世代差や地域の色が出る「給食」。

「こんなメニューがあった」など盛り上がることの多い給食だが、最近は「給食費未納問題」や「給食費無償化」、そして業者の倒産など課題を抱えている。

自他ともに認める給食マニアで現役の学校栄養士・松丸奨さんが昨今の給食を取りまく状況について、さまざまな角度から解説した著書『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)。

本著から給食の実施率が意外にも100%ではないこと、そしてどこか懐かしさを感じるソフト麺の今、について一部抜粋・再編集して紹介していく。

学校給食100%実施は14府県のみ

令和の今、給食をめぐる状況はどのようになっているのでしょうか。

日本学校保健会による調査から、給食の実施率がわかります。

それによると、公立の小・中学校において給食を実施しているのは全国で2万1117校。

小学校での実施率は99.8%。そのうち完全給食が99.3%、補食給食が0.4%、ミルク給食が0.1%です。中学校の実施率は97.0%。そのうち完全給食が93.8%、補食給食が1.0%、ミルク給食が2.2%です。

補食給食とは、ごはんやパンといった主食は家から持参し、ミルクとおかずなどが給食として提供される形態で、ミルク給食は牛乳だけを給食として提供する形態です。

小・中学校の給食実施率は100%ではない(画像:イメージ)
小・中学校の給食実施率は100%ではない(画像:イメージ)
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ここからわかるように、意外かもしれませんが、小・中学校での給食実施率は100%ではありません。公立小学校で学校給食を100%実施している都道府県は14府県のみです(文部科学省「令和3年度学校給食実施率状況等調査」より)。

青森、岩手は100%、完全給食に限ると福島、茨城、埼玉、千葉、京都、奈良、鳥取、岡山、徳島、熊本、大分、鹿児島の12府県となります。

公立中学校では7県(完全給食は2県)と、より少なくなります。

完全給食は福島、茨城のみ、石川、奈良、福岡、大分が学校給食を100%実施しています。

この状況を、甲南大学教授の足立泰美氏は給食の「地域格差が生じている」と指摘しています(「給食空白地帯。子どもの食生活を支える学校給食が直面する食格差。」足立泰美、Yahoo! ニュース 2020年2月25日)より)

戦時中の中断、戦後の中止危機を乗り越えて現在まで連綿と続いている大切な給食を、すべての児童生徒に平等に食べてもらえるようにすることが、今を生きる大人の責務であると私は考えています。

柔らかさが人気だったソフト麺

昔懐かしの給食として思い浮かぶ献立のひとつがソフト麺です。正式には「ソフトスパゲッティ式めん」と言います。

一見うどんのようですが、うどんに使う粉は薄力粉や中力粉であるのに対し、ソフト麺では強力粉を使っています。学校給食用としてビタミンなどを添加してあるのも特徴です。

一度茹でた麺を、個別の袋に入れてパッキングし、それを冷蔵保存したものが学校に運ばれてきます。納品されたソフト麺は、学校で再度蒸し直します。

75℃が1分以上保たれるように、中心温度計を使って4~5か所を計測します。

2度も加熱を行ない、さらに2度目はしっかりと温度を上げて蒸しているので、麺は伸びに伸びて柔らかくなっています。この柔らかさこそ、ソフト麺の人気の源です。

大人にはコシのない麺は好まれませんが、子どもたちにはこの柔らかさが食べやすいと人気になりました。

さまざまなものと組み合わせられたソフト麺(画像:イメージ)
さまざまなものと組み合わせられたソフト麺(画像:イメージ)

ソフト麺に合わせるものはトマトソース、カレーソース、みそラーメンスープ、醤油ラーメンスープ、けんちん汁、豚汁などがあります。

組み合わせのレパートリーの豊富さもソフト麺の便利な点です。

米飯給食が始まるまで、給食の主食は毎日パンでした。パンに使う粉を流用して麺を作れないか、と考えて作られたのがソフト麺です。

給食でも麺類が食べられることに、当時の子どもたちは大喜びしました。人気が凄まじく、ソフト麺の需要は伸び続けます。

老朽化と需要減に直面

昭和~平成中期の東日本では給食の定番だったソフト麺ですが、西日本だと提供されていない地域も多いので、ソフト麺を食べた経験のない方もいらっしゃることでしょう。

西日本には麺文化が根付いていたために、ソフト麺に頼る必要はないという風潮が背景にあったと考えられます。さぬきうどんのようなコシの強い麺が親しまれている地域では、ソフトな食感は受け入れられなかったのかもしれません。

平成後期になると、ソフト麺を作る機械や工場に老朽化の問題が出てきます。さらに給食室の設備が整ってきたことから、乾麺を茹でたり冷凍麺を使ったりする方向にシフトする学校が増え、ソフト麺の需要は減っていきました。

老朽化と需要減、この2つの理由が重なり、今ではソフト麺を通常注文できる機会がずいぶんと減りました。特別に注文すれば買えないことはありませんが、東京には工場がなくなってしまったので、値段が割高なため、乾麺や冷凍麺を使うことが一般的です。

福岡県では平成11(1999)年にソフト麺の給食提供を終了しています。

ただ、根強いファンは多く、一部のスーパーマーケットではソフト麺が今でも販売されています。懐かしの味を求める客のため、定期的に納品しているといいます。

また、全国どこでも注文が難しくなったわけではなく、いまだに給食の麺がソフト麺という地域も存在しています。たとえば静岡県では48社あった取り扱い業者が今は15社以下になっているものの、ソフト麺が給食で提供されているそうです。

『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)

松丸奨
管理栄養士、栄養教諭。東京都文京区の小学校で学校栄養士として勤務。

松丸奨
松丸奨

管理栄養士、栄養教諭。東京都文京区の小学校で学校栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。フジテレビ系ドラマ『Chef~三つ星の給食~』(2016年)で給食の監修・調理指導を担当。台湾・フィリピンなど海外でも食育指導を行う。メディア出演も多数。『給食が教えてくれたこと「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版)など著書多数