2023年7月に秋田県内を襲った記録的な大雨から4カ月余りがたち、各地で復旧が進む一方で、自宅を手放したり店を閉めたりせざるを得ない人たちもいる。長年にわたり地域医療を支えてきた秋田市のクリニックは、12月に閉院することを決めた。

異例の「MRI」2台体制での診療

秋田市南通にある秋田メモリアルクリニック。患者と向き合う渡邉克夫院長(59)は、脳神経外科が専門で、頭痛外来をはじめ、整形外科や健康相談など1日平均70~80人を診察してきた。

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この日訪れた患者に、渡邉院長は「申し訳ないけど、このクリニックは夏の水害で12月で閉めるので、今後の検査について希望のところを紹介という形なんです」と告げた。

クリニックは、この夏の記録的な大雨で被害を受け、12月9日で閉院することが決まっているのだ。渡邉院長は、クリニックの開業から3年後の2000年に、前任者を継ぐ形で院長に就任した。

秋田メモリアルクリニック・渡邉克夫院長:
当時からMRIがあり、すぐ検査できる体制があった。頭を診るものとしては非常に魅力的だなと

MRI(磁気共鳴画像)検査は強力な磁石と電波を使い、体の断面を様々な方向から画像にすることができる。

2007年にはMRIを1台追加し、クリニックとしては異例の2台体制での診療になると、近隣の総合病院や開業医からも検査の依頼が相次いだ。また、頭痛や腰痛など痛みを訴える外来患者の検査も予約なしで行えるようになった。1年間の検査数は5,500件にも上る。

復旧費用は約4~5億円

そんなクリニックを襲ったのが、2023年7月の記録的大雨だ。

秋田メモリアルクリニック・渡邉克夫院長:
5時ぐらいに帰ろうと思ったら、職員玄関のところに水が上がってきているのを見て、あっという間に足首まで上がってきた。MRIが心配だったので、がっちりドアを閉めて防水を試みた

床上30cmほどまで浸水し、2台のMRIの他、CTやレントゲン装置、建物の損傷など大きな被害を受けた。

秋田メモリアルクリニック・渡邉克夫院長:
復旧するのであれば、全部(新品の医療機器に)入れ替えなければいけない。水害に対する対策も含め、この建物も築26年で老朽化しているので、約4~5億円はかかるだろうと、“自力再生は困難”という判断

水害から1カ月後の8月15日に、クリニックを経営する医療法人が閉院を決めた。

秋田メモリアルクリニック・渡邉克夫院長:
この病院は、もう今までのような機能は果たせないんだなと。患者を診察していかなければならないのを、機械のストップで止めてしまい非常に申し訳ない

無駄ではなかった26年

現在は、薬の処方や温熱療法など一部の診療のみ行われている。

患者:
ただただ残念。MRIが当日撮れる特徴あるクリニックなので、患者も困るのではないか

患者に惜しまれる中、クリニックはこれまでに1,200件ほどの紹介状を発行した。町医者だった父に憧れ、医療の道を志したという渡邉院長は、これまでの感謝の気持ちを込めて患者を送り出している。

秋田メモリアルクリニック・渡邉克夫院長:
閉院するということで、いろいろな人が来て感謝の言葉を言ってくれると、医者冥利(みょうり)に尽きる。26年やってきて無駄ではなかったと。今は無事、ここの病院を閉めて、患者に“卒業証書”ではないけど紹介状を渡して、また新しいところで診てもらえるようにと。今はそれが一番の目標、仕事です

(秋田テレビ)

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