筋膜は全身を支えていることから“第二の骨格”とも言われている。
その筋膜の重要性に気付いたストレッチトレーナーのきまたりょうさんは、身体を本来の位置に戻す筋膜アプローチや身体を効率的に動かすための動作教育を徹底して学んだという。
近著『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(KADOKAWA)では、全身を総合的に見るためのヒントをイラストとともに解説。
YouTubeなどのストレッチ動画をまねても良くならない理由をきまたさんは「痛めている部分だけをほぐしてもよくならない。
身体の不調を改善するには、筋肉同士をつなげる“筋膜”を意識したストレッチが必要」だと言う。
そのために、まずは全身を巡る筋膜が身体の前の部分でどのような役割を果たしているのかを知っておくことが大事だ。本書から一部抜粋・再編集して紹介する。
前と後ろでバランスを取り合っている
「前のつながり」は上半身と下半身で2つに分かれています。
上半身では耳の後ろからスタートし、胸とお腹の前をネクタイのように降りて恥骨で止まります。
下半身では骨盤の一部から始まり、ひざのお皿、すね~足まで伸びています。
この記事の画像(7枚)このつながりは「後ろのつながり」と協調して前後のバランスを保つ役割があります。
日常で背中を丸めた座り姿勢をした場合、上半身のラインが短く固定されやすいです。
下半身のラインが短くなると正座などの動作がしづらくなります。
ストレッチなどをする際は、いきなり全身を反って伸ばすようなことはせずに、各部位を分けて伸ばしてあげると負担が少なくて良いでしょう。
背中を丸めた姿勢は内臓の動きを低下させる
それでは上半身、下半身で「前のつながり」がどのようになっているのか解説していきます。
上半身の「前のつながり」は、コードのついたイヤホンが耳の後ろから胸の真ん中へ向かい、恥骨にかけて向かっているような流れをイメージするとわかりやすいでしょう。
慣れない人が腹筋をすると首がつらくなるのは、腹直筋や他の腹筋が使えないことにより、前のつながりの上部にある首の筋肉(胸鎖乳突筋)などに負担がかかってしまうからです。
上半身の「前のつながり」が全て短くなると、耳の後ろが恥骨に向かって引っ張られます。
すると、頭が前に出てアゴが上がり、背中が丸まるように体幹が折れ曲がります。
背中を丸めた姿勢は肋骨(ろっこつ)と骨盤の間のスペース(お腹)が圧迫されるため、内臓の働きを低下させる要因の一つになるので注意しましょう。
前ももが疲れやすい理由は大腿直筋にある?
下半身の「前のつながり」は骨盤から前ももを通り、すね、足指(甲側)まで伸びています。
大腿(だいたい)直筋肉は股関節やひざの動きに影響しやすく、ひざから下の筋肉は足首の動きに影響しやすいです。
補足として、大腿(だいたい)直筋の一部は股関節包に付着しています。
前もものストレッチは腰を反ると骨盤が前傾するのでストレッチ効果が半減します。腰を反らないように(骨盤が前傾しないように)伸ばしましょう。
例えば直立して左足を前に出すような動きは、股関節や体幹の深層の筋肉が働いていない場合、「前のつながり」ばかりが酷使されて前ももが疲れやすくなります。
そけい部や股関節の付け根の痛みは、このつながりの一部である大腿(だいたい)直筋や周辺の硬さが影響していることがあります。
大腿(だいたい)直筋は股関節を曲げる角度が10~30度の間でより活動します。体幹部を意識して深層の筋肉を使う癖をつけることで、より負担なく脚が上がるようになります。
前のつながりは心理的な部分も関わってきます。
瞬発的な動きの筋肉が多い前のつながりは、いわゆる防御の姿勢のような、身体の重要な器官(内臓)を守るような動きをします。
心と身体は密接に関係しているとよく言われますが、このつながりが短縮している姿勢の人はもしかしたら心理的に安心できていない状態なのかもしれません。
身体を丸めているような姿勢を続けると、そのような心理状態になりやすい可能性があります。
きまたりょう
ストレッチトレーナー。米国 Dr ida Rolf Institute 認定ロルファー。インスタグラムにて「筋肉のつながり」イラストを定期的に投稿。そのわかりやすさからセラピストやトレーナーを中心に支持を集めている