沖縄県内ではいま日米の軍備増強が進み、また有事を見据えた住民の避難計画が議論されている。
現在の状況と、80年前に多くの子どもが犠牲となった対馬丸の悲劇を重ね、体験者は警鐘を鳴らしている。
対馬丸の事件から国民保護を考える。
対馬丸記念館 代表理事 髙良政勝さん:
きょうの朝まで元気だった人が、帰らぬ人になってしまった。これは本当に戦争の残酷さといいますか、戦争の現実といいますかね
対馬丸記念館の代表理事・髙良政勝さん。
この記事の画像(12枚)4歳の頃に疎開のために乗船した対馬丸がアメリカ軍の潜水艦に魚雷を打ち込まれ、一緒に乗船した父や母、そして兄弟の家族9人を失った。
子どもたちを危険な航路へ
太平洋戦争末期の1944年7月7日、南洋・サイパンがアメリカ軍によって陥落し、政府は沖縄での戦闘を見据え緊急の閣議を開き、厳しい食糧事情や戦闘の足手まといになるという理由で、子どもや女性などおよそ10万人を九州に疎開させることを決定する。
国の命令を受け那覇港を出港した対馬丸は、出発した翌日(8月22日)、トカラ列島の悪石島の北西約10キロ地点でアメリカ軍の潜水艦から魚雷を打ち込まれ、784人の子どもを含む1400人余りが還らぬ人となった。
髙良さんは「戦争になれば、弱い人たちから犠牲になる。昔の対馬丸事件ではなく、現実の世界を見ていてもそんな感じがする」と、いま沖縄で進む日米の軍事一体化や、有事を想定した住民の避難計画について意見が交わされる光景に危機感を募らせている。
対馬丸記念館 代表理事 髙良政勝さん:
いま一生懸命、自衛隊やらなんやらが日米で合同訓練をしているみたいですけど、戦争というのは、始まったらもうお終いです。ルールも何もない
“疎開”は“避難”に 80年前と変わらぬ計画
2024年6月、政府は国民保護法に基づく避難計画について、先島諸島の住民などおよそ12万人を九州や山口県に避難させる計画を示し、受け入れ先の自治体も了承した。
2024年8月、石垣市では初めて市民との意見交換会が開かれ、市から6日間でおよそ5万人の市民を山口県や福岡県、大分県に避難させる計画が説明された。
説明会に参加した女性の住民:
むかし疎開という言葉がありましたけど、避難という言葉とどう違うのですか。住み慣れた石垣市で一生終わりたいなと思います
説明会に参加した男性の住民:
自衛隊と米軍の部隊派遣と住民避難は、同じ空港・港湾を使って行う事になります。そうなると、部隊派遣が続く間は住民は待たされる。安全な状態で避難させるという原則は崩れてしまうかと思うんですけど
対馬丸事件のような暗い歴史や沖縄を取り巻く安全保障環境の急速な変化に、さまざまな不安を抱える住民。
説明会では多岐に渡る質問が上がったが、市側からは「検討中」という回答が多くを占めた。
その一方で政府は、沖縄での軍備増強やアメリカ軍との関係強化を推し進めている。
こうした状況について、安全保障が専門の中京大学・佐道明広教授は「抑止力の強化を急ぐあまり、住民の保護という視点が薄い」と指摘する。
中京大学 佐道明広教授(安全保障論):
自衛隊の施設ができるということは、そこは有事の際には攻撃の対象にもなり得るだということですから、住民の避難とかあるいは保護といったことも同時に施策として行われていくべきだと。それがなされないまま、抑止力の名の下に施設の展開だけが進んでいってしまった
先島諸島に自衛隊が配備されて以降、アメリカ軍との合同演習が頻繁に実施されようになり、訓練では、民間の空港や港が使用されている。
さらに、2024年4月には、防衛力の強化に向けて空港や港を整備・拡充する「特定利用空港・港湾」に那覇空港と石垣港が指定された。
佐道教授はこうした政府の方針について「日米の軍事一体化」が背景にあるとみている。
中京大学 佐道明広教授(安全保障論):
アメリカもいろいろ戦略を見直していて、自由に使える空港・港湾が多数あった方が、いまからの戦略に適応していることもあって、特定空港・港湾の整備を進めていると思います。かなりスピードが速いですね
指定された空港や港は有事の際に日米で共同使用される可能性が高く、佐道教授は「攻撃の対象になり得る」としている。
中京大学 佐道明広教授(安全保障論):
有事になったら確実に(日米で)共同使用しますので、それは特定利用空港・港湾が軍事的に利用されることになると。軍と民間が共用で使っているとなると軍事施設とみなされ、攻撃対象になる恐れがあります
先島諸島の住民避難を議論する一方で、避難に必要不可欠な空港や港を自衛隊とアメリカ軍による共同使用を加速化させる政府。
対馬丸事件の教訓から相反するような動きを、髙良さんは懸念している。
対馬丸記念館 代表理事 髙良政勝さん:
「国がやることだから大丈夫」というような感情を持つ人が大部分じゃないかなと思いますが、私は絶対信用できない。戦争というのは一瞬のうちに起こりますけど、平和は一瞬にして訪れることはないんですよ
多くの子どもたちの尊い命が奪われた対馬丸の沈没事件から80年。
果たして、いまの政府の方針や計画が沖縄戦の反省に立って、二度と同じ過ちを起こさないためのものとなっているのか。
私たちは注視していかなければいけない。
(沖縄テレビ)