自民党派閥のパーティー券収入のキックバック不記載問題をめぐり、岸田首相は安倍派幹部4人に対し自ら直接聴取に踏み切った。26日には塩谷元文科相、下村元文科相、27日は西村元経産相、世耕前参院幹事長の計4人の聴取を行った。

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この4人の安倍派幹部は、2022年4月に安倍元首相が主導し廃止を決めたキックバックについて、安倍氏が凶弾に倒れた後の8月に復活について話し合った幹部会合に出席していた。

処分は3段階か キックバック復活に関わる安倍派幹部には最も厳しい対応検討

自民党の処分が4月上旬までに行われる見通しとなる中、処分はおおまかに3段階になる形で検討が進む。

最も厳しいのは、安倍派キックバックの復活への関与が指摘され、岸田首相が直接聴取を行った塩谷氏、下村氏、西村氏、世耕氏の4人となる見通しだ。自民党の規約では処分が8段階で定められていて、4人には3番目に重い「党員資格の停止」や、4番目の「選挙での非公認」が検討されている。

4番目の「選挙での非公認」だと、自民党として選挙に立候補出来なくなり、衆議院・参議院とも選挙で比例からの立候補が出来ないことになる。衆院議員にとっては、小選挙区で敗北すれば、比例復活できず即落選という厳しい戦いを強いられる。

さらに3番目に厳しい「党員資格停止」となると、選挙の非公認に加えて、自民党の役職停止、自民党総裁選挙への立候補資格の喪失、小選挙区支部長の資格停止などが科される。加えて、自民党からの政治資金の交付が停止され、議員活動にとっては、大きな痛手となる。

次に厳しい2段階目の処分の対象は、安倍派“5人衆”のうちキックバック復活に関わる幹部会に参加していなかった、松野前官房長官、高木前国対委員長、萩生田前政調会長らとみられる。処分は党の処罰の下から3番目となる「党の役職停止」などが検討されている。

自民党関係者は、党の処分の重たさについて「加点方式になる」との見方を示していて、対象者は不記載金額の大きさ、党の要職経験、派閥の役職経験が加味され、先の4人に比べれば軽いものの、その他の議員の中ではより厳しい処分が検討されている。

ただし「党の役職停止」とはいえ、松野氏、高木氏、萩生田氏はすでに問題発覚を受けて、政府や党の要職を辞任しているため “形式的処分”との批判も免れないとみられる。そのため、より重い「選挙での非公認」処分とすることも検討されている。

そして自民党は不記載議員全員への処分を検討しているが、上記の2段階の対象者を除く大多数の議員への処分としては、党のルールで下から2番目に軽い「戒告」処分が検討されている。

“総理大臣“は裏金問題で厳しい処分が”受けられない

不記載議員の処分が3段階で検討が進む中、残る焦点が、自民党総裁である岸田首相への処分だ。立憲民主党の杉尾議員は27日の参院予算委員会で、岸田首相について、安倍派議員幹部と同様に「党の役職停止」となった場合について「総裁を続けられないのではないか」と迫った。これに対し、岸田首相は「私自身含めて党の手続き、党の判断が尊重されなければならない」と処分についてのルールを述べるにとどめ、自身への処分の有無については言及を避けた。

では、岸田首相に対し安倍派幹部に検討されているのと同じ「党の役職停止」処分はあり得るのだろうか。政治判断とは別に、自民党のルールだけをみると、総裁への厳しい処分は極めて難しいことがわかる。というのも、「党の役職停止」処分にした場合、岸田首相は、自民党総裁を辞任することになる。総理大臣は、第一党のトップが、国会の総理大臣指名選挙で選ばれるという慣例に従うと、次の総理指名選挙で岸田衆議院議員は総理大臣に指名されないことになる。

つまり、岸田首相は、与党に何の足場もない立場となり、事実上今期限りで退陣する判断と等しい処分となる。さらに「党の役職停止」より一つ厳しい「国会等の役職辞任勧告」については、政府の役職も含まれるため、総理大臣を辞任することになる。

「党の役職停止」以上に厳しい処分であれば、いずれも自民党総裁にとどまれないことから、事実上、首相退陣に直結することになる。

ただし、岸田首相自身も自民党としても、派閥裏金問題の処分での首相退陣は全く考えていないため、今回のケースでは「総理大臣は、自民党則の厳しい処分は受けられない」となるわけだ。

ただ、軽い処分として「戒告」「党則遵守の勧告」があるものの、自民党のトップとして迫られる処分としては、むしろ“軽すぎる”との誹りを受けかねないというリスクがある。

そもそも、岸田首相は周辺に対し、自民党議員への処分に関して「自身も含めといった覚えはない」と語っている。

岸田首相は4月2週目に訪米予定で、その前の4月上旬にも自民党の処分を決定し、一連の裏金問題のけじめをつけたい考えだ。このけじめで幕引きとなるのかどうか、その後の支持率の推移や、4月28日に予定される衆議院の補欠選挙の結果でその評価が下されることになる。

西垣壮一郎
西垣壮一郎

フジテレビ報道局 政治部デスク 世論調査担当
2000年から政治部担当で報道記者・報道番組プロデューサーを歴任。
政治部官邸キャップ、自民党キャップ、野党キャップなどを担当。
ワシントン支局特派員(ブッシュ政権~オバマ政権)「BSフジLIVEプライムニュース」総合演出、「日曜報道 THE PRIME」プロデューサーなどを経て現職。
趣味は釣り。