小・中学校のとき、給食が楽しみの一つだった人は多いだろう。

“給食マニア”で現役の学校栄養士の松丸奨さんは「給食は、その国の大人が子どもたちをどれくらい大切にしているのか、ということの映し鏡であると言える」と語る。

給食に携わる栄養士たちは、子どもたちに必要な栄養素を摂取してもらうために、日々試行錯誤をしている。

著書『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)から、栄養バランスと美味しさを踏まえて、食材別にどのような工夫を施しているのか、一部抜粋・再編集して紹介する。

栄養、完食、調理のしやすさ…たくさんの工夫

給食は、学校給食法が規定する「学校給食実施基準」にのっとって運用されていて、その一部である「学校給食摂取基準」が定める栄養素と、「学校給食の標準食品構成表」が定める食品摂取量の数値を満たす献立を作成しなければなりません。

しかし、いくら基準を満たす献立を提供したところで、児童生徒が食べ残すのでは意味がありません。

また、時間にも調理員の数にも限りがあるなか、効率よく調理できる献立であることも大切です。

学校栄養士の松丸奨さん
学校栄養士の松丸奨さん
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栄養バランスと美味しさを両立して完食してもらうために、そして効率のよい調理のために、栄養士がどのような工夫をしているのかをご紹介します。

きっとご家庭での献立作りや調理にも役立てていただけるところがあるのではないでしょうか。

まずは「標準食品構成表」に出てくる各食品群について、食べることを楽しんでもらいながら摂取量を上げていくために行なっている工夫を挙げていきます。

緑黄色野菜類は人参が活躍

給食でとくに活躍する緑黄色野菜は人参です。ほぼ毎日使います。

しかし、調理員の仕事は山ほどあって、野菜の切りものだけでも何種類もこなさなければなりません。たとえばカレーの日はサラダもセットになりがちで、さながら“切りもの祭り”になってしまいます。

人参、じゃがいも、玉ねぎ、サラダ用の野菜…。そのため、献立を作成する時は「サラダもスープも、どちらにもせん切り野菜が必要」という内容は避けるようにしています。 

“切りもの祭り”にならないように献立を作成(画像:イメージ)
“切りもの祭り”にならないように献立を作成(画像:イメージ)

ビタミンAの摂取量が十分なら、無駄に人参を多くする必要もありません。

作業効率を考えれば別の緑黄色野菜を増やした方がいい。ほうれん草や小松菜を積極的に使用すれば、鉄分とカルシウムも合わせて摂ることができます。

緑黄色野菜でもっとも悩ましいのは、価格の高さです。とはいえ替えが利くようなものではないので、緑黄色野菜に関しては節約したり、省いたりすることは考えず、積極的に摂取していくことで基準を満たすようにしています。

豆類は本当に苦手な子が多い食材です。基準値は大豆なら1人1回あたりで乾燥状態のものを10粒前後です。

スープに大豆が10粒も入っていると相当多く感じます。しかし鉄分不足の解消に役立つため、栄養面から見ても豆類は必ず入れなくてはいけません。

もちろん毎日摂る必要はなく、1か月を均した時に基準が満たせているように充足させていきます。活躍するのがカレーライスやシチューなどの人気メニューや、トマト系スープなどです。

大豆をペースト状やみじん切りにして入れ込みます。子どもたちにとって食べやすい形や味を模索しています。

高い固定費と捉える魚介類

魚介類については週1回、1人1切れの切り身を提供することで、基準をおおよそクリアできます。ただ魚は鶏肉や豚肉よりも値段が高く、毎回懐が痛い思いをしています。

給食用の魚選びに大切なのは、種類を吟味することです。安い魚はパサつきが出るので、ある程度予算がかかっても、よいものを選ぶほうが賢明です。私は「切り身の魚=高い固定費」と捉えるようにしてからずいぶんと気が楽になりました。

月に約4回切り身が登場することになるので、調理法に変化をつけてバラエティ豊かにします。焼き魚、煮魚、揚げ魚。なおかつ旬の魚を使うように心がけます。

切り身以外にツナ缶も活躍(画像:イメージ)
切り身以外にツナ缶も活躍(画像:イメージ)

春にはサワラやブリ、夏にはアジ、秋になれば秋鮭を指定し、冬にはサバやイワシ。それらを入れつつ、通年で手に入る冷凍のメルルーサ、赤魚、ノルウェーサーモンなどで構成していきます。

それでも切り身ばかりでは飽きてしまうので、重宝するのがツナ缶です。ツナ缶も幸い魚介類に含まれています。「油漬け」「水煮」の2種類があるので、栄養価との兼ね合いで選択します。

魚介類が足りていない時にサラダに入れて調整することも可能です。子どもたちにとって食べ慣れている味なので喜ばれる上に、野菜の残食も一気に減ります。

ツナ缶を大量に使用した「和風ツナパスタ」も人気献立です。

給食では冷凍の魚介類を使用するのが基本です。安価ですし、アニサキスや食中毒菌を、業務用の正しい冷凍法によって死滅させることもできます。サワラやアジは旬の時期であれば生鮮品を使用することもあります。

忘れていると海藻まみれになる藻類

海藻を使うことを忘れていると、月末のサラダやスープに大量投下せざるを得なくなり、給食が海藻まみれになってしまいます。そうならないように、少しずつでも毎日の献立に入れ込んでいく必要があります。

さほど難しいことではありません。サラダには海藻ミックスを、みそ汁や中華スープにはわかめを、和え物にも少量のわかめをというように、常に少しずつ入れるように意識をすれば大丈夫です。

「いつも何かしら海藻が入っているよね」と子どもたちに指摘されることもありますが、これも基準値を満たすため、致し方ありません。

「鉄」「亜鉛」は栄養士も悩みの種

食品の摂取量が基準に達したら、次は栄養素の基準値を満たす必要があります。この時、栄養士が頭を悩ませる栄養素は「鉄」と「亜鉛」です。鉄分の摂取は非常に難しく、全国の栄養士にとって悩みの種です。

栄養士の研修会でも、「学校給食で鉄分を効率よく摂取する方法」がよくテーマになります。レバーを使えば手っ取り早いのですが、子どもたちはレバーに苦手意識があるため、大量の残食が出る危険性もあります。もちろん美味しく作ればいいのだけれど、レバーに関してはなかなか勇気が必要なのです。

アサリの水煮は鉄分摂取に欠かせない(画像:イメージ)
アサリの水煮は鉄分摂取に欠かせない(画像:イメージ)

そこで鉄分摂取の必殺技となるのが、アサリの水煮です。みそ汁や中華スープに入れてもいいし、イカやエビと一緒にシーフードスパゲッティやシーフードカレーにしたものも人気です。こうすれば鉄分の摂取量を一気に0.5ミリグラム近く上げられるので重宝しています。

問題は、近年値上げが続いている点です。予算によってアサリの水煮が使えない場合は、大豆、ほうれん草、小魚などから鉄分を摂れるように常に意識しています。

一方の亜鉛は卵、アーモンド、ピーナツから摂取できます。しかし、これらは食物アレルギー物質でもあるため、頻度を高めるとリスクが増えてしまう懸念があり、使用をためらう栄養士もいます。

卵、アーモンド、ピーナツを使わないとなると、亜鉛は摂取するのが難しい栄養素になってしまいます。

亜鉛は高野豆腐にも含まれているので、スープに入れるなどの方法で摂取量を上げています。

『給食の謎 日本人の食生活の礎を探る』(幻冬舎新書)

松丸奨
管理栄養士、栄養教諭。東京都文京区の小学校で学校栄養士として勤務。

松丸奨
松丸奨

管理栄養士、栄養教諭。東京都文京区の小学校で学校栄養士として勤務。2013年、実際に提供されている給食の献立を競う「全国学校給食甲子園」(第8回)で、男性栄養士として初の優勝を果たす。フジテレビ系ドラマ『Chef~三つ星の給食~』(2016年)で給食の監修・調理指導を担当。台湾・フィリピンなど海外でも食育指導を行う。メディア出演も多数。『給食が教えてくれたこと「最高の献立」を作る、ぼくは学校栄養士』(くもん出版)など著書多数