1月18日、女子中学生をわいせつ目的で誘拐した疑いで逮捕されたのが、自らを「グリ下の帝王」と称する浦野那生(うらの・なお)容疑者(31歳)。ひと回り以上年下の女子中学生を誘い出せたワケとは…

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市販薬を大量に摂取することで、気分が高揚したりする「オーバードーズ(OD)」。そのための薬をあげるというのが、浦野容疑者がSNSで使った誘い文句だった。そして浦野容疑者が女子中学生と落ち合った場所が「グリ下」。

今、グリ下を中心に若者に広がり、死に至る危険もあるODになぜハマるのか。さらに取材で明らかになった「帝王」の本性。 そしてODから抜け出した青年の“気づき”とは。

■グリ下を浸食する「OD」の実態

ネオンの光が輝く大阪・ミナミ。その象徴ともいえるグリコの看板の下、通称「グリ下」には、3年ほど前から居場所のない若者が集まっている。その理由は家庭環境などさまざまだという。

この場所で、未成年の飲酒や喫煙、パパ活などの問題に加え、最近では薬を過剰摂取するオーバードーズ、略して「OD」でハイになったりすることが蔓延している。

れんさん(仮名):何やってもうまくできなくて、つらいことから逃げている自分も理解していたから、ああ、今、逃げてるって。ODが一種のよりどころになっていて、それがあるから今日死なずに済んだとか。

ODは彼らにとって、唯一の現実逃避。生きることの意味でもあるという。

そんな彼らを食い物にしてきた大人が、先日逮捕された自称「グリ下の帝王」、浦野那生容疑者。女子中学生に「薬をあげるから」とわいせつ目的で誘拐した疑いが持たれている。

女子中学生は警察に保護された際、ろれつが回らず、ODをしていたとみられ、浦野容疑者の自宅からは、睡眠薬など151錠の薬が見つかった。

■「僕がいないと無法地帯になる」とアピールする浦野容疑者

関西テレビは「グリ下の帝王」を名乗る前の浦野容疑者に話を聞いていた。

浦野那生容疑者(当時29歳):家出少年、家出少女と分かった瞬間は、とりあえず帰らせるか、私服(警察)に言うかの2択でした。極力もめへんように、面倒くさいことになれへんようにしてました。

自分は年長者として、分別ある「大人」であることをアピール。

浦野那生容疑者(当時29歳):橋の下でODするな、リストカットするな。最低限のルールですね。(守らない子を)僕が出禁(出入りを禁止)にする方です。僕がいないと無法地帯になっちゃいます。

一方で、ひと回りも歳の離れたグリ下の子どもたちを食い物にするかのような発言もしていた。

浦野那生容疑者(当時29歳):靴はグリ下の子に買ってもらったりとか、この服とかもそうですね。

Q.グリ下の子と付き合ってた経験は?
浦野那生容疑者(当時29歳):僕はそうですね。グリ下の子といっぱい付き合ってましたね。結構8人ぐらい付き合ってました。

「りつ」と名乗っていた浦野容疑者。4カ月ほど前からSNSで「帝王」を名乗るようになったが、その評判は…

浦野容疑者の知人:女の子に無料で薬飲ませて、女の子が薬に落ちたところで『薬欲しいならやらせろ』とか、『金、その分稼いでこい』とか言っていました

りこさん(仮名):女の子に売春させて、お金巻き上げて、それでパチンコとかめっちゃ行ってる。

りこさんは、2年ほど前からグリ下に通うようになった。そこで出会った浦野容疑者がきっかけで、ODの沼にはまってしまったという。

りこさん(仮名):睡眠導入剤(を飲み)始めたのは、最初にりつ(浦野容疑者)がお試しでこれあげるよって言われて、4錠もらったんですよ。飲んで、記憶が吹っ飛んだんですよ。その感覚に一時期、溺れちゃって、りつから『仕入れたよ』って言われたら、買いますって、買ったりとか。薬にしか使えなくなっちゃって、お金を。薬のためにバイトやって。

りこさん以外にも、多くの若者が一度ハマると抜け出せなくなるODの沼。

■なくならないOD…なぜ?

高校2年生のれんさんは、かつて毎日のようにODをしていたという。

れんさん(仮名):気づいたら80錠、90錠、瓶一気飲みしたりしてました。ふらふらで指先がしびれて感覚なくなっちゃうみたいな。ずっとぶるぶる震えてる感じ。薬とお酒を一緒に飲んだら、視界がグルグルグルって、急に真っ白な光がバーッてなって、まぶしいって思ったり。逆にそれ(薬)がないと生きていけない。

現実のつらさを忘れ、生きていくためODをしていた、れんさん。死への恐怖心もないという。

れんさん(仮名):(友達が)ODしながらみんなで飛び降りようって、飛び降りました。一緒に死にたかったなというのはありました。一人で死ぬと怖すぎてダメだけど、みんなで死んだら怖くないだろうなって。

ODが蔓延する理由の一つは、薬局で手軽に買える市販薬でも症状が出る点だ。薬物依存で治療を受けた10代の患者のうち、市販薬に依存していた割合は、10年前には0だったのに対し、2022年は7割近くに上る。

厚生労働省はODに使われる恐れがある薬に関して、20歳未満には1箱しか販売しない、写真つきの身分証明書で本人確認をするなど、今後、法改正を進める方針をまとめた。しかし、若者には効果は薄そうだ。

れんさん(仮名):注意されても、他の店舗行って1個ずつ買えばたくさん買えちゃうから。万引きとか窃盗とか。

彼らがODの沼から抜け出すために何が必要なのだろうか。

■ODから抜け出すために必要なものは

グリ下のすぐ近くの飲食店に、ODの沼から抜け出した青年がいる。しゅんさん(22歳)だ。

しゅんさん(22歳):ODだったり薬関係はいろいろ。一回で300~400錠くらい。

大学受験の失敗など人生につまずいた時、将来への不安から逃れようとODに手を出した。繰り返すうち、薬の急性中毒で生死の境をさまようことに。

しゅんさん(22歳):2日くらい昏睡状態になって、その時に親が来た。明らかにぎこちないお父さんの顔、お母さんの顔。その光景が今でも残っているんですよ。

戸惑う両親の顔が印象に残っていると話したしゅんさん。グリ下の若者を支援する田村健一弁護士と出会い、これまで関わってきた人たちと改めて向き合ってみると、自分を心配する大人が存在することに気づくことができたという。

しゅんさん(22歳):僕が幸せになってほしい、自分の人生を生きてほしい、主人公としてっていうニュアンスは伝わった。大事にしていただいているのにそんなこと(OD)したら、人の期待を裏切るってことじゃないですか、それは絶対にしたらだめだと思うんですよ。

誰かが見守ってくれる安心感と責任感に初めて気がついたしゅんさん。自分と同じように、グリ下の若者にも気付いてほしいと願っている。

しゅんさん(22歳):その子らの考え方があるんですよ。どう思っているのかなとか、小さなことでもいいから拾ってほしいなと思いますね、大人の方には。そういう人が身近にいるか、いないかっていうのは、大きなきっかけになるんだと思います。

現実逃避のためにODに走る若者を救えるのは、彼らを食い物にする大人ではなく、気づきを与えられる大人。グリ下の若者を支援する田村健一弁護士は、「気づきを与えられる大人とは、寄り添って耳を傾け、若者の本音を引き出せる人」だという。直接、深く関わることが難しくても、若者たちが関心・興味を示すものに熱中できる環境へつなぐ“橋渡し”の役目も必要だとのことだ。

誰もがそんな「気づきを与えられる大人」に出会える社会が求められている。

(関西テレビ「newsランナー」2024年1月25日放送)

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