福島県の復興にはあらゆる課題が横たわっている。その一つが、中間貯蔵施設。
今後も特定帰還居住区域の除染が進められることになるが、最終処分への道筋は不透明なままだ。

約束は守られないのでは

「最初から出来るか出来ないか分からないことを約束してしまって…あれをどこに持っていくんだって、逆に不思議に思います。あそこで最終処分するつもりで買ったんじゃないかなって」…こう話すのは、山口三四さん。大熊町長者原地区の区長で、中間貯蔵施設の地権者の一人だ。

中間貯蔵施設で最終処分するつもりでは
中間貯蔵施設で最終処分するつもりでは
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30年以内に県外で最終処分

東京電力・福島第一原発を囲むように整備された中間貯蔵施設。国が大熊町・双葉町の地権者との交渉を進め、土地を取得した。

原発を取り囲むように整備された中間貯蔵施設
原発を取り囲むように整備された中間貯蔵施設

その前提となったのが「除染廃棄物を30年以内に福島県外で最終処分をする」こと。山口さんはこの約束を信じ、所有権を残したまま国に土地を貸す契約を結んだ。

法律で定められた約束が前提
法律で定められた約束が前提

その時 100歳に 少しでも早く

これまでに中間貯蔵施設に搬入された除染土は、1376万立方メートル。(※2024年2月末時点)しかし、保管された廃棄物の最終処分の行方は決まっていない。

搬入が開始され9年 いまだ除染廃棄物の行方は決まらず
搬入が開始され9年 いまだ除染廃棄物の行方は決まらず

山口さんは「約束の期限を迎えるころには100歳。それまでちょっと自信もない。だから、せめて何年でもいいから早く返してもらって、そこの土地に行って”俺の土地返ってきた”と思えるようになりたい」と話す。

約束の2045年には100歳に
約束の2045年には100歳に

除染土を再利用する実証事業

福島県外での最終処分に向けて、カギになるのが保管する除染土の量を減らすこと。県内では、比較的放射線量が少ない除染土を道路の造成や農地に再利用する実証事業を進めている。

道路の造成に線量が少ない除染土を再利用
道路の造成に線量が少ない除染土を再利用

県外では理解が進まぬ現状

一方、福島県外では…国は2022年に埼玉県所沢市にある環境省の施設で、敷地内の広場で除染土を再利用し芝を張る実証事業の計画を示した。住民説明会が開かれたのは、1回だけ。対象者は施設周辺の住民に限定し、案内は地域の掲示板28カ所で行った。

埼玉県で行われた住民説明会
埼玉県で行われた住民説明会

参加者は50人ほどで、その対応についても不満の声が上がった。参加者は「話を住民の側に立って進めてくれなかったら、それはうまくいくものではない」「風評被害や安全性が心配だという意見も多かった。雰囲気としてはほとんどの人が賛成はしかねるという感じ」と話す。

対応に不満の声も
対応に不満の声も

済んだ話 実証事業は認めない

2023年3月に所沢市の市議会は「住民の合意のない実証事業は認めない」と決議。
環境省の施設に隣接する弥生町の町内会は、福島テレビの取材に「済んだ話。市議会でも答えは出た」としている。

市議会「住民の合意のない実証事業は認めない」と決議
市議会「住民の合意のない実証事業は認めない」と決議

住民からは「協力というか、そっちの立場も分かるが環境的にも心配」「何かやっていると聞いているが、詳しいことはよく分からない」「良いとこを悪いところ、それぞれ教えて頂ければ、その上で自分たちが納得できるのであればしょうがない」という声が聞かれた。

市民の声からは理解が進んでいないことがうかがえる
市民の声からは理解が進んでいないことがうかがえる

専門家も危惧する状況

国は、今後の説明会について「国際原子力機関・IAEAの助言を受けながら準備を進め、タイミングなどを検討している」としている。
この状況を、原子力政策を研究する専門家はどう見ているのか?明治大学の勝田忠広教授は「このままでは、県内の人と県外の人が衝突してしまって、うまく進む話でさえ失敗してしまうような。場合によっては、しこりが残ってしまうのではと危惧している」と話す。

原子力政策を研究する明治大学の勝田忠広教授
原子力政策を研究する明治大学の勝田忠広教授

急いではいけない

再利用を進めるうえで、勝田教授が指摘するのが「科学的データの提示」その説明が、スタートラインと話す。また、福島県外の最終処分については「時間」が選択肢を広げる可能性があると考えている。
「時間が経てば経つほど、半減期でレベルは下がっていきますからやはり急ぐ必要はない。急いではいけない話だと思っています」

セシウム137の半減期は30年
セシウム137の半減期は30年

25%しか知らない県外最終処分

中間貯蔵施設、そして除染廃棄物の問題。環境省は福島県の内外で講義を行い、理解を広げようとしている。

環境省の講義 福島県二本松市 油井小学校
環境省の講義 福島県二本松市 油井小学校

それでも、除染廃棄物の福島県外での最終処分について「知っている」「聞いたことがある」と答えた人は、福島県外では25%ほど。「安全性の担保」が最終処分を進める上で最優先と回答している。

環境省 webアンケート(令和5年度)
環境省 webアンケート(令和5年度)

元に戻らないが…地権者の思い

福島県大熊町長者原地区にある塞神社。国道6号線をまたいだ先に、中間貯蔵施設がある。この場所に咲く花は、地権者の一人・山口三四さんが避難先のいわき市で育て植えている。

中間貯蔵施設近くにある塞神社
中間貯蔵施設近くにある塞神社

「誰も人は来ないと思う。特に人の住んでいないとこだから。それだったら周りに花木植えて、年中花が咲いているような状態にすれば、6号線から見えるとこだし、花が咲いているから行ってみようかと。元には戻らないんだけど、人に来てもらえるような場所にしたかった」と山口さんは話す。

山口さんが避難先で育て植樹 人が訪れる場所に
山口さんが避難先で育て植樹 人が訪れる場所に

約束の2045年…21年後、ふるさとに広がる景色はどうなっているのか…国との約束を信じている。

(福島テレビ)

福島テレビ
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