明治22年に始まって以来、戦争の影響によって中断がありながらも、各地に広がった学校給食。

1月24日から1月30日までは全国学校給食週間で、学校給食の歴史や意義などを学ぶ機会になっている。

そんな学校給食で欠かせないのが「牛乳」だ。牛乳が苦手だった人もそうでない人も一度は「なぜ、牛乳なのか」と思ったことがあるかもしれない。

自他ともに認める給食マニアで、現役の学校栄養士・松丸奨さんが、昨今の給食を取りまく状況について、さまざまな角度から解説した著書『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)。

本著から「なぜ給食の飲み物は牛乳なのか?」について、一部抜粋・再編集して紹介する。

牛乳を飲むこと前提の基準値

「牛乳は和食に合わない」「給食ではなぜ牛乳を毎日出すのか」

そんなことがよく話題にのぼります。

私たち栄養士も、和食と牛乳が合わないのはわかっています。

しかし「学校給食摂取基準」のカルシウム値、「標準食品構成表」で規定される牛乳の必要量、どちらも飲用牛乳がなくては達成できないのです。

摂取基準が「牛乳ありき」になっている(画像:イメージ)
摂取基準が「牛乳ありき」になっている(画像:イメージ)
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給食のない日のカルシウム摂取量が、推定平均必要量以下を示す小学生は60〜70%、中学生では70%以上も存在するという調査結果(「学校給食摂取基準の策定について(報告)」学校給食における児童生徒の食事摂取基準策定に関する調査研究協力者会議(平成23年3月))もあります。

戦後の学校給食のスタンダードとなった「完全給食」は、主食・おかず・ミルクで構成されます。

学校給食法の施行時に作られた「学校給食法施行規則」にも、「完全給食」の内容はこのように定義されています。

第一条(中略) 
2.完全給食とは、給食内容がパン又は米飯(これらに準ずる小麦粉食品、米加工食品その他の食品を含む。)、ミルク及びおかずである給食をいう。

「学校給食法施行規則」 (昭和29年文部省令第24号)

昭和29(1954)年の学校給食法施行段階で、そもそもミルク(当時は脱脂粉乳)が含まれているのが完全給食ですから、栄養素や食品摂取量の基準値は、牛乳を飲むことを前提として算出されているのです。

「栄養価を満たすためなら、ほかの食材でカルシウムを摂ればいいのでは?」と思われるかもしれません。

しかし栄養計算をしてみると、たとえば小松菜なら毎日1束ぶんを食べなくては足りません。ちりめんじゃこなら1パックです。

小松菜を一人に1束では予算がパンクしますし、ちりめんじゃこ1パックでは、タンパク質や塩分が一瞬で基準値をオーバーします。そもそもそんなに食べられないでしょう。

どうやっても牛乳がなくては成立しない、牛乳ありきの摂取基準になっているのです。

牛乳をめぐり試行錯誤

米どころで知られるある地域では、和食と牛乳は合わないという考えから、「2時間目と3時間目の間の20分休みに牛乳を飲んで、給食の時間は水を飲む」という取り組みをしたことがありました。

しかし、急いで牛乳を飲んで、すぐに校庭や体育館で全力で遊ぶため、吐いてしまう子もいたそうです。

また「そもそもどこで牛乳を飲むのか」「飲む前の手洗いは?」「飲んだあとにどうやって片付けるのか」「休み時間に行なうには忙しすぎる」などの意見が噴出しました。

飲むタイミングなど試行錯誤していた(画像:イメージ)
飲むタイミングなど試行錯誤していた(画像:イメージ)

牛乳の温度管理の問題も懸念されますし、衛生的な観点からも運用が難しかったようです。この取り組みは、現在廃止となっています。

そもそも給食のルールは、学校給食法を踏まえつつ、細部は自治体で決めてよいことになっています。

そこで、文京区の栄養士が集まる会議で、「思いきって牛乳なしの日を作ってもよいのでは?」と議論をしたことがあります。

それで何かが大きく変わったわけではないのですが、区としても和食給食の推進を行なっていたこともあり、年に一度、11月24日「いい日本食の日」に区内すべての公立小中学校で、牛乳の代わりに日本茶を提供するということになりました。

ただし、急須でいれるわけではなく、パック入りの緑茶をストローで飲むというスタイルです。「これでは日本茶を出す意味がないんじゃない?」という意見もあり、提供日を増やすことにはなっていません。給食の牛乳は、今が過渡期なのかもしれません。

『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)

松丸奨
管理栄養士、栄養教諭。東京都文京区の小学校で学校栄養士として勤務。

松丸奨
松丸奨

管理栄養士、栄養教諭。東京都文京区の小学校で学校栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。フジテレビ系ドラマ『Chef~三つ星の給食~』(2016年)で給食の監修・調理指導を担当。台湾・フィリピンなど海外でも食育指導を行う。メディア出演も多数。『給食が教えてくれたこと「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版)など著書多数