全国で1700人以上が水俣病の被害を訴え、国などに損害賠償を求めている裁判。 大阪に続く2件目の判決となった熊本地裁は、原告144人の訴えを全面的に退けた。
■原告全員の訴えを退ける
今も水俣病に苦しむ人たちが裁判所周辺に集まる中、掲げられたのは…。
記者リポート:今、熊本地裁から出された判決は『不当判決』という判決が掲げられました
判決は、原告全員の訴えを退けるものとなった。
1956年に初めて公式に確認された水俣病。患者の多くは熊本県と鹿児島県に囲まれた不知火海(しらぬいかい)周辺に住んでいた。

発症の原因は、熊本県水俣市にある化学メーカー・チッソが海に排出したメチル水銀によって汚染された魚介類を食べたことで、重症でなくても手足がしびれたり、転びやすくなったりするのが特徴だ。
大阪府島本町に住む前田芳枝さん(75歳)。
前田芳枝さん:しんどい…ごめんなさい、こんな字しか書けないんですよ
今も字が書けないほど手が震える水俣病の症状に苦しんでいます。
前田芳枝さん:10代からこうやってぶるぶる震えておりましたので、人生返してよと。私が何したんですか。魚を食べただけなんですよ
被害者たちが裁判を起こして勝訴した結果、2010年に国は「水俣病特別措置法」により、救済の条件を緩め、一時金や医療費の支払いを認めた。
しかし、救済のための申請は2012年7月で締め切られ、その2年後に水俣病と診断された前田さんは、申請することすらできなかった。
さらに救済される地域が限られていたため、前田さんが住んでいたエリアは対象外に。 前田さんと同じような境遇に立たされた全国の1700人以上が、救済を求めて国などに集団で訴訟を起こしている。
■不知火海周辺の住民 体の不調を訴える人が多数

今も水俣市の民間病院では、ほぼ毎月、水俣病が疑われる人たちの集団検診が行われている。 先がとがった針のような器具を体に押し当てて、異常が無ければ痛さを感じるはずだが、ある60代の患者は…。
医師:足の先ですが、チクチクしますか?すねはどうですか?
男性:しないです
この男性は器具を当てても痛みを感じないという。
水俣協立病院 藤野 糺名誉院長:水俣病からきている感覚障害だと思います。加齢と共に出てきたということじゃないでしょうかね
民間の医師たちが不知火海周辺に住む1万人以上に検診をした結果、手足のしびれやつまずきやすいといった不調が「いつもある」と答えた人たちは、他の地域に住む人に比べて明らかに多くなっている。
こうした調査結果なども踏まえ、裁判で原告側は国が救済対象とする地域の外であっても、不知火海周辺に住み魚を日常的に食べていれば、水俣病は発症しうると主張。
2023年9月、大阪地裁は原告128人全員を水俣病と認め、国と熊本県、原因企業のチッソに1人あたり275万円、あわせておよそ3億5000万円の賠償を命じた。 国・熊本県・チッソは、この判決を不服として控訴している
■熊本地裁の判断 大阪訴訟とは正反対の結果に

そして3月22日。 “熊本訴訟”の原告1400人のうち、裁判が先行する144人に言い渡された判決は、“大阪訴訟”とは正反対の内容となった。
熊本地裁は、争点となっていた原告らを水俣病と認めるかについて、「メチル水銀を取り込んでからおおむね10年以内に発症する」という考え方を示した。 その上で「汚染源から遠ざかるほど、魚介類の汚染の程度は相対的に低くなる」などとするこれまでの国の基準にのっとり、原告144人のうち、25人しか水俣病だと認定しなかった。
また、この25人についても、不法行為から20年経過すると賠償請求権が消える「除斥期間」を適用すべきだとする国側の主張を採用し、原告全員の請求を棄却した。
判決を受け原告は…
熊本訴訟 原告団 森 正直団長:全然納得のできない、怒りを通り越した判決だったと思っています。除斥期間とか何かで切られるというのがちょっと私も全然考えられなくて
大阪訴訟 原告 前田芳枝さん:残念無念、怒り心頭の一言に尽きます。残された年齢がもうないんですよね。一刻も早く解決していただきたい
各地で訴訟が起きているこの問題。4月には新潟地裁で判決が言い渡される。 原告が高齢化している中、早期の解決が望まれている。
(関西テレビ「newsランナー」3月22日放送)