競技用のキックボードで技を競う「フリースタイルスクーター」は跳んだり宙返りしたりと、アクロバティックで動きの激しいスポーツだ。このスポーツに、目に障がいを持ちながらトッププロを目指す中学3年生が、岐阜県岐阜市にいる。

視覚障がいの中学生は「フリースタイルスクーター」の選手

鳴海瑛太(なるみ・えいた)さんは、岐阜県岐阜市の市立陽南(ようなん)中学校に通う中学3年生だ。

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英語の先生:
瑛太さんこれ見える?

鳴海瑛太さん:
はい、文字がちっちゃい

英語の先生:
ごめんごめん

目に障がいがあり、特別支援学級に通っている。

クラスメイトより大きな机と大きなプリントで工夫してもらうことで、毎日勉強に励む。

瑛太さんは、いま世界で人気の「フリースタイルスクーター」で日本トップクラスの選手だ。

「フリースタイルスクーター」は、競技用キックボードでジャンプ、スピンなどの技を競う、新しいスポーツ。

約25年前ヨーロッパから広まり、オーストラリア、アメリカなどで人気が急上昇し、世界大会も開かれている。日本でも2017年頃から広まり、競技人口は1000人ほどに増えている。

瑛太さんはフリースタイルスクーターの魅力について「怖いけど楽しい」と話す。

父親の公輔さん(41)によると瑛太さんの視界はぼやけている状態で、視野欠損だという。顔認識ができるのは1mくらいだ。

瑛太さんの父親・鳴海公輔さん:
お風呂屋さんなんか行ったりすると、みんな裸なので誰が誰だか分からない

鳴海瑛太さん:
声、声で覚えている

視界と世界を広げたスクーター

瑛太さんは、YouTubeで自分のアカウント「eita scoot【視覚障がいライダー】visually impaired rider」を持ち、テクニックなどを披露している。

この中で、瑛太さんの見え方や、どれくらい見えているのかについてをテーマにしている動画がある。

鳴海瑛太さん:
見えへん

「視覚障がい体験メガネ」を通して見た映像では、常に視界がぼやけている。

さらに瑛太さんの見え方でコースを走ると、足元さえもぼやけていた。

瑛太さんはこの状態で、次々とアクロバットな技を繰り出す。

毎日1~2時間の練習をして体で感覚をつかんできた。

毎日練習ができるようにと建築業の父親が作った「GIFU GROW PARK」も特別製だ。

鳴海公輔さん:
みなさん、親御さんにも手伝ってもらって、手作りで1年かけて作りました

全てが真っ白の壁一面では、瑛太さん自身がどこを走っているかわからなくなるため、色が着いたテープを貼ってわかりやすくした。

鳴海公輔さん:
赤色は危険な端の部分。「これ以上いったら落ちるよ」というのを、テープを貼って見やすいようにして

鳴海瑛太さん:
赤とかの色が見やすいかな

そして、自宅も瑛太さんの練習場になっていた。

本来、リビングの場所に、父親が練習場をつくったという。

母「好きなものを見つけてくれたことがすごい嬉しかった」

瑛太さんは生後3カ月の検診で目の障がいがわかった。視界がぼやけているうえ、半分ほどしか見えていない「第1次硝子体過形成遺残(しょうしたいかけいせいいざん)」という症状だ。

母親の鳴海裕美子さん:
メガネしても見えないよと言われて、あっ、そうなんだ…、そこからは歩けるのかもわからないし、しゃべれるのかわからないしとか…、そういう時やったかな

鳴海公輔さん:
治るのかとか、手術する所があるのかとか、そういうのを探したり聞いたり色々…。同じ子はどう育っているのかとか、そういうのを探していました

その後、瑛太くんは小学3年の時、スケートボードのおもちゃにはまり、スケートパークへ。キックボードで技をする人のカッコよさに魅了された。

母親の鳴海裕美子さん:
これだけ好きなものを見つけてくれたことがすごい嬉しくて。集団行動が苦手で、知らない人とか大人数でやるのが苦手で。(スクーターを始めてからは)仲間もどんどん増えて、苦手なことも出来るようになって

鳴海公輔さん:
なにか工夫すれば、他の子たちと変わらないのを知ってもらいたい

お父さんに競技用キックボードを買ってもらい、名古屋在住のプロ榊原颯吾(そうご)さんに指導を受けてきた。

覚えるのは人より遅くても、好きになってコツコツと人の何倍も練習。転び続けても毎日練習し、指を骨折して、あばらにヒビが入ったこともあった。

榊原颯吾プロ:
負けず嫌いで、成功するまでチャレンジしてる姿がかっこいい選手ですね。見えている子でももちろん難しいので、恐怖心ももっとあると思いますし、感覚でやれているのはすごいなと思いますね

鳴海瑛太さん:
技が出来た時とか楽しい

切磋琢磨するライバルと全国大会で対決 瑛太さん「忘れられない最高の日」

この日、静岡県のパークで全国大会が開かれた。

3歳から22歳までの15人が出場し、年齢で分けられた4部門で、技の難易度を競った。

瑛太さんは1カ月前から度々ここを訪れ、コース全体を体で覚えていて、段差が分かるよう赤いテープも張らせてもらった。

瑛太さんは「中学生以上のオープンクラス」で「パーク」と「ストリート」の2種目に出場する。瑛太さんには「ライバル」がいた。

新横ライダーの島邑仁(しまむらじん)さんだ。

瑛太さんは仁さんのことを「めちゃくちゃうまい」と称賛し、仁さんは瑛太さんを「プロだと思います」と互いに認め合う仲だ。

緊張感漂う中、いよいよ本番。瑛太さんは初めに「パーク」の種目に出場。

45秒でどれだけ難しい技を出せるを競う種目で、中盤で、大技のバックフリップを決めた。

しかし、最後に着地でミス。足が着いてしまった。

鳴海瑛太さん:
まじで最悪。プッシュした時に踏んだ

ライバルの仁さんはノーミスだった。

結果、仁さんが優勝し、瑛太さんは惜しくも2位。

瑛太さんは、続いて障がい物を使った技などを競う「ストリート」に出場。

バックボードスライドや…。

ブライフリップなどの大技を、今度はノーミスでやりきった。

結果は…。

主催者:
1位、鳴海瑛太くん。32点です

鳴海瑛太さん:
やったー

瑛太さんが見事、優勝し、金メダルを獲得。

鳴海公輔さん:
びっくりしてます。正直、まさかと思いました

鳴海瑛太さん:
うれしい。パークの方はミスらなければ1位が取れていたかもしれない。忘れられない最高の日。プロにはなりたい。オリンピックがあったら出たい

トッププロになって、スクーターの楽しさを広めたい。瑛太さんはきょうもチャレンジを続けている。

2023年10月19日放送

(東海テレビ)

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