2023年6月、仙台市水道局は大手総合商社・丸紅とある業務契約を締結した。それは、人工知能=AIによる老朽化水道管の分析業務。AIを活用して老朽化した水道管を選別し、効率の良い更新作業につなげようというのが狙いだ。地下に埋設され、全国的に老朽化が進む水道管。効率の良い更新作業の一翼を担うと期待が寄せられている。

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水道管老朽度合を「AI」で分析

AIによる分析システム「infrawise(インフラワイズ)」は、大手総合商社・丸紅の子会社「AGS社(上下水道事業会社)」が開発したものだ。

これまでは、使用年数と材質のみで予測していた水道管の老朽度合いを、「埋設場所」「土壌」「流水量」「過去の破損・漏水歴」「内面塗装」など16の情報から予測し、管1本ごとの想定使用年数を算出するというシステムになっている。

2022年7月 仙台市青葉区台原で水道管が破裂
2022年7月 仙台市青葉区台原で水道管が破裂

地面を掘らなければ状況を確認できない水道管の現状を、客観的データに基づいて推測できるのは大きなメリット。海外ではポルトガルやチリ、フィリピンなどの10の自治体で活用され、国内では、栃木県足利市など4つの自治体と、北陸地方の民間事業者が契約している。

4500キロの上下水道の更新

今回の業務委託の背景には、迫り来る更新時期と膨大な水道管の数にある。

仙台市水道局によると、市内には約4500キロメートルの上下水道が埋設されていて、多くが1970~1980年代に施工された。

地下に埋設されている水道管(提供:仙台市水道局)
地下に埋設されている水道管(提供:仙台市水道局)

材質は「ダクタイル鋳鉄管」や「硬質塩化ビニル管」の2つが多く使われ、市は「ダクタイル鋳鉄管」の耐用年数を60年から100年。「硬質塩化ビニル管」の耐用年数を40年から60年と試算している。

早ければ、すでに更新時期は来ていると見込まれるが、想定耐用年数の幅も大きく、更新作業の優先順位を決めるのも難しい状況にあるのだ。

漏水事故回避率は5倍に?

こうしたなか、11月22日、仙台市水道局で開かれた会議では、丸紅の担当者が分析の中間報告を行った。

仙台市水道管改修事業に関する説明会
仙台市水道管改修事業に関する説明会

担当者はAIの分析を更新作業に反映させることで、従来の分析方法による更新作業に比べて、5倍程度、水道管破損による漏水事故を回避することができると報告した。

全国で発生する水道管の事故は年間で約2万件。水道管の老朽化は全国的な課題となっている。

2021年10月には、和歌山県和歌山市で水道管が通る橋が崩落し、市内の約6万戸が断水する事案も発生。復旧までに1週間の時間を要することとなった。

和歌山県で発生した水道橋崩落(2021年)
和歌山県で発生した水道橋崩落(2021年)

各地では地震などにより漏水が発生する例も多く確認されている。
計画的に更新していかなければ、事故を発生させる恐れのある水道管の割合は、増えていく一方だろう。

水の安定供給を

仙台市と丸紅は今後、住民数や病院、避難所などの立地場所なども踏まえ、水道管の重要度も加味しながら、更新の優先順位について2024年2月に最終報告を行うとしている。

その結果を踏まえ、2025年度以降の更新計画を作成し、入れ替え作業を進める方針だ。

仙台市によると2021年度に更新した水道管は約29キロ。2022年度は約37キロにとどまっている。

年間35キロのペースで更新が進むと仮定すると、すべての水道管を更新するのに約130年かかる計算だ。

地下に埋設されている水道管(提供:仙台市水道局)
地下に埋設されている水道管(提供:仙台市水道局)

仙台市水道局の担当者は「水道管は地下に埋まっているので、現状が把握しにくかった。このAI分析を生かして、市民の皆様に安定的に水を供給できるように今後の事業運営に生かしたい」としている。

AIが日本の水道インフラの更新作業を救う一翼となるのか。
その効果に期待が寄せられている。       

(仙台放送)

仙台放送
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