企業の約4分の1がテレワークを断念
新型コロナウイルスの影響もあり、社会的な認知度が高まるテレワーク。しかし、企業の中には導入後の運用に失敗するなどして、元の働き方に戻ってしまうところもあるという。
信用調査会社の「東京商工リサーチ」は7月14日、コロナ禍が企業活動に与える影響などまとめた調査結果を発表した。これによると、企業の約4分の1がテレワークを実施したにもかかわらず、その後に取りやめてしまったことが分かったというのだ。
調査は6月29日~7月8日、インターネットによるアンケート形式で実施。テレワークについては全国の1万4356社の有効回答から現状を分析した。ここでは資本金1億円以上を大企業、1億円未満を中小企業と定義して、両者の違いも比較している。
調査ではまず、コロナ禍でテレワークを実施したかを尋ね、3つの選択肢、1「現在、実施している」、2「新型コロナ以降に実施したが、現在は取りやめた」、3「新型コロナ以降、一度も実施していない」から、当てはまる回答を選んでもらった。
その結果、全体では、4453社(31.02%)が現在も実施している、3845社(26.78%)は実施したが取りやめた、6058社(42.20%)が一度も実施していないと回答した。
また、大企業と中小企業を比べたところ、大企業(2400社)は現在も実施していると答えたのが55.21%と最も多かったのに対し、中小企業(1万1956社)は一度も実施していないが47.64%と多かった。
ただ、「現在も実施している」と答えた企業に、従業員の何割が実施しているか聞いたところ、大企業では「5割以上」の割合が49.42%だったのに対し、中小企業ではこれが51.62%だった。
中小企業はテレワークの実施率は低いものの、できている企業では従業員の過半数がテレワークしている結果となった。
有給休暇が「減った」ところも
調査ではさらに、「現在も実施している」と答えた企業に、実施前と比較して有給休暇の取得率が変化したかも聞いている。
そうしたところ、71.13%(3312社)が変わらない、14.72%(648社)が増えた、14.15%(623社)が「減った」と回答していた。
それでは、なぜ有給休暇が減ったのか?
企業に理由を聞くと、「在宅勤務でプライベート時間が増え有休の必要がなくなった」が最も多く、次に「在宅勤務で心身の負担が軽減され有休の必要がなくなった」、「出勤者が少なく有休取得の調整が困難になった」と続いた。
テレワークは働き方にも変化を与えているようだが、中には「オンオフの切り替えが曖昧になり、休暇を取るタイミングを逸している」という理由もあり、企業次第のところもあるようだ。
しかし、政府の「新型コロナウイルスに関する基本方針」として、テレワークが2月に示されたものであるのにも関わらず、企業がすでに断念してしまうのはなぜだろう。
継続的に成功させるため、企業は何ができるのだろうか。東京商工リサーチの担当者に聞いた。
テレワークは休暇と捉えられている企業も…
――テレワークを断念する企業もあるが要因は?
企業の回答を見ると、管理職がリモートに積極的でなく利用が進まなかった、管理職への指導も必要だったという意見が見られました。また、テレワークはプライベートを侵食してオンオフの切り替えができない、情報セキュリティや業績評価の対応が難しいという声もありました。この辺りが要因になっていると考えられます。
――企業側はなぜやめてしまう?
セキュリティや業績評価の部分で問題を抱える企業は多いと思います。個人的には、在宅勤務などはワークライフバランスが取りやすくていい効果がある反面、企業側には“ある種の休暇”と捉えられているところもあるのではないかと思います。
調査では、在宅勤務が有給休暇の取得状況にも影響を与えていて、有給が減った企業に理由を聞くと、プライベートの時間が増えて有休の必要がなくなったとの回答もありました。労務管理・業務管理の難しさが浮き彫りにしているのではないでしょうか。
中小企業は従業員が“多能工化”している
――大企業と中小企業にはどんな差がある?
テレワークを取りやめた割合で見ると、大企業も中小企業も大きな差はありませんが、テレワークを一度もできていない割合で見ると、中小企業はかなり多くなっています。ここはさまざまな理由が考えられますが、従業員一人一人が“多能工化”していることが考えられます。
中小企業は大企業のように分業ができていないので、一人が総務、人事、経理を兼職するなど、多くの職務を担う傾向にあります。そのため、テレワークと並行して、誰かがローテーションで出社するようなことが難しいのではないでしょうか。
――テレワークが苦手な企業に共通点はある?
回答には、緊急事態宣言下では出勤率の目標設定があり、テレワークできたが、今はしにくい雰囲気が会社にあるという意見もありました。社長を含めた管理職側に、意識改革などの点でまだ課題があるのではないでしょうか。
また、テレワークの実施には、パソコンの支給やVPN(Virtual Private Network)の環境を整えるなど、制度変更やインフラへの投資が最初に必要になります。在宅勤務などに社内規則が対応していない企業も多くありますので、そのあたりが課題と考えらえます。
――テレワークが不向きな業界・業態はある?
接客や工場での作業など、作業場に行かないと仕事が成り立たない業種は難しいです。そのような立場の人はどうしようもないので、そうした人々が出勤されても、企業内や社会全体が密にならない状況をどう作っていけるかだと思います。
企業も手探りの状態が続いている
――企業がテレワークを活用するポイントは?
正直、現状では分からない部分が多いです。調査では「新しい生活様式」が業績にどう影響しそうかも聞いていて、約6割がどちらともいえないと回答しています。企業も手探りの状態なので、失敗事例や成功事例の蓄積と共有が大切になると思います。
企業としてテレワークを推進したいのであれば、社長を含めた管理職側が積極的にテレワークを利用することも必要になるでしょう。
――コロナ禍で企業の働き方は、どうなる?
テレワークができる企業、できない企業に分かれると思います。調査結果でも、テレワークを実施する中小企業は少ないですが、やれているところは大企業よりも本格的に深度が深くできていることが分かっています。できる企業、できない企業の差は広がっていくと思います。
この差は業種にもよりますが、経営層・マネジメント層の本気度をどこまで落とし込めるかの差だと思います。定着させるには、資金面などの支援制度も必要になってくると思います。
セキュリティや業務管理などで難しい点があること、特に中小企業では従業員が複数の職務を兼任していることが、テレワークを断念する要因となっているようだ。
ただ、企業規模にかかわらず実施できている企業もあるので、企業側は諦める前に、まずは社内インフラの整備や管理職の意識改革、従業員のタスク管理などを検討するべきかもしれない。
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