バスケットボールB3リーグに所属する金沢武士団(サムライズ)が今シーズン最終戦を迎えた。石川県七尾市が拠点の金沢武士団は今シーズン多くの試練があった。
練習場所が避難所に
2024年3月7日に行われた金沢武士団の最終戦。会場は武士団の練習拠点、七尾市の田鶴浜体育館だ。コートに立つ選手、そして応援するブースターにとって大切な一戦となった。元日に発生した能登半島地震で、七尾市は最大震度6強を観測。武士団が練習していた田鶴浜体育館は避難所になった。そんな避難所を支えていたのは、武士団の選手やスタッフだ。余震も続く中、練習どころではなかった。
この記事の画像(5枚)1月下旬。リーグまっただ中の武士団は、金沢以南の野々市市や白山市で体育館を借りて練習を再開した。しかし選手たちの心境は複雑だった。久保拓斗選手は「バスケットをするのが我々の仕事なので集中しないといけないんですけど、頭の片隅で被災された方や避難所で生活している方を思い出すと、自分たちは安全なところに来て、好きなことをしていていいのかなっていう葛藤は日々ありました」と話す。
避難生活を続けながら応援
2月に入り公式戦が再開した。選手たちを後押ししたのは、田鶴浜体育館で避難生活を続ける人たちだった。彼らは会場となった岐阜県まで応援バスで駆けつけた。その一人、坂口美由紀さんは「選手たちが一丸になっていた気がして、すごく気持ちが伝わってきて元気をもらいました。前向きにならないとって思えるようになったかな」と話した。さらに久しぶりに石川県内で開かれた試合では、小松市で2次避難している人が招待された。その一人、松本石根さんは「輪島の友人たちや知人たちともここで偶然出会えたので、こういう機会があってすごくよかったと思います」と話す。
能登半島地震の発生から3カ月、被災地とともに戦ってきた金沢武士団。シーズンの締めくくりは練習拠点の田鶴浜体育館だ。金沢武士団の田中翔大キャプテンは「僕たちが毎日練習させていただいた場所で最終戦を迎えられるということはありがたいことですし、こうして試合ができるのも全国各地で募金活動だったりいろんな支援があってのことだと思うので、感謝の気持ちを忘れずにチーム一丸となって戦っていきたいと思います」と意気込む。4月4日。多いときに200人が身を寄せ合っていた田鶴浜体育館は、2日間かけて公式戦ができる会場に生まれ変わった。
チームが戻ってきた
「元気でしたか?」「なんとかね、翔大くんは?」「めっちゃ元気です。会いたかったです」「私も会いたかった」。地元の人たちと選手たちの間で再会のあいさつが交わされ、約2カ月ぶりに武士団が田鶴浜に戻ってきた。田中翔大キャプテンは「ここでまたバスケットができるとは思っていなかったですし、まさかこうして試合ができるなんて思ってなかったです。ここでバスケットをしたのは震災前なので…なんかすごいっすね」と感慨深い様子だった。田中志門選手は「自分たちが練習していた時とは全然違う感じなので、ちょっと驚いています。やっぱり感謝の気持ちが一番でかいですね。それをプレーで見せたいなと思います」と気合を入れた。
久しぶりの練習再開に地元も大喜び。現在も避難所生活を送る山本美保さんも選手を待ちわびていた一人だ。「朝一番に来るのは田中翔大くん、キャプテンの子。練習開始が10時だとしたら8時前には来ていた」。山本さんは震災前から田鶴浜体育館を管理するスタッフとして、チームを一番近くで見てきた。「こうやってここで試合ができるってことは本当に、すごく感慨深いというか…」。ほんの1カ月前まで避難所だった田鶴浜体育館。日常への大きな一歩だ。
本拠地で迎える最終戦
迎えた最終戦。相手は10位、格上のアースフレンズ東京Zだ。体育館に駆けつけたブースターは両チーム合わせて641人。このうち、まだ避難生活を続けている人は200人ほどいる。山本さんも夫の直樹さんとともに声援を送る。「一人一人が自分の全部を出してほしいと思います」。
試合開始。金沢市出身、久保の2連続シュートで幸先良くスタート。しかしそこからは相手のペースに。最大15点差をつけられ、前半を12点ビハインドで折り返す。このままでは終われない武士団。久保の連続得点などでじわじわと点差を縮めると、ついに逆転!しかし最後は突き放され67対86。金沢武士団は6勝38敗となり最下位で今シーズンを終えた。それでも会場からは温かい拍手が送られた。
田中翔大キャプテンは「点数が離れそうなときにも、皆さんの拍手や声援で僕らの流れになりましたし、本当に応援が力になりました。こうして田鶴浜体育館に帰ってこれたのもご支援があってのことなので、感謝の気持ちを忘れずにまたバスケットを続けていきたいなと思います」と話した。避難生活を送る山本さんは「また明日から現実ですね。現実が待っています。でも我が子のような子たちが頑張っている姿を見るっていうのはうれしいし楽しいし、応援しがいがある。これからもまた応援していこうと思っています」と話す。七尾市田鶴浜を拠点に活動する金沢武士団。これからも被災地とともに歩みを進めていく。
(石川テレビ)