身の危険は、日常の中で遭遇するもの。普段から防災グッズを揃えているという人もいるだろうが、身の危険はなにも天災だけではない。

そんな中、防刃ベストなどの防犯製品の開発・販売を手掛ける株式会社SYCOが、防刃パネルを内蔵したトートバッグを開発し、話題になっている。

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注目されているのは、SYCOの独自ブランド「SSP」から登場された「SSPトート」。一見、ごく普通のトートバッグのようだが、バッグの内側(仕切り板と兼用)には高強度の防刃素材パネルが仕込まれているのだ。

防刃素材パネル
防刃素材パネル

このパネルに用いられた防刃素材は、国際的な規格によって耐刺突斬撃性能が確認されている。

さらにバッグ本体は厚手の防水キャンバス地で、普段使い以外にも、防災バッグ・アウトドア用としても使える丈夫さがある。この丈夫さを生かして、「振り回して護身具として使用する」こともできるのだという。

使用イメージ
使用イメージ

サイズは幅35cm×縦40cm×奥行15cmで、重さは1460g。カラーは、生成り・ブラック・オリーブの3色から選ぶことができる。一般販売予定価格は3万9600円(税込)だが、3月30日までは応援購入サービス「Makuake」で割引価格での先行購入が可能となっている。

「包丁で思いっきり突き刺しても突き抜けない」

プロジェクトが2月17日に公開されると、わずか1時間で目標金額の50万円を達成。「日常使いのもので防衛ができるのは素晴らしい」「命を守る大事な商品」などの声も寄せられ、発売前から期待の視線を感じる。

しかし実際に危険にさらされた時、どのくらい身を守れることができるのだろうか。そしてこの反響をどう受け止めているのか。株式会社SYCOの笹田直輝代表にお話を聞いた。

――防刃素材のトートバッグ、開発のきっかけは?

もともと弊社のブランドである「SSP」は「防刃テクノロジーとライフスタイルの融合」を掲げており、一般ユーザーが日常で身につけることができる防刃ウェアや防犯知識の開発・提供を行うべく立ち上げたブランドです。

SSPトートは、新作防刃ベストのデザイン開発のために縫製工場を訪れた際、工場スタッフとの「防刃ベストって確かにすごいけど、正直毎日はつけられないよね」「でもいつも持っているこのトートバッグに防刃パネル入ってたらいいかも」という何気ない会話がきっかけで生まれた新たなアイデアです。

日常使いできるデザイン
日常使いできるデザイン

――どのくらいの強度があるの?

今回はSSPでは「白防刃」とよばれる「スタンダードグレード」を使用しました。「成人男性が立ち会った状態で、市販の包丁で思いっきり突き刺しても簡単には突き抜けない」という強度イメージです。

もちろん、壁に固定された状態での過剰な力での突き刺しや、特殊な突き刺し力を持ったナイフだと突き抜ける可能性もあります。このあたりは検証動画でもご説明していますが、状況により変わるので過信は禁物です。

警察・自衛隊向け装備品の開発・販売等を手掛ける「田村装備開発株式会社」の実証実験
警察・自衛隊向け装備品の開発・販売等を手掛ける「田村装備開発株式会社」の実証実験

――突き刺し以外に「斬り付け」も防ぐことができる?

回数に関しては正確に検証していませんが、ナイフを用いた社内テストでは100回を超える斬り付けでもパネル表面に傷がつく程度でまったく問題はありませんでした(※外面のキャンバス素材は防刃素材ではないので切れます)。

キャンバス生地は切れても貫通はしていない
キャンバス生地は切れても貫通はしていない

――では、このバッグがあればどんな場面でも安心?

SSPトートに限らず、護身具はあくまでも「致命傷を防ぎ、逃げる・反撃する時間を稼ぐ商品である」という認識は非常に重要なポイントです。この認識の差が生存率を左右するといっても過言ではありません。

このため、(Makuakeの)商品タイトルに「危機管理を習慣に」という言葉を一番先に掲げました。「これさえあれば、あなたは助かる」ではないのです。

今回、専門家である田村装備開発様に、貫通するまでのしっかりとしたテストを行っていただきました。あえて動画でこれを公開することで「このぐらいの刃物で、このぐらいの経験者が、このぐらい突き刺すと貫通するんだ」という感覚を持っていただくことも狙いのひとつです。

なぜならそれを避けるための方法を事前に考えることができるからです。「事前に考えること」「準備すること」、実はこれこそが最も本質的な部分だと思っています。

バッグ単体としても「使いたい」アイテムを目指して

――防犯アイテムとしてこだわった点は?

実際に刃物を止めるのは防刃パネルであるため、トート生地自体が薄くても問題はありませんが、ペラペラの薄い生地で試作品を使ってみたところ「これはダメだ」と直感しました。

生地が安っぽく愛着が湧かない。何か頼りなく、安心感もない。これは日常づかいを目指す商品としては失格です。なので、たとえ防刃板が入っていなくてもタフで頼れる様な佇まいのバッグにしたい。そう思い素材や形状に至るまで徹底的に使い込み、試行錯誤を行いました。

個人でカスタマイズも可能
個人でカスタマイズも可能

――見た目は日常使いできるトートバッグ。デザイン面のこだわりは?

「日常に馴染むデザイン」、まさに目指したのはそこです。

従来からある多くの防犯商品(防刃ベスト等)は一目でそれとわかる見た目をしています。それが威嚇となり有効に機能する場合もありますが、一方で相手を必要以上に刺激したり、特異な目で見られる可能性もあります。良くも悪くも他人の目を気にしやすい日本人にとって、ここは結構重要なポイントだと思っています。

もうひとつは「いつも持っている」ことが重要であるということです。災害と同様、刃物犯罪もいつどこで起こるかわかりません。このため、とにかく日常に馴染み、バッグ単体としても「使いたい」商品であることを最優先に考えました。

荷物が入った状態で振り回しても護身具に…
荷物が入った状態で振り回しても護身具に…

――反響への感想は…

最も嬉しい部分は「しっかり反響をいただけたこと」です。実は今回は試金石という意味合いがあり、正確にどの様な受け入れられ方をするのか予想がつきませんでした。

なので、SSPの「日常づかいと有事の盾」というコンセプトが受け入れられたことで「ちゃんと世の中に求められていて、これからも開発していってもいいんだ」と感じることができました。このコンセプトが受け入れられてしまう物騒な世の中であることには複雑な気持ちもありますが、これからの時代には必要な商品コンセプトだと強く確信しました。

また、大変印象に残った、こんな応援コメントがありました。「教育関係です。遠足などで出かけたとき、私が盾になるので。期待しております」。このコメントを読んだとき、大袈裟ではなく心が震えました。手を緩めることなくさらに使い勝手の良い商品開発を進めていかねば、と強く思えるコメントでした。

バッグを使った防御方法も動画で公開中
バッグを使った防御方法も動画で公開中

「常に手の届く場所に防刃アイテムを」というと少し大げさに聞こえるかもしれない。しかし株式会社SYCOは「自身や大切な人の身を守るという意識を持ったユーザーをひとりでも増やしていく、そんなブランドでありたいと考えている」と語っている。

「日常づかい」と「有事の盾」、そんな2つを兼ね備えたアイテムをチェックしてみても良さそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。