地域で暮らす高齢者を支える「訪問介護」。その現場で働くヘルパーたちから怒りの声があがっている。

https://youtu.be/qjlN-sRJFRs

ヘルパー50代:悲しいですよね。それだけの価値しかないのか、私のやっていることはみたいなそんな思い。
ヘルパー60代:もう訪問介護いらんのやろなって、国は思ってるんだなあっていうのが、もうひしひしと伝わってきてますね。とことん人を馬鹿にした国やねって。

怒りの矛先は、厚生労働省が4月から行う、「介護報酬」の見直しだ。

同じ介護でも「特別養護老人ホーム」や「デイサービス」では報酬が軒並みアップする中、「訪問介護」だけがまさかの減額。このままでは、地域で暮らす高齢者が、自宅で介護を受けられなくなる未来が、やって来るかもしれない。

■介護報酬の改定で「訪問介護だけ」2%から3%の減額

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大阪市西成区にある「ヘルパーステーションわかば」は、9人のヘルパーで、地域に暮らす64人の高齢者の訪問介護を担っている。

ヘルパー:島田さーん。おはようございますどうも。きょうもよろしくお願いします。

訪れたのは、84歳の島田時子さんのお宅。

この日は、ヘルパーに付き添ってもらいながら、近所のスーパーへ買い物に。島田さんは、歩行器を使わなければ、外で歩くことができず、介護が必要な度合いは、5段階で2番目に重い”要介護4”だ。

同居している50代の息子は、手足の神経がまひする難病を抱え、働くことが難しい状態で、息子のためにも、できるだけ長く自宅で暮らしたいと考えている。

島田時子さん:少しでも歩かんとな、歩けなくなるのが一番いややから、こないしてちょっとでも歩けるだけありがいたいと思って、歩いてるんです。

しかしいま、そんな島田さんの生活を脅かしかねない事態が、迫っている。

共産党 宮本徹衆議院議員:今度の介護報酬の改定で、訪問介護の基本報酬がマイナス改定に。

事業者の主な収入源である”介護報酬”は、3年に一度見直されるが、厚生労働省は、4月から、ほぼ全てのサービスで軒並み増額としたものの、訪問介護だけは、2%から3%の減額としたのだ。

事業者の収入が減ることに直結するだけに、関係者には衝撃が広がっている。

大阪きづがわ医療福祉生活協同組合 山田英樹常務理事:なんでヘルパーのところだけ、訪問介護だけ下げるんかなっていうのは、ちょっと意味がわからないですね。

この団体では、ヘルパーステーションわかばを含めて、3つの訪問介護事業所を運営しているが、今年度の収支は、赤字の見込みだ。

このまま報酬が減額となれば、収支を悪化させないために業務を効率化せざるを得ず、「付き添って一緒に買い物に行く」といった、利用者によりそったサービスが、提供できなくなる恐れがあるという。

島田時子さん(84):ゆっくりしか歩かれへんけどね。それでもね。まだ寝たきりよりはましやと。ありがたいと思ってね。一緒に歩いてもらってるんですよ。いつも元気になる言ってるもんな。元気もらって一緒に歩いて。

■減額理由は「利益率が高い」、一方で約4割の事業所が赤字経営

一体なぜ減額とされたのだろうか。

厚生労働省は、「訪問介護事業は、他の介護サービスと比べて、利益率が高いから」と説明しているが…

福島みずほ参議院議員:大臣、4割近くが赤字ということでよろしいですね?
武見敬三厚生労働大臣:(赤字は)およそ4割弱になります。

厚生労働省によると、約36%の事業所が赤字経営で、その多くは小規模な事業所とされる。しかし、厚生労働省の調査では、「訪問介護事業」の利益率は7.8%。この高い数字の背景にあるのは、大規模事業者の存在だ。

小規模事業所が1軒1軒離れた家を見て回る、地域密着型のサービスなのに対し、大規模な事業所は高齢者向けの住宅などに併設していて、複数を一気に訪問するため利益が出やすいのだ。

国はこの両者を区別せず、調査しており、実態とはかけ離れていると困惑する声も…。

一般社団法人和音ねっと 櫻庭葉子代表:こんだけ倒産してんのに…大変やでほんまに。

小規模事業所の代表を務める櫻庭葉子さんは、地域で暮らす高齢者のお宅を1軒1軒回って支えることをモットーにしている。

ただ、2022年は、新型コロナの影響で訪問件数が減ったこともあり、大幅な赤字に。

厳しい経営を強いられる中での報酬減額で今後、事業そのものを継続していけるか、不安を感じている。

一般社団法人和音ねっと 櫻庭葉子代表:報酬を下げるなんて、もうありえない話で、われわれとしたら報酬を下げずにしてもらいたいなぁって国には思ってます。じゃないと、みんなもう持ちこたえられない。自分たちのこれ以上の犠牲を払ってまで、やれる仕事じゃないです。もう先行き真っ暗ですね。

住み慣れた地域で暮らしたい高齢者を支えるはずの「訪問介護」がいま、岐路に立っている。

■小規模事業にとってかなり不利な診療報酬の改定

介護問題について取材している竹下洋平記者に解説してもらう。

訪問介護だけが減額、これは、事業者さんには、大きな打撃だ。

竹下洋平記者:大規模事業者が黒字と、小規模事業者が赤字という二極化になっています。小規模事業者が非常に大きな影響を受けそうです。小規模事業者の特徴として、利用者さんに寄り添った事業をしていて、融通を効かせてあげたり、本来のサービスではないけど、雑談に付き合ってあげたりしていていますが、そういうことをやっているからこそ、効率が悪くなって儲けが出にくいというところに、さらに今回の基本報酬の減額が追い打ちをかけている状況です。

訪問介護の減額について、武見厚労大臣は、今月の会見で、「基本報酬は減額だが、処遇改善加算はプラス、全体としてはプラスの改定とした」と説明した。これはどういうことだろうか?

竹下洋平記者:処遇改善加算というのは、事業所が働く人たちの「処遇」を改善すれば報酬を加算する、つまり簡単に言いますと『事業所で、キャリアアップ研修や、ICT化するなどして、優れた人材がいる良い事業所になれば、お金を増やします』ということです。ただ、簡単なことではありません。今回取材した小規模事業者の代表は『処遇改善加算は、要件を満たす基準が厳しく、研修に時間やお金をかける余裕がない。たくさん書類も必要で、書類を作る事務員もいない、小さな事業所は対応が難しい』と話していました。ちなみにこちらの事業所は、加算を取得しても全体の収支はマイナスになるということでした。

小規模事業にとっては、かなり不利な診療報酬の改定となったが、国は、どう考えているのだろうか?

関西テレビ 神崎博報道デスク:国としては、いまの物価高や賃上げの流れの中で、介護職員さんの待遇を改善したい、給料アップしたいというところで、その点については手厚くしようということで、報酬は改善します。実は介護職の年収は他の全産業の平均よりだいぶ低く、人が集まらない状況なので、ここは何とか手厚くして人を集めようとしています。当然そこを増額するために、どこか減額しないといけないということで、今回、訪問介護が狙い撃ちされたという状況です。

■「2035年には訪問介護サービスは受けられない最大の失策」

訪問介護の今後について、社会保障政策に詳しい淑徳大学の結城教授は、「高齢者が増え、現役世代が減る2035年ごろには、訪問介護サービスは受けられなくなる!今回の改定は最大の失策」だと指摘している。

竹下洋平記者:2035年ごろというのがキーワードで、2035年に団塊の世代の方が85歳になります。85歳になると要介護の方の割合も非常に増えます。一方で、これから訪問介護サービスというのは、どんどん先細りサービスをしている事業者もどんどん減っていくだろうと。つまり、2035年には要介護者の方がたくさん増えるけれども、その方にサービスを提供できる事業者がなくなってしまうのではないかという意味で、最大の失策だと考えられているということです。

取材の中でどのようなことを感じたのか?

竹下洋平記者:少し厳しい言葉になりますが、『未来は、お金持ちしか安心して老後を暮らせない』と考えざるを得ないと思います。お金を持っている高齢者は、高齢者住宅など施設に入るか、家で暮らしたい方は高額なお金を払って家政婦さんに来てもらうことはできるかもしれません。お金のない弱い高齢者は、1人なんの介護も受けられず、畳の上で死んでいってしまう。こういう未来が待っていると感じました。弱肉強食の世界にこれからなっていくのではないかと個人的には強い危機感を持っています。

番組コメンテーターで京都大学大学院教授の藤井聡さんは「この問題は、介護にかけられる予算のパイが決まっていて、それをどう分配するかということ。訪問介護は非常にサービスレベルの高い介護なので、可能な限り持続することが必要だと強く思う。パイを増やすために介護と医療の線引きに問題があり、改革することで十分な予算が確保でき、訪問介護を持続させる事ができる」と指摘した。

今後、訪問介護の報酬が改定されることはあるのだろうか?

竹下洋平記者:政府ではなく、厚生労働省が行った3年に一度の改定ですので、なかなか簡単に変わるものではありません。ただ、今回の改定が『おかしいんじゃないか』と世論が盛り上がれば、政治判断で臨時で改定される可能性もあります。なので、今後の世論の盛り上がりが1つのポイントになってくると思います。

必要な人に介護サービスが行き届くように、政府には、現場の声に耳を傾けてもらいたい。

(関西テレビ「newsランナー」2024年3月22日放送)

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