちんとした形にならず、酒を絞った後に残る「酒粕」が多くなるという。そうなれば当然、酒の生産量も少なくなってしまう。
さらに、この酒米のピンチに追い打ちを掛けるのが「カメムシ」だ。
酒米農家の角さんが指をさす先にいるのは「イネカメムシ」。イネカメムシは、体長13mmほどの黄褐色のカメムシで、斑点のあるコメや十分実らないコメを発生させる恐れがある。2023年の秋ごろに、鳥取県西部から島根県東部にかけて大量発生した。
イネに発生するカメムシは3種類いて、島根県病害虫防除所によると、2024年7月下旬の調査では、いずれも捕獲数が前年を大きく上回り、稲穂が出始める8月上旬から中旬をピークに発生すると予想されている。
このため島根・鳥取両県は農家に対し、農薬散布などの対策をとるよう呼び掛けている。
酒米にとっても過酷な環境が続く夏、米田酒造の原さんは「高温もそうですし、われわれが何かするのは難しいので、できたお米に対してどうするかというところだと思うので、農家さんと一緒になって頑張れたら良いかな」と語った。
猛暑、そしてカメムシの大量発生。
かつてない酒米のピンチを乗り切ることができるのか、酒造りの関係者が天候に気をもむ日々が続く。
(TSKさんいん中央テレビ)