長野県中野市で4人が殺害された事件から25日で半年。青木政憲被告は殺人の罪で起訴されたが、弁護側は改めて精神鑑定の申し立てを検討していて初公判の日程は見通せない状況だ。専門家は裁判の争点は「責任能力」の有無になると指摘している。

4人を殺害した罪で起訴

「ぼっちとばかにされていると思った」

女性2人を殺害した動機について、こう供述していた青木政憲被告。

11月16日、殺人の罪で起訴された。

中野市の農業青木被告は2023年5月25日、散歩していた女性2人と駆け付けた警察官2人を猟銃やナイフで殺害した罪に問われている。

事件現場
事件現場
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留置場でも「ぼっちと言われる」

事件では青木被告に刑事責任が問えて起訴できるかが注目された。

被告は女性2人を殺害した動機について、「『ぼっち』とばかにされていると思った」と供述していたが、警察は一方的な思い込みの可能性があるとみていた。

接見を続けている担当弁護士によると逮捕後の留置場でもこう話していたという。

「監視員からぼっちと言われる」

担当弁護士は思い込みではないかと話している。

移送される青木政憲被告(5月26日夜)
移送される青木政憲被告(5月26日夜)

その後、検察は精神鑑定などを行う「鑑定留置」を3カ月実施。そして、11月16日に「刑事責任が問える」として殺人の罪で起訴した。

担当弁護士によると鑑定留置中は好きな植物のツバキや自然の写真集などを見て静かに過ごしていたという。

ただ被害者や遺族について質問しても何も答えなかったという。

事件の経過
事件の経過

弁護側は“精神鑑定”検討

また、青木被告は自分の両親との面会は断り弁護士に次のように話したという。

「元気にしていますと伝えてください」

被告の両親は事件から3カ月の際、加害者家族を支援する団体を通じて「ただ、被害者に申し訳ない気持ちです。親として後悔の毎日です。謝っても謝りきれません」などとコメントした。

半年を前にあらためて取材を申し込んだが団体から返答はなかった。

青木被告の自宅
青木被告の自宅

事件から半年。

裁判で弁護側は実行行為については認め、責任能力や量刑を争う方針。

改めて精神鑑定を申し立てることも検討しているということで、初公判の日程は見通せない状況だ。

移送される青木政憲被告(11月8日)
移送される青木政憲被告(11月8日)

裁判の争点は「責任能力」の有無

元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は、裁判の争点は「責任能力」の有無になると指摘している。

責任能力が争われる場合、心神喪失と心身耗弱が議論される。

心神喪失は「精神障害のせいで善悪を全く判断できない状態」、心神耗弱は「精神障害のせいで善悪の判断力が著しく低い状態」のことを指す。

心神喪失と心神耗弱が議論に
心神喪失と心神耗弱が議論に

法政大学法科大学院の水野智幸教授は、「心神喪失と認められれば犯罪は成立せずこれは『無罪』となる。心神耗弱であれば死刑はないことになるので『無期懲役』、あるいは『有期懲役』ということになる。完全責任能力になると、今の裁判所のいわゆる基準だと、殺人の場合には3人以上だと死刑になる例がいくつかある、2人以下だと原則的には死刑にならないということが多いから、今回の事件は4人ということであれば、死刑となりうる事案なのではないか」と見ている。

法政大学法科大学院・水野智幸教授
法政大学法科大学院・水野智幸教授

また、水野教授は検察側は「責任能力があり自らの判断で罪を犯した」と主張し、弁護側は「精神障害が影響し、心神喪失か心神耗弱だった」と主張するのではないかとしている。

裁判が始まれば青木被告の殺害動機や犯行に至るまでの背景など本人の証言も重要になってくるという。

検察側、弁護側の主張 水野教授の見立て
検察側、弁護側の主張 水野教授の見立て

(長野放送)

長野放送
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