軍事転用可能な精密機械の不正輸出で逮捕・起訴された後、起訴取り消しとなった横浜市の「大川原化工機」の社長ら3人が、国と東京都に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は「逮捕したことは違法」との判決を下した。国と東京都に対して、合わせて約1億6000万円の賠償を命じた。

「逮捕は違法」大川原化工機が勝訴

軍事転用可能な機械を不正に輸出したとして逮捕・起訴され、異例の「起訴取り消し」となった会社の社長らが、国などに損害賠償を求めた裁判。東京地裁は12月27日、国と東京都に賠償を命じる判決を言い渡した。

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横浜市の機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長ら3人は2020年、軍事転用可能な精密機械を不正に輸出したとして逮捕・起訴されたが、その後、東京地検が起訴を取り下げた。

大川原社長らは「捜査が違法だった」として、国と都に損害賠償を求める訴えを起こしていた。

東京地裁は判決で、「警視庁が通常の捜査を遂行すれば、輸出規制の要件を満たさないことの証拠を得ることができた」と指摘し「逮捕したことは違法」と判断した。

また、検察についても「必要な捜査を尽くすことなく行われた起訴などは違法」と認定し、国と東京都に対して、合わせて約1億6000万円の賠償を命じた。

このニュースについて、裁判を傍聴した社会部・松木麻記者がお伝えする。「逮捕が違法だった」と認める判決が出たが、具体的にどこが違法な逮捕だったのだろうか。

そもそもこの事件は、「軍事転用が可能な機械を不正に輸出した」という疑いで逮捕されたものだが、「軍事転用可能な機械」とは「滅菌または殺菌できるもの」という定義がなされていた。

そのために「一定程度温度が上がるか」が基準となっていて、警視庁側も会社側もそれぞれ実験を行っていた。

会社側から「機械内部に温度が上がりにくい部分がある」と聞いていたにもかかわらず、警視庁がその部分をもう一度温度測定していなかったことが「当然必要な捜査」をしなかったと判断され、判決では「違法逮捕」の理由に挙げられた。

ただ、今回の裁判で注目された現役の捜査員による「事件はねつ造」という証言については、判決の中では触れられていない。

勾留中に胃がんが見つかり…

逮捕され、1年近く勾留された3人の中には、起訴取り消しの知らせを知ることなく亡くなってしまった人もいる。家族はどんな思いで判決を受け止めたのだろうか。

大川原化工機の元顧問・相嶋静夫さん(当時72歳)は勾留中に胃がんが見つかり、その後亡くなっている。相嶋さんが亡くなる2カ月前に入院先の病院から、孫たちに宛てたメッセージがある。

「元気ですか?じいじはあんまり元気ないけど、頑張っているよ」

勾留中に病状が悪化していく相嶋さんを見て、家族は当時、病院でより良い治療を受けるため、保釈が認められるよう、相島さんにこんな提案をしたという。

より良い治療を受けるため「虚偽の自白になるが検察官の言う通り供述し、保釈してもらい病院に行こう」と提案したという
より良い治療を受けるため「虚偽の自白になるが検察官の言う通り供述し、保釈してもらい病院に行こう」と提案したという

亡くなった相嶋さんの長男:
虚偽の自白になるけど、もう検察官の言う通りに検察官のストーリーにあわせた供述をして、さっさと保釈してもらって病院に行こうって(言った)。父ってそういうの許せない人間なんですよ。嘘をつくとか、曲がったことをするのが。間違ったこと言っている警察や検察のストーリーに乗っかるわけには、死んでもできないと思ったんでしょう。

相嶋さんは勾留が一時停止され入院したが、その後病状が悪化し亡くなったため、起訴取り消しの知らせを聞くことはなかった。

一貫して無実を訴えていた相嶋さん。判決を受けて、会社側の代理人は「逮捕の違法性が認められ、良い判決と受け止めている」とコメントしている。
(「イット!」 12月27日放送より)

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