全国で相次ぐ書店閉店の流れ。そんな流れにあらがう書店が登場してきている。売りたい本、いわゆる「推し本」でファンを獲得する新たなビジネスモデルを取り入れた、いま話題の「共同型書店」などを取材した。

全国の4分の1の自治体「書店ゼロ」

近年、ネット通販の普及や売れ筋だった漫画・雑誌の販売数の減少を背景に、富山県内でも相次いでいる書店の閉店。日本出版インフラセンターによると、県内の書店の数はこの10年で約3割、40あまり減っている。いまや全国の4分の1の自治体が「書店ゼロ」に。

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経済産業省は3月、書店振興のプロジェクトチームを設置し、書店経営者を招いた車座対話を開き経営課題をヒアリングするなど対策に乗り出している。

こうした中、売れる本ではなく“売りたい本”を販売し、ファンを獲得している書店が増えつつある。

全国初の公設民営の書店が開業

2022年9月、福井県の敦賀駅前にオープンした書店「ちえなみき」。

敦賀駅前に2022年にオープンした書店「ちえなみき」の店内
敦賀駅前に2022年にオープンした書店「ちえなみき」の店内

店内には3万冊を超える書籍が並ぶが、定番の新刊コーナーや売れ筋の漫画や雑誌はほとんど見かけない。

ちえなみき・笹本早夕里店長:
より学びを深めたいという気持ちに応じることができるような本を選書している。いま売れている本というより、さらに知を深められる本を選書している。公設だからこそできる選書かなと思う

実はここ、敦賀市が整備し民間が運営する全国初の公設民営の書店。

運営の流れはこうだ。
敦賀市は民間が所有する駅前の複合施設にテナントとして入居し、「ちえなみき」の整備費として4億1000万円を負担した上で、民間の事業者に店舗の運営を委ねている。

敦賀市の年間の支出は、テナントとしての賃料と民間事業者に支払う指定管理料を合わせた約1億円。一方、収入として、複合施設からの土地の借地料、隣接する立体駐車場の納付金などがあり、差し引いた支出超過分は、年間1200万円程度に抑えられるという。

開業から1年半の来場者は、目標を3倍以上上回る48万人で、敦賀市の新たな教育、文化の拠点になっている。

敦賀市まちづくり観光部・山東祐輔係長:
いわゆる読んでいただきたい本というのを行政として提供することで、利用者の方々の知性や感性を刺激したいというところで、こういったスタイルの運営というのは、行政にしかできないと思っている

いま話題の「共同型書店」

企業でも、売りたい本を扱うビジネスモデルが注目を集めている。

東京・神保町にある書店「PASSAGE」の店内
東京・神保町にある書店「PASSAGE」の店内

本の街、東京・神保町にある書店「PASSAGE」の店内には、細かく区分けされた本棚が並ぶ。

実はこの書店、小さな書店がたくさん集まった、いま話題の「共同型書店」だ。店内の本棚にはその1つ1つに棚主がいて、それぞれ好きな本、いわゆる「推し本」を好きな価格で販売しているという。

PASSAGE 店主・由井緑郎さん:
評論家の方なら付箋をつけたまま売るといったこともしている。メルカリでこういったものだと嫌だったりするが、名前の知れたあの方の付箋と思うとすごく価値が出る、1点物の本になったりする

棚主がそれぞれSNSでPRしてくれるため、お店の認知度はうなぎ上り。個性的な本と出会える場所として人気となっている。

訪れた人たちからも「気になった表紙の本があると、同じ棚に何が並んでいるのか気になる」
「いろんな人の好みが反映されていて、人の本棚をのぞき見している感じが楽しい」と好評だ。

また、棚主も「自分が推している本や読んでもらいたい本を、誰かが受け取ってくれるというのはとてもうれしい」と話す。

書店の維持には“推し”が重要

本棚の使用料は月額5500円から。棚主は、書籍の売り上げの15%を販売手数料として納める仕組みだ。店内には常時スタッフを2、3人配置しているが、月々の家賃を含めても棚の3割強が埋まれば採算がとれる。

従来の書店の利益率の低さに課題を感じ、共同型書店を始めたという店主の由井さん。書店を維持するためには、本を売る側の「推し」が重要だという。

PASSAGE 店主・由井緑郎さん:
売りたい人を増やすというのが一番、そこがミソになると思う。本を本気で売りたい人が増えてくると買いたい人も増える。売りたいと思っていても、いままで本屋になろうとしても初期費用に何百万円もかかってしまうので、気軽に本屋になることはできないけれど、共同型の書店でひと棚だったらこの本屋を応援する意味でも入ってくれる人は多い。「売りたい」とか「好き」とか「推し」という気持ちを商売に転換していくのがよいかなと思う

一般の書店は新刊の漫画、雑誌などが置いてあって、全国どこでも同じものが買える。それはそれで素晴らしいことだが、こうした推しの本が並んだ書店というのは、よりファンが定着しそうだ。

(富山テレビ)

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