学校で食べた給食に「おいしかった」「楽しみだった」という記憶がある人も多いだろう。

その裏には、おいしく、楽しく、そして栄養も摂れるように、とさまざまな工夫をしている学校栄養士がいたからかもしれない。

“給食マニア”で現役学校栄養士の松丸奨さんの著書『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)から、家でも実践できる「残されない給食」のテクニック4つを一部抜粋・再編集して紹介する。

「よい給食」3大条件

給食は栄養バランスのよい食事の代名詞です。

しかし、栄養価を満たすだけなら、極端な話「ごはん山盛りとサプリメント」でも基準は満たせてしまいます。それではもちろん給食としては望ましくありません。

栄養価を満たすことは当然として、各食品群の摂取量が充足されていること、そして何より美味しいこと。この3大条件をクリアしていることが「よい給食」だと私は考えています。

学校栄養士の松丸奨さん
学校栄養士の松丸奨さん
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子どもたちに不評な豆を、わからないようにして食べてもらうということもしています。

ただ、これでは単に決められた栄養素を摂取させただけ、とも言えます。ペースト状のものが食べられたから、あなたはもう豆が嫌いじゃないね、ということにはなりませんよね。

足りていないものをただ入れるのではなく、子どもたちが美味しく、楽しく給食を食べられるように、献立を作らなければいけません。

そこで栄養士は「残されない給食」のために、あらゆるテクニックを駆使しています。そうしたテクニックの一端をご紹介しましょう。

苦手な食材×人気メニュー

子どもたちが苦手な食材の代表格は野菜と豆と魚で、「見た目」「におい」「味」など苦手な理由は千差万別です。

彩りをよくしたり、臭みを消したり、好きな食材と混ぜたり、味付けを工夫したりして、美味しく笑顔で食べてもらいたいところです。

定番の手法が「人気メニューの力を借りること」です。

大豆やひよこ豆などの豆類は、カレーライスやハヤシライスに入れてしまいます。「カレー味なら食べられた!」と好評です。お豆に衣付けをして、カリカリのフライに変身させたものも、子どもたちに大人気です。

人気メニューの力を借りて。カレーと大豆とナス(画像:松丸奨さん撮影)
人気メニューの力を借りて。カレーと大豆とナス(画像:松丸奨さん撮影)

ほかには、ナッツとごまは人気食材ですが、野菜を中心としたサラダや和え物は苦手メニューです。そこでこの2つを合わせます。野菜にナッツの食感やごまの風味が入ることで、食べやすさはぐっと上がります。

「シチューにれんこんやごぼうを入れる」「卵スープに緑黄色野菜を入れる」など、美味しく食べられる組み合わせはまだまだあります。

また麻婆豆腐、みそラーメン、ハンバーグは人気なので、子どもたちが残しがちな食材や、栄養士が頭を悩ませている食材を混ぜることが多いです。

小さく切って子どものストレス減

煮込み料理の野菜は大きめに切る、炒め物は火を通してもシャキシャキ感の残る大きさに切るなど、調理法ごとに食材の適正な大きさがあるものです。

しかし、残されない給食ということに関して言えば、小さく切るのがベターです。

理由は2つあります。まず、小さく切れば口に入れやすくて食べやすいためです。好物なら話は別ですが、苦手な食べ物なら食べる時にストレスをかけないことが大切です。

家庭での料理やお店のサラダは、野菜を大きく切りすぎているように見受けられます。子どもたちの口は大人よりも小さいです。

そして、箸やフォークの扱いに長たけているわけではありません。レタスやキャベツが大きいとそれだけで食べにくさを感じさせます。

もうひとつの理由は、小さく切ることで、複数の食材を同時に口に入れられるからです。

小さく切ってストレスを減らしたサラダ(画像:松丸奨さん撮影)
小さく切ってストレスを減らしたサラダ(画像:松丸奨さん撮影)

たとえばレタス、キュウリ、人参、トマトが入っているサラダなら、キュウリ単体で食べた時はキュウリの旨味成分しか味わえません。

料理とは、それぞれの食材が持つ旨味を足していき、それがひとつに融合された時に、相乗効果でより美味しく感じられるものです。

レタスのシャキシャキ感、人参の甘み、トマトのジューシーさ、それにドレッシングの旨味が口のなかで合わさると、美味しいと感じるポイントをいくつも得ることができます。

そうなると、具材全部がフォークに載るくらいのサイズにする必要があります。ですから切り方を工夫して、せん切りやスライスにします。そこからさらに半分の長さにカットしたものが、ちょうどいいサイズです。

カレーライスや肉じゃがにしても、苦手な人参だけを口に入れて食べるよりは、人参、玉ねぎ、じゃがいも、豚肉が調味料に絡まったものを一緒に食べることで「美味しい」と感じられるものです。子どもの口の大きさを理解して切ることが重要です。

苦手そうな献立×デザート

デザートは給食の最後に食べられることになっています。ご褒美的な扱いです。その力を利用して、子どもたちが苦手な献立の日にデザートを設定します。

たとえば「ごはん、焼き魚、ひじきの含め煮、すまし汁」。

健康的でよさそうですが、悲しいかな子ども心にはときめきません。こんな日に、ゼリーやりんごのカットを追加することで、給食の喜びが増すのです。

子どもたちが給食を毎日楽しみにしてくれることは私たち栄養士にとっての理想ですし、大切なことですが、好きなものばかりを毎日出してあげることはできません。

子どもたちがしょんぼりしがちな献立の日に、デザートがあるだけで、その日の給食の満足度を高めることができるので、重宝するテクニックです。

白ごはん、まぜごはんをバランス良く

「白いごはんが食べられない」「白いごはんが苦手」

噓みたいな話ですが、意外と残食が出るのがお米です。味の濃いものに慣れてしまっているのか、パンや麺類を好んでいるからなのか、白いごはんを好きになれない理由がどこかにあるようです。ごはんの摂取量が上がらないことに悩む栄養士は珍しくありません。

お米は炭水化物として勉強や運動にも必ず必要な栄養素なので、規定の量は食べてもらいたいのです。そのためには、味のバランスを整えるということをします。

唐揚げやコロッケなど、揚げ物の時は主菜の味が強いので、組み合わせる主食は白ごはんがよいです。お米の甘みを感じることができます。

おかずによって白米、まぜごはんを使い分け(画像:イメージ)
おかずによって白米、まぜごはんを使い分け(画像:イメージ)

逆に味が薄めの焼き魚がおかずの時には、お米は進みにくいもの。

そんな日は、私の献立ではまぜごはんをよく提供しています。野菜やひき肉を混ぜて、和風の五目まぜごはんにしたり、洋風でピラフにしたり、中華でチャーハンにしたりとレパートリーも豊富です。

チャーハンは街なかのお店の場合は長ねぎくらいしか野菜が入っていませんが、給食では人参、玉ねぎ、長ねぎ、細ねぎ、小松菜、とうもろこし、枝豆などを入れています。緑黄色野菜をどんどん入れてそれぞれの摂取量を上げていきます。

和風まぜごはんの場合、ごはんにもち米を少し混ぜておこわ風にするとさらに食欲が上がります。これはもち米に含まれているアミロペクチンが甘みを感じさせるからです。

苦手な子が多いきのこ類も、まぜごはんに入れることでよく食べてもらえるようになります。しめじ、えのき、しいたけ、まいたけなどのきのこ類から、ほうれん草やチンゲン菜などの葉物野菜まで入れて、具沢山にします。

子どもたちが完食することが大事

ベースのレシピに、献立作成ソフトが示す足りない栄養素、足りない食品群を足していけばよいのです。

足りないものを寄せ集めてサラダを作るより、まぜごはんの具としてどんどん入れる。このほうが残食を遠ざけられます。これは食材とごはんの相性のよさがあってこそですね。

ほかにも「混ぜるだけの簡単シリーズ」として、定番のわかめごはん、ゆかりごはんも子どもたちに人気です。塩分の使用量は上がってしまいますが、そこは献立の組み合わせで調整します。

給食は完食してこそ、計算通りの栄養を摂取できたことになります。残したぶんの栄養は当然摂れていません。栄養価の整った献立作成をしているからと言って、それは自慢にはならないのです。

「残されない給食」のために何をすべきかを常に考えて、栄養士は四苦八苦しています。

しかし、栄養士が頭を悩ませたテクニックより、「美味しい!」と食べている友だちが横にいると、なんだか美味しく感じられてくるものです。

それに、担任の先生が給食を美味しそうに食べているクラスは残食量が少ないのが、私の経験上では明らかです。

互いに美味しいねと声をかけて、美味しそうに食べる。友だちや先生のそんな姿を見るだけで子どもは食欲が増して、苦手なものでも食べてみようかな、という気になるのです。

それは給食が秘めている偉大な力です。

『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)

松丸奨
管理栄養士、栄養教諭。東京都文京区の小学校で学校栄養士として勤務。

松丸奨
松丸奨

管理栄養士、栄養教諭。東京都文京区の小学校で学校栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。フジテレビ系ドラマ『Chef~三つ星の給食~』(2016年)で給食の監修・調理指導を担当。台湾・フィリピンなど海外でも食育指導を行う。メディア出演も多数。『給食が教えてくれたこと「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版)など著書多数