島根・松江市の「一畑百貨店」が1月14日、営業を終了し閉店した。創業から65年、その歴史に幕を下ろした島根県唯一のデパートには、約1万2,000人が来店、別れを惜しんだ。その「最後の1日」に密着した。

にぎやかな風景が戻った最終日

JR松江駅前の「一畑百貨店」は2024年1月14日、最後の営業日を迎えた。

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開店の1時間前の午前9時、店の近くでスマートフォンを手にしていた女性は「最終日だからちょっと見ておこうかと思って。ずっとあったデパートなので、結構寂しい」と話ながら、店の外観を写真に収めた。
店の前では、他にも「一畑」最後の日を記録にとどめておこうと、多くの人が記念撮影をしていた。

そして午前10時。「いらっしゃいませ」と声がかけられる中、店員が扉を開けると、開店を待ちかねた人たちが店内になだれ込んだ。
久しぶりに見る、にぎやかな店内の風景だ。

訪れた客からは「閉店を知ってからは結構、来る機会が増えた。今月は5回目か6回目ではないか」「閉店になるなら、もっと買い物に来れば良かった」などの声が聞かれた。

買い物客は「最後に一畑で…」

店員が「本日が最終日となっています」と声をかける中、買い物を通じて最後の思い出づくりのために訪れた客も少なくないようだった。服を見ていた客は「思い出のある場所に浸りたかった」と話していた。

高価な品も多い絵画の即売会でも、「本当に最後に一畑で買ったというものが欲しかった」と話し、購入する客もいた。

閉店セールも最終日、高級品も飛ぶように売れていく。ペルシャじゅうたんの販売スタッフ・寺田眞典さんも「(売り上げは)3,000万円を超えたくらい。なかなかペルシャじゅうたんが180枚売れることないので」と声を弾ませた。

2023年末から開かれていたこのペルシャじゅうたんの特別販売会は、一畑ではこれまで年1回開かれてきた人気のイベントだ。

ペルシャじゅうたんの販売スタッフ・斎藤和敏さん:
閉店セールが31回目のじゅうたん展になった。僕は15年くらい来ている。寂しいですね

スタッフ「気が付けば40年」

一方、一畑で長年働いてきたスタッフも寂しさを募らせた。

UCCカフェメルカード松江一畑店・長澤あけみさん
UCCカフェメルカード松江一畑店・長澤あけみさん

地下のコーヒーショップで働く長澤あけみさん(69)は「気が付けば40年、ついにこの日がやってきたという感じで信じられない」と話す。長澤さんは、一畑が松江駅前に進出する前の旧店舗の時代も含め、40年間勤めてきた。

一畑百貨店の閉店を嘆く常連客
一畑百貨店の閉店を嘆く常連客

長い付き合いの常連客は「ここがないと寂しいよ。行くとこないしね」と嘆いた。
客との会話を大切にしてきた長澤さん、閉店を前にうれしいことがあったそうだ。

UCCカフェメルカード松江一畑店・長澤あけみさん:
私が店長している時代の学生さんが2~3人訪ねてきてくれて、その頃が20代ちょっとですよね、「44~45歳になったよ」「お母さんになったよ」って、きのう報告に来てくれました。うれしかったです。ちゃんと覚えててくださったということです

長年勤めてきた社員も複雑な思いで、最後の日を迎えた。

28年にわたって美術部門を担当してきた中村広部長
28年にわたって美術部門を担当してきた中村広部長

美術・リビング部・中村広部長(56)は「美術は28年、担当させてもらったが、百貨店マンとしては幸せだったと思います」と話す。

28年にわたって美術部門を担当してきた中村さんは、地元の芸術家にとって貴重な作品の発表の場でもあった百貨店がなくなることに心を痛め、複雑な胸の内を明かした。

一畑百貨店美術・リビング部・中村広部長:
地元の作家さんや、いろんな著名の先生を地域の人に知っていただける。そういったことを発信するのが、百貨店の美術の仕事だと思っていたので、伝えてきたわけですけど、最後はこういう形で終わるわけですよね

最後の時を迎えた一畑百貨店

買い物客、従業員、それぞれの思いがあふれた「一畑」最後の日。約1万2,000人が来店し、かつてのにぎわいを取り戻したかのようだったが、最後の時がついに訪れた。

午後6時半過ぎ、店の前には、歩道を埋めつくすほどの人が集まった。
そして、一畑百貨店・井上智弘専務が時折、言葉を詰まらせながら「ただいまを持ちまして、一畑百貨店、閉店いたします。長い間ありがとうございました」と挨拶し、営業終了が告げられた。

シャッターが下りると大きな拍手が送られ、かつて、ここが職場だったという人たちも、最後の瞬間を見届けた。

元社員の男性は「言葉にならない。一緒に働いたメンバーもいて。涙腺が弱くなってきてしまった」と頬をぬぐった。

また、元アルバイトの男性も「大学生の時に、物産展やお中元のところでアルバイトをしていた。やはり店がなくなってしまうのを目の当たりにして、寂しさと、お世話になったので感謝の気持ちでいっぱい」と話し、涙を浮かべていた。

多くの人に見守られながら、最後の時を迎えた一畑百貨店。
島根県内唯一のデパートが姿を消した。

(TSKさんいん中央テレビ)

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