ビジネスシーンでは、結論や主張から話すことが重要。それはわかっていても、なぜか長々とした説明や回りくどい言い回しをしてしまうことが多い。
YouTubeチャンネル「マナビジネス」を運営し、5000人超にプレゼン指導をした現役コンサルタントのしゅうマナビジネスさんは、言いたいことは「3秒で伝える」意識を持つことが大切だという。
なぜ「3秒」なのか。
『3秒で伝える コンサルが使う「シンプルな言葉で相手を動かす」会話術』(扶桑社)から、一部抜粋・再編集して紹介していく。
なぜ30秒でも1分でもなく「3秒」にこだわるべきなのか。その理由は3つあります。
【1】相手の集中力が続く
そもそも、相手はあなたが思っているほど話を聞いてくれていません。いや、むしろ「長い話を集中して聞けない」と言ったほうが正しいでしょう。
現代人の集中力は劇的に低下しているというデータがあります。
現代人の集中力は金魚を下回る?
米マイクロソフト社のカナダの研究チームが2015年に発表した資料によると、「現代人の集中力は8秒で、金魚の集中力9秒を下回る」という結果が報告されています。
これは約2000人の脳波などを測った結果で、2000年には12秒程度だった人間の集中の持続時間が、2013年の調査では8秒へと短くなったそうです。
もちろん、その日のコンディションなどによって集中力に差は生じますが、PCやスマホの普及によって過剰な情報量に晒されている今、一つのことへの集中力が総体的に落ちてきているのは間違いないでしょう。
仕事上の重要なやり取りでも、30秒や1分といった時間でさえも最後まで集中できない人が多くいる。これは現代では、もはや普通のこと。
我々はその前提でコミュニケーションをデザインしたほうがいいのです。
言葉を選ぶほど伝えたいことが磨かれる
【2】言葉がシンプルになる
3秒で伝える意識を持つと、あなたの言葉は研ぎ澄まされていきます。
例えば、あなたが「桃太郎」のストーリーを伝える機会があったとして、次の2つの質問に沿って説明してみてください。
質問(1) 桃太郎を30秒で要約すると、どんな物語ですか?
質問(2) 桃太郎を一言で紹介すると、どんな物語ですか?
質問(1)の場合、おそらく桃太郎のストーリーに沿ってこんな感じで説明すると思います。
「ある日、おばあさんが川で大きな桃を拾い、家に持って帰りました。おじいさんがその桃を割ってみると中から男の子がとび出しました。2人はビックリして、その子を桃太郎と名づけました。
大きくなった桃太郎は、ある日鬼ヶ島にいる鬼の悪い噂を聞き、鬼退治に出かけることになりました。桃太郎は犬・猿・キジを仲間にし、鬼ヶ島に渡りました。桃太郎は犬・猿・キジとともに鬼を退治し、おじいさん、おばあさんといつまでも幸せに暮らしました」
これを実際に読み上げてみると、だいたい30秒になります。
では質問(2)です。桃太郎を一言で言うと、どんな物語ですか?
おそらく皆さん、少し考えた後にこんな感じで答えると思います。
「桃から生まれた桃太郎が、鬼を退治する物語です」
こうして2つの文章を比較するとわかりますが、30秒という時間だとかなり多くの情報を盛り込めます。
情報の多さが理解の妨げになる
今回は桃太郎というわかりやすい例なので理解しやすいですが、これが仕事の報告や説明だと、相手は一度に多くの情報を伝えられるので、たった30秒でも複雑だと感じるはずです。
一方で、3秒で伝えることを意識すると、内容がとてもシンプルになります。
「桃から生まれた桃太郎が、鬼を退治する物語です」という一言には、おじいさんやおばあさんは登場しませんし、犬、猿、キジも出てきません。
しかし、物語の全容を捉えていてどんな物語であるのかはシンプルに伝わります。
このように「3秒で伝える」という意識を持つと、あなたのメッセージがシンプルになり、相手にとって理解しやすい内容になるのです。
一言で伝える5段階の思考プロセス
【3】「ロジカルに考える力」が自然と身につく
ここでもう一つ質問です。
先ほどの桃太郎を30秒で要約する場合と、一言で伝える場合に、それぞれどういったプロセスでまとめましたか?思い出してみてください。
まず30秒で要約したときです。
おそらく頭の中では、おばあさんが川へ洗濯に行く場面から、最後に鬼を退治して帰ってくる場面までを順番に並べていったはずです。
各シーンをダイジェストのようにつなげて、短すぎたら補足し、長すぎたら削っていく。そうやって30秒に要約したと思います。
一方で、桃太郎の内容を一言で伝えるためにはどのように考えたでしょうか?
おそらく、無意識のうちに次のような5段階の思考プロセスを踏んだはずです。
【1】どう回答すればいいのかを整理する
「どういう物語なのか」を説明しつつ「一言」でまとめればいい
【2】「論点」を立てる
「物語が理解できる最もコアな部分は何か?」という論点を立てる
【3】全体からポイントを探す
(1)「主人公は桃から生まれ桃太郎と名づけられた」
(2)「犬、猿、キジを仲間にした」
(3)「鬼ヶ島に渡り鬼を退治した」という物語のポイントを抽出する
【4】「最も重要な部分」を選ぶ
今回の回答に必要なのは(1)と(3)の要素だと判断
【5】短いシンプルな言葉にする
「桃から生まれた桃太郎が鬼を退治する物語です」
このように、シンプルな言葉の裏には複雑な思考プロセスが隠されています。
30秒は「短縮」 3秒は「抽出」
2つの回答で、それぞれの頭の使い方の違いを比較すると、30秒の説明では「物語の流れに沿って、少しずつ短くする」、3秒の説明では「全体からコアとなる出来事を抽出してシンプル化する」といった違いがあります。
30秒の説明の場合、特に思考を働かせなくても、長い文章を短くする“単純作業”だけで十分にできてしまいます。
一方、3秒の一言で伝えるとなると、たとえ桃太郎のようなわかりきったストーリーであっても、少し立ち止まって頭の中で整理しないといけません。
つまり、30秒や1分、3分などで伝える場合と、3秒で伝える場合の決定的な違いは「本質的なメッセージを考える」ところにあるのです。
もちろん、現実のビジネスシーンでは30秒でも短いし、1分や3分で説明する場面のほうが多いのは事実です。
ただ、今回の例のような意識をしないと、出来事を単に時系列で説明するだけになってしまい、論理的な思考は身につきません。
重要なのは「本質的なメッセージは何か?」「どう伝えれば、相手に一言でも伝わるのか?」「そのメッセージを伝えるための究極の一言は何か?」そんな思考を繰り返すことです。
そして、これは実質的にロジカルシンキングと同じ思考訓練をしているのです。
【POINT】
物事の本質を考えないと、ただの「作業的な説明」になる
しゅうマナビジネス
大阪府出身。ITソフトウェア企業を経て、総合系コンサルティングファームに転職。現在は経営管理・IT領域を中心としたコンサルティング業務に従事。コンサル業と並行してプレゼンや思考法の専門家としてセミナー講師などで活動。YouTubeチャンネル『マナビジネス』では「学び」+「ビジネス」をテーマに仕事術についての情報を発信している。