北海道内には伝統や長い歴史を誇る地域に愛される祭りが数多くあるが、人口減少や資金不足などで存続の危機に立たされるケースも相次いでいる。
7月、なんとか開催にこぎつけた伝統の祭りの裏側には、関係者の熱い思いがあふれていた。
琴平神社例大祭の火くぐり
札幌市から車で1時間20分、ローソク岩が見えたらもうすぐ、人口約2600人の北海道古平町だ。

7月2週目の週末、盆や正月をはるかに上回る人々が詰めかけにぎわう。

「琴平神社例大祭」。
天狗や神輿が町内を練り歩く祭りは「火くぐり」とよばれる、罪けがれを忌み火ではらい清める伝統儀式でクライマックスを迎える。

古平生まれの町長も。
「子どものころは家の向かいに神社があった。笛の音、太鼓の音を聞いたらもうもう黙っていられないような感じ」(古平町 成田 昭彦町長)

しかし、この150年以上続く祭りが苦境に立たされていた。

町の人口は1955年の1万人をピークに4分の1あまりまで減少し、祭りを担う人材やボランティアの確保が困難に。

必要な資金も不漁や景気の落ち込みで寄付金だけでは賄えない事態になっていた。

「宗教の問題もあって町が関わるのがなかなか難しいが、これはやはり残していかなければならない。“古平町の文化”だから」(成田町長)
箱館五稜郭祭の「土方歳三コンテスト」は2024年で終了
地方の祭りを取り巻く厳しい環境は、どこも同じだ。

毎年5月、函館市で行われる箱館五稜郭祭の名物イベント「土方歳三コンテスト」は2024年、37回を最後に幕をおろした。

同時に、第1回から行われていた維新行列も終了。

参加者の減少、運営側の高齢化が理由だ。
しばれフェスティバルは2024年の開催を断念
また、十勝の陸別町で日本一の寒さを体感するしばれフェスティバルも2024年、40年あまりの歴史の中で初めて人手不足を理由に開催を断念。

2025年の再開に向けて準備を進めている。
ピンチを切り抜けようと知恵
古平町で、このピンチを切り抜けようと知恵を出したのが地域おこし協力隊の森さんだ。
森さんはクラウドファンディングを立ち上げることにした。

「町の人口の何倍もくるような客が押し寄せる現象は祭りのトップだと思う。頭の中で考えてなんかあったらどうすると考えると何も地域は変わらない。Don't think, just do.(考えるな、行動しろ)」(古平町地域おこし協力隊 森 雅人さん)

足りないのは資金だけではなく、人手も。

祭り開催まで超えなければいけない壁がまだまだあった。
祭り存続の課題
祭り存続の上で壁になっているのは資金に加え、深刻な担い手不足だ。

6月、祭りに向け練習をする天狗役の五十嵐竜太さん。

コロナ禍もあり後継者が見つからず本来3~4年で引き継ぐのだが。
「9年目になる」(猿田彦(天狗)を務める 五十嵐 竜太さん)

道具も。
「小野寺下駄店という店があって、鼻緒はまだ作れるが下駄がもう作れない。在庫しかなくて。本当に下駄がやばい。全ての担い手不足」(五十嵐さん)

それでも、ようやく後継者が現れた。

「(Q.何歳差?)今31歳、俺43歳だから一回り違うんだ。亮なら知っているんで、子どもの時から野球教えてたので」(五十嵐さん)
祭り開催の2日前、クラウドファンディングは目標の80万円を達成した。
天狗や神輿が盛り上げる
いよいよ始まった祭り。

漁師の親方や商売をする会社の前では、天狗や神輿が盛り上げる。

「昔は夜中までやってたからね。ずっと遅くまで。(今は)10時ころまで終わらせなければ、子どもたちも出てるし」(参加者)
週末開催で町内外から人を呼び込む
資金に加え不可欠なのが、200人は必要とされるスタッフの確保だ。
「平日にやったら神輿を担ぐ人が来ない。土日に変更しようと。やっぱりよかったと思う」(実行委員 横野 治さん)

もともと本祭は7月10日と11日と決まっていたが、週末に合わせることで町内外から参加者や観光客を呼び込む作戦へ切り替えた。

その結果。
「(Q.お仕事は?)公務員で水道関係の仕事をしている」

「私は総務係なんですけど役場の仕事をしている」
「札幌出身なんで札幌だとこういうのがないので楽しい」
「(Qお仕事は)漁師だ。ウニはまったくだねやばい」(すべて参加者)
あれっ?町長!!
「やっぱり燃えちゃうよね」(成田町長)
スタッフ分の弁当だけでも大量だ。

「(Q.これ皆さんで用意された弁当なんですか?)いや、弁当店から(笑)」
「(Q.余市まで取りに行った?)時間帯見計らって車の混雑を考えて」(ともに運営スタッフ)
作業は大変そうだが、関わっている人はなんだか楽しそうな雰囲気。

いたるところで同窓会のような状況も見られた。
「(天狗と)同級生なんでずっと学校も一緒で、幼稚園の頃からずっと一緒」(観客)
「懐かしい。(Q.こういう時、同級生と会えるの?)いや本当に何十年ぶりにっていうのが、一瞬で笑顔にさせてくれる」(参加者)
クライマックスの火くぐり
天狗や神輿が燃え盛る炎を渡るクライマックスのころには観光客も含め、町は人で埋め尽くされた。

「母が古平町出身なので赤ちゃんの時から祭りに参加している。何とかこれから100年200年と続く祭りになったらいいなと思っていたところに、クラウドファンディングの企画があったので本当にありがたいと支援させていただいた」(クラウドファンディングに出資した観客)

クラウドファンディングを企画した森さんは。
「いろんな縁ができ、見つけることができた。それが何より財産になった」(地域おこし協力隊 森 雅人さん)
2025年の開催に向け呼びかけた寄付には賛同する人が続々と現れた。

「年々町民が減っているが、見学の方が増えてるのは実感している。祭りは小さいころから出続けているので、なければならないものだと思う」(猿田彦(天狗)を務める 五十嵐 竜太さん)

代々続いてきた伝統を守り、次の世代へつないでいく。

時代にあった運営や支援の形を求めて関係者の模索が続く。