2024年2月に都内で開かれた「いしかわ伝統工芸フェア」。輪島塗を扱う店は倒壊した建物から商品をかき集め、出店にこぎつけた。背景には17年前の教訓があった。

2007年の教訓

「漆関係の職人さんたちがいた家も何軒も潰れて…」。石川県輪島市鳳至町に店舗と工房を構える坂口彰緒さん(50)。元々は職人で、今は輪島塗の販売を主軸としている。工房の棚からは置いてあった物が崩れ落ちてしまったが、家の片付けもそこそこに、被害がない作品を集めていた。「いしかわ伝統工芸フェア」に出店するためだ。

坂口彰緒さん
坂口彰緒さん
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石川が誇る伝統工芸を都内でPRするこのイベント。主催者側からは、能登半島地震直後の開催だったため「出店を見合わせたほうが良いのでは」と提案があった。しかし坂口さんはあえて出店することを決めた。「2007年の能登半島地震の時に片付けを優先して販売を後にしたら、輪島塗が忘れ去られたみたいな過去があったので、今回は工芸フェアをこのままやってくださいと」。

坂口さんの工房
坂口さんの工房

坂口漆器店の作品も手掛ける塗師の前田最嗣さん。前田さんの工房も大きな被害を受けた。大事な道具もどこに行ったか分からない。坂口さんはここでも、無事だった作品を探した。「何をするにしても中々動けない中で、今回こういう風に輪島塗を出してもらえるのはありがたい」と前田さんは感謝する。「この先、どうしたって皆さん現金が必要になってくるんで、今あるものを現金化しないと動けないので」。坂口さんは救出した作品、約200点とともに東京へ向かった。

大盛況のいしかわ伝統工芸フェア

工芸フェアの会場は被災地を支援しようと多くの客でにぎわっていた。強さと美しさを兼ね備えた輪島塗。坂口漆器店でも、124もの工程から出来上がった商品の魅力を客に伝える。「この箸は、1人の職人さんが生地を仕入れて、自分で手塗して作ってるから耐久性が全然違う」。訪れた客は「すごくキレイでツルツルで、ご飯食べるの楽しくなるかなと思って選びました」「素晴らしい技術の高さですよね。デザインも素晴らしい」などと話し、好評だった。

中には50万円近い作品を購入する人も…。「海外の方への贈り物を探していて、海外からも皆さん心配されていたので。輪島の物でプレゼントできたら喜ぶかなと思って」。すると坂口さんが突如、駆け足に…売り切れた商品の補充だ。「こんなこと無いですよ。フェア始まって以来ですよ」と坂口さんも驚く。工芸フェアの来場者は3日間で7万人以上。自宅の片付けを放っておいてまで出店した甲斐があった。「これを逃したらチャンスは無いと思うぐらい。すごくいいPRになったんじゃないかと。輪島塗自体が人なんですよ。だから技術、人を大事にしていかなきゃいけない」。

輪島塗の未来は…

「せーの!」。全国各地で輪島塗を売り歩いていた坂口さんだったが、地震が発生して約3カ月、ようやく家の片付けを始めた。「よし、回転風呂(※漆を垂らすことなく硬化させる装置)は大丈夫。起動させたのは地震発生後初めてですね。これで一安心」。しかし一方である懸念が。「新潟と福岡に行ったんですが、お客さんの頭の中から地震が消えてて。全体的な雰囲気として過去の話になっている状況が見られましたね」。

完成するまでに最低でも1年半はかかる輪島塗。政府は4月、輪島塗の仮設工房を設置した。しかし坂口さんが仕事を依頼する職人は市外に避難を余儀なくされていてまだ仕事ができる状態ではない。「仮設工房は4軒ほどしか出来ないっていうのは聞いてますので、順次そういう物ができてくればまた違う動きになるんじゃないかなと。やっぱり受注も少しはあって、制作を早くしないと納期に間に合わなくなるので、そこが不安」。被災地のいち早い復旧が輪島塗の伝統を途絶えさせないことにもつながるはずだ。

輪島塗の仮設工房
輪島塗の仮設工房

(石川テレビ)

石川テレビ
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