カタールW杯日本代表GKシュミットダニエル。ブルーのユニフォームが世界を席巻した舞台を経験し、順調にキャリアを積み上げていくはずだった守護神は、フランスのリーグ・アンへの移籍が急きょ破談となった中でも、再び前を向いている。そこには彼を支え続ける仲間と家族の存在があった。

仲間と家族の存在 「この経験を美談に」

移籍が破談に終わり、試合にも出られないことが分かっていた中、シントトロイデンに戻ったシュミット。「戻るしかなかった」という表現が正しいかもしれないが、シュミットはそんなチームに感謝しているという。

「シントトロイデンは練習に参加させてくれた。それが無かったら、選手としてのスキルは無くなっていた。キーパーコーチも気を使って練習してくれた。みんな自分のことのように悲しがってくれて。すごくいい仲間に囲まれて。苦しかったけど彼らがいなかったらもっと苦しかった」
(シュミットダニエル)

序列が変わることはなかったものの、共に4年間戦い続けた仲間たちの存在が、シュミットを支えていた。

そして、シュミットにとって一番大きかったのが、ベルギーで共に過ごす家族の存在だった。

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「妻は一緒に悲しむというより、ケツを叩いてくれた。『(フランスに)行くなということだったんだよ!』と励ましてくれたので、助けられた。生活だけでみたら、ベルギーにいたほうがよかったし、家族にとってもいい出来事だったのかもしれない。移籍ができなかったことを家族が喜んでいるわけではないけど、ベルギーにいれることを喜んでいる子供たちを見て、『こうなってもよかったのかも』と思えた。今振り返ればあのチームに行かなくてよかったと思っているんで(笑)。支えてくれたのは家族とチームメート。その人達のおかげでこの経験を美談に変えてやると思えた」
(シュミットダニエル)

順風満帆でなくとも「何度でも這い上がる」

環境は決していいものでは無かったかもしれないが、黙々とできることを続けたシュミット。ここまでのサッカー人生もすべてが順風満帆だったわけではない。

小学生時代のシュミット(中央)当時ポジションはMFだった
小学生時代のシュミット(中央)当時ポジションはMFだった

中学時代にはサッカーを一度やめたこともあった。大学時代もレギュラーになったのは4年生の時。ベガルタ仙台でもレンタル移籍で経験を積んだ後、絶対的守護神へと成長。これまでも逆境や苦しい状況から這い上がってきた。

そして12月の移籍市場で、再びシュミットにチャンスが訪れる。

2023年最後に掴んだ移籍 今後の未来へー

「12月に冬の移籍市場が見えてきて、そこに向かって頑張ろうという気持ちになれた。どこか移籍できるチームがないかと思っている時にKAAヘント(ベルギー1部リーグ)のGKが大けがをして、すぐにコンタクトがあったわけではないが、周りからも期待の声がかかった。すると12月の中旬にコンタクトがあった。シントトロイデンも契約があったが、僕をプレーさせないのに給料を払うよりも、移籍をさせてあげたほうがシントトロイデンにとってもいいし、僕自身にとってもいいと判断してくれた。KAAヘントにも感謝したいしシントトロイデンにも感謝したい。12月は最後の最後ですべてがうまくまとまった。いい1年の締めくくりだった」
(シュミットダニエル)

苦境の時期を下を向かずに進み続け、2023年の最後に移籍のチャンスを掴んだシュミット。サッカー人生の岐路に立った中でも、希望を捨てなかった理由。それは”見据える未来”がブレていないからだった。

「所属チームでいい結果をもたらせる選手であり続ける。パフォーマンスを維持する。維持できていれば代表にも選出されるチャンスもある。結果を出しながら代表に返り咲いて、2026年の北中米W杯に、スタメンで出ることが一番大きな目標かなと思います」
(シュミットダニエル)

「いつかはベガルタ仙台で」思う故郷

宮城から世界へ羽ばたいたプロサッカー選手として、取材のたびに「宮城県の子供たちの目標でありたい」と話してくれていたシュミット。“ワールドカップでプレーすること”“海外の第一線でプレーし続けたい”という目標を語った中で、育った故郷とベガルタ仙台への思いも忘れていなかった。

ベガルタ仙台に在籍していたシュミット
ベガルタ仙台に在籍していたシュミット

「必要とされれば、ベガルタにいきたいし、必要とされるレベルに僕もずっといたい。いつか仙台でプレーするのは思い描いている将来なので。いつになるか分からないけど、あのスタジアム(ユアテックスタジアム仙台)をホームのスタジアムにしてプレーしたい。まずは海外でできるだけ長くプレーしたい」
(シュミットダニエル)

あのW杯を経験したGKとして、必要不可欠な存在になるために。たった一人しか出られないポジションで日の丸を背負う正守護神の座を、虎視眈々と狙い続ける。

静かに闘志を燃やす守護神が新たなスタートを切った。

(仙台放送)

仙台放送
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