刑務所に服役し出所後に犯罪を繰り返す、再犯者の問題が年々深刻になっている。こうした状況を改善しようと、刑務所や少年院を出た人の就職や住まいを支援するプロジェクトが宮城でも始まっている。

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更生で重要な「人とのつながり」

取材に訪れたのは、仙台市にある東北少年院。少年たちが手際よく食事の準備を進めていた。

ここでは、事件を起こし、家庭裁判所から矯正教育が必要とされた20人ほどの少年たちが、社会復帰のために必要な生活指導や職業訓練を受けている。

少年の1人に話を聞くと、「そもそも窃盗などについて犯罪だという意識がなかった。どうしてダメなのか、ここに来て深く考えるようになった」などと話してくれた。

ほどなくしてテーブルには、おしるこやパンが並ぶ。背筋を伸ばし椅子に座り、掛け声に合わせて頭を下げ、一斉に食事を取り始める少年たちが印象的だった。

そんななか年々深刻になっているのが、刑務所で服役し出所、または少年院を出院したにもかかわらず、再び犯罪に手を染めてしまう「再犯者」の存在だ。刑法犯の数が年々右肩下がりに少なくなっている一方、再犯者数は減少幅が小さく、割合的には増加傾向にあるという。その割合は2021年で48.6%。2人に1人に迫る勢いだ

そんな少年たちの更生に重要とされているのが、少年院を出た後の「働き先」だとされている。

法務省の調査によると、刑務所や少年院を出た後、仕事があるかないかで再犯率にはおよそ3倍の違いが出ているのだ。なぜ、仕事の有無で再犯率が変わるのか。

背景には「収入だけでない、ある大切なものがある」と、少年院の担当者は話す。

「給料を得るということだけではなくて“人とのつながり”がすごく大事になってくる。悪いことをしそうになったときに、誰かの顔が頭に浮かんで『裏切りたくない』『気まずい』という気持ちで思いとどめる“人とのつながり”は再犯防止にはすごく大事」
(東北少年院・法務教官)

宮城でも支部が発足「職親プロジェクト」

「一人でも多くの社会復帰を後押しし、犯罪を未然に防ぐ」。そんな思いで2013年から官民連携の取り組みが始まった。その名も「職親プロジェクト」。

5月 仙台市で開かれた職親プロジェクトの会合 現在 約10社の企業が活動に参加している
5月 仙台市で開かれた職親プロジェクトの会合 現在 約10社の企業が活動に参加している

保護司などこれまでの支援に加えて、企業も親代わりとなって職と住まいを提供することで、再犯を防ぎ、犯罪被害を減らすことを目指している。宮城県でも2022年に支部が発足。理念に賛同した約10社の企業が現在参加している。

「職親プロジェクト」宮城支部 笹川慎太郎支部長
「職親プロジェクト」宮城支部 笹川慎太郎支部長

東松島市を拠点に、「熱絶縁工事」という専門的な工事を手がける柳澤工業もプロジェクトに参加した企業の一つ。

9月某日、社長の柳澤岳志さんが向かったのは、山形。
受け入れを検討している山形刑務所の受刑者の面接をするのだという。

どういういきさつでどんな事件を起こしたのか聞きたい

職親プロジェクトに参加する柳澤工業 柳澤岳志社長
職親プロジェクトに参加する柳澤工業 柳澤岳志社長

若かりし頃、自身も非行に走った経験があるという柳澤社長。どうしても、直接目を見て、直接本人と話をしたかった。

「僕自身、すごく運がよかった。自分で会社を持てて、従業員を育てることができている。出会いの運などをつかむことができれば、自分自身の気持ちさえ変えることができれば、みんなにチャンスがある
(職親プロジェクトに参加・柳澤工業 柳澤岳志社長)

会社での柳澤社長(右)
会社での柳澤社長(右)

車を走らせること、約1時間。柳澤社長は山形刑務所に到着。面接をしたのは、詐欺や窃盗の罪で服役している30代の男性受刑者だった。1時間にも及んだ面接。「すごくいい出会いだった」と柳澤さんは手ごたえを感じていた。

山形刑務所に到着した柳澤社長
山形刑務所に到着した柳澤社長

その足で会社に戻った柳澤さんは、さっそく面接での印象を社員に報告した。採用となれば、実際にともに働くことになるのは社員たち。それぞれが気になることは何なのか、どうやったら一緒に働けるのかをじっくり話し合っていた。

プロジェクトに参加すること自体、前向きでなかった社員がいるのも事実だ。

「出所後に再び犯罪に手を染め、また刑務所に入る人もいる」リスクは決して少なくない。そんな中でも、「更生のきっかけを与えられたら…」そんな思いが柳澤さんを突き動かしていた。

誰もがやり直せるチャンスを

11月、東北少年院である催しが開かれた。「職親プロジェクト」の一環として行われた、企業説明会だ。

柳澤さんも説明会に参加。仕事内容の説明をするとともに、自身の経験を踏まえながら、思いを少年たちに伝える。

「私自身、若い時はあまり素行が良くなかった。僕は正直、中学校までしか行っていません。でも仕事を一生懸命頑張って29歳の時に自分で会社を作りました。皆さんが今何歳か知らないですが、全然可能性はあります」
(柳澤工業 柳澤岳志社長)

伝えたいのは、誰もがやり直せるチャンスを持っているということ。会場からは大きな拍手が上がっていた。柳澤さんの話を聞いて、少年たちは何を思ったのか。

窃盗や傷害といった事件を起こして在院する少年の1人は「プロジェクトは、自分にとってはありがたい存在。家族関係が複雑なので、出所後住み込みで仕事をさせていただく可能性が高い。自分みたいな境遇の人でも頼れる人がいるというのはありがたいです」などと話した。

再犯を防ぐために必要な“人とのつながり”。犯罪による被害者が一人でも減ることを願って、更生支援の新たなネットワークが生まれている。

(仙台放送)

仙台放送
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